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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第6部: 竜を殺める毒
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35. リーナとエドワードの竜を殺める薬の完成

「リーナいるかい?」

 リーナの薬の調合(ちょうごう)部屋を(のぞ)いてエドワードは言った。

 リーナはエドワードの声にどきっとした。無意識(むいしき)に胸が高鳴る。


「あら、エドワード。相変(あいか)わらず暇そうね」

 リーナは平静(へいせい)(つくろ)ってわざと軽口を(たた)いた。


「よく分かったね」

 エドワードは退屈(たいくつ)()(あま)しているのを隠しもせずに答えた。


「ロベルトは何してんの? 王都(おうと)に帰らないの?」

 リーナは率直(そっちょく)に聞いた


 リーナの言葉にエドワードはムッとした。

「王都に帰れって言ってる? そんなに俺たちに帰ってほしいかよ。俺たちはまだここに仕事が(のこ)ってるんで」


 エドワードの言葉に、リーナは意外(いがい)そうな顔をした。

「ええ? まだ仕事終わってなかったの? カレンの(けん)はお(しま)いでしょ?」


 おまえの(けん)だよ、とエドワードは思った。


 ロベルトに話を聞いてから、夜を(てっ)して外を監視(かんし)していたエドワードは、確かに夜中(よなか)外出(がいしゅつ)するリーナの(かげ)(みと)めた。


 夜中よなかのに外出(がいしゅつ)など(あぶ)なっかしくて飛び出したくなる気持ちや、(かく)し事されて悲しい気持ち、本当は男と密会(みっかい)してるんじゃないかという嫉妬(しっと)に似た気持ちなどがぐるぐると頭を回って、エドワードは(ねむ)れない夜を()ごした。


 エドワードは、大あくびをしながらリーナの横の椅子(いす)に座り、しぼらくリーナを、(なが)めていた。


 リーナ、おまえは俺に何を隠している。あんなことくらいで、おまえが俺のものになったとは思わないが、それでも。もうずっと、俺はお前のことを考えて、眠れない日々を過ごしているぞ。


 リーナはエドワードの視線(しせん)に気づいていたが、身分が違う人、軽々(かるがる)しく信用してはいけない人、と自分に言い聞かせ、気付かぬふりをして薬玉(くすりだま)を箱に並べていた。


 リーナも迷っていた。エドワードの率直(そっちょく)(おも)いを受け入れていいものか。


 でも、リーナには、身近(みぢか)に男の人の参考になる者がシャールくらいしかおらず、そのシャールが不審(ふしん)に思っている相手を受け入れてよいとは、素直には思えなかった。


 また、身分(みぶん)の問題がある。


 かと言って、今や(おそ)らく村中でリーナとエドワードのことは(うわさ)になっており、わざわざリーナが(なや)まなくても、どうせ村人たちは「そーゆーもの」と思っているのだから、単純(たんじゅん)にこの状況(じょうきょう)受け入れてしまえばいい、と思わなくもなかった。


 ただ、シャールはそれを望まないだろう。


 好き? 愛?

 リーナにはまだよく分からなかったが、エドワードと一緒にいる時は楽しい。


 あと、もう一つ。

 リーナは今日、エドワードに(たの)みたいことがあった。


 こんな状況(じょうきょう)でエドワードに(たの)んで良いものだろうか。好意を利用したと思われないだろうか。


 いや、エドワードはそんな男ではない。決して混同(こんどう)しないだろう。私のため、皆のために、それ以外のよこしまな気持ちはなしで行動してくれるはずだ。


 リーナは、言うべき、そして助けを求めるべきと思った。


 リーナはしばらく(だま)っていたが、その手を止めて、言った。

「王都に帰れって意味じゃないのよ」


「へー、じゃ、何?」

 エドワードの質問にリーナは少し躊躇(ためら)った。


 それから

「エドワード、私、あなたを信用していいかな?」

と聞いた。


 唐突(とうとつ)にリーナの口から()れた「信用」という言葉に、エドワードは冷や汗が出た。


 ダミアンの件か? リーナの接触者(せっしょくしゃ)剣を(けん)か?


「何を言い出すんだよ、急に。だめだよ、俺なんか信用しちゃ。何も知らねーだろ」

とエドワードは(あわ)てて言った。


「そっか」

とリーナは苦笑した。

 シャールの「エドワードは信用に()る男か?」といった言葉が思い出された。


「でもエドワード、あなたは私が(りゅう)(おそ)われていたとこを助けてくれた。草も()りに連れてってくれたし、ネズミも捕まえてくれた。(りゅう)に関することは助けてくれてる気がする」


「かもな」


「いい人に見えるのよね」


「そこだけは、まあ信用してもいーんじゃないか?」

 そっちか、とエドワードは少しほっとして言った。


 リーナはエドワードの言葉で顔が少し明るくなった。

「じゃあ、あなたのことは、知ってる範囲(はんい)で信用する」


「ああ。そうしろ」

とエドワードは安心しながらも、ぶっきらぼうに答えた。


 リーナは(あらた)まった態度(たいど)でエドワードの方を向いた。

「あのね、エドワード、(りゅう)(あや)める薬、できた。(ため)したい。手伝ってくれない?」


 エドワードは一瞬(いっしゅん)意味がわからなかった。


 ゆっくりリーナの言葉を反芻(はんすう)する。

「えーっと、(りゅう)(あや)める薬って言ったか?」

 リーナは(うなず)いた。


「マジで? おまえ」

とエドワードはニヤリとした。

(りゅう)(あや)める薬、な。作ったんだな、マジで」


「うん」

 リーナは(うれ)しそうな顔をしていた。(ほお)高揚(こうよう)していた。


「試すために(りゅう)()に行きたいから、俺に護衛(ごえい)しろってことだな?」


「うん」

とリーナは(うなず)いた。


「それに関しちゃ信用してくれて(かま)わねーぜ。(まか)せろ」

 エドワードはにっこりした。


「ありがとう。でも、危険かもしれないのよ。もし、薬が効()かなければ、私たちが(りゅう)から逃げられるように、エドワードには多少(りゅう)(たたか)ってもらうことになるかもしれないの」

 リーナは一番言いにくかったことを、はっきりとエドワードの目を見て言った。


「それが今回の俺の仕事だ。分かってるよ。よし、準備手伝うか? 連れてってやる」

 エドワードはきちんとリーナの目を見て答えた。


「うん」

 リーナは(うれ)しそうにした。


 それからリーナはシャールを()びにやった。


 シャールはすぐさま(ころ)げるようにやってきた。

「リーナ! なにごと?」


「お兄様。できたの。(りゅう)(あや)める薬」

 リーナは得意気(とくいげ)に報告した。


「は? え? えっと、(りゅう)(あや)める薬?」

 シャールはまだ話が飲み込めず、聞き返した。


「そうよ、お兄様。見たら分かる......といいんだけど。馬を引いてきて。エドワードが護衛(ごえい)してくれるから、試しに行きましょ」

リーナは、まだよく意味が分からず眉間(みけん)にしわを()せているシャールに言った。


「いや、ちょっと状況(じょうきょう)がよく分からない。すまない、先に簡単に説明してくれ」

 シャールは首を()った。


「先日エドワードがリュウシソウ()りに連れてってくれた時に、変なネズミを見つけたの。何か気にかかって、エドワードにそのネズミを捕まえてくれるようにお願いしたの。そしたら、びっくりよ、そのネズミ、血中(けっちゅう)強毒化(きょうどくか)したリュウシソウの成分(せいぶん)濃縮(のうしゅく)されてたわ」

 リーナは早口で説明した。


「それを薬にしたのか?」

とシャールは聞いた。


「そう」


「そうか、いったい、いつの間に」

 シャールは感嘆(かんたん)の声を()らした。


「で、薬にしたはいいんだけど、ちゃんと()くか、(りゅう)に試したいと思ったの」

とリーナはお願いするようにシャールに言った。「危険だからやめなさい」と言われるかもしれなかったからだ。


「分かった、行こう」

 シャールは(うなず)いた。


「お兄様! ありがとう!」

 リーナは(うれ)しそうな声を上げた。


「いや、別にシャールは来なくてもいいんだけど。俺がいるし」

とエドワードがぼそっと言った。


「そういうわけにはいかない。何かあっては(いや)なので」

 シャールはエドワードを一睨(ひとにら)みすると、使用人に馬を引かせた。


「リーナは俺の馬に乗りなさい。でも。馬とかだいじょうぶかな。怖いか?」

とシャールはリーナに聞いた。


「リーナは、もー俺の馬に乗ってっから、だいじょうぶだと思うぜ~」

 エドワードはさっきの応酬(おうしゅう)とばかりに、挑発的(ちょうはつてき)な言葉をシャールにぶつけた。シャールが(いや)な顔をする。リーナは少しはらはらした。


 シャールはリーナを馬に乗せると自分も(またが)った。


 エドワードは先導(せんどう)するように馬を()けた。シャールもぴたりと後ろをついていく。エドワードは少しスピードを上げてみたが、きちんとシャールもすぐ後ろで馬を走らせた。


「へえ、シャール、馬上手(じょうず)じゃん。どこで(おぼ)えた?」

 エドワードは、普通の農村部(のうそんぶ)でこれだけ馬を(あやつ)れるものがいるとは思わなかったので、思わず言った。


「バカにするな。我々農民(のうみん)は普段から馬を使って仕事をしているんだ」

 シャールは不愉快(ふゆかい)そうに言った。


「それは(もう)(わけ)なかった」

とエドワードは言った。


 シャールとエドワードは村に一番近い(りゅう)営巣地(えいそうち)に向かって馬を()けた。


 そこは、普段リーナが歩いて行けるほどのところだったので、すぐさま三人は目的の場所に()いた。


「ここは一組のつがいが()んでるわ」

とリーナは言った。なじみの場所である。エドワードに(りゅう)から助けてもらった場所でもある。


「そっか」

 三人は馬を()り、そっと()の様子を(うかが)った。


 いつもと違い、(りゅう)()にいるだろう夕刻(ゆうこく)の時間を(ねら)って来た。一頭の(りゅう)()の中でまるまって目を()じていた。


「エドワード、来て」

 リーナが無意識(むいしき)にエドワードの手首を(つか)んで引っ張った。シャールは(あわ)ててリーナの手をエドワードから(はず)す。


 リーナは気配(けはい)をできるだけ消して(りゅう)に近づくと、持っていた薬玉(くすりだま)に火をつけ(りゅう)()の中に投げ込んだ。


 シューシューと薬玉(くすりだま)()える音がして、(けむり)()の中一面(いちめん)に広がった。


 異変(いへん)を感じた(りゅう)が目を()け首をもたげようとした時にはもう(おそ)かった。(りゅう)はとっくに大量の(けむり)()い込んでしまっていた。


 突然(とつぜん)(りゅう)は真っ赤な目をカッと見開(みひら)き、(とが)った歯だらけの口をガバッと開けると、だらだらと(よだれ)()らし、そして、いきなり大量の(あわ)()いて(たお)れた。


 どさっという大きな音が谷中(たにじゅう)(ひび)き、地面が()れた。


お読みくださってありがとうございます!


今後の励みになりますので、もしほんの少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、


下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方、


低評価でも構いませんので、


どうぞよろしくお願いいたします!

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