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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第5部: アデルと死の魔術
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34. 殺されかけ、王都を追われた者たち

 グレゴリー大臣が亡くなると、すぐに後任(こうにん)の大臣が決まり、クレッカーが新しく魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)長官(ちょうかん)になった。


 王宮内の者は、これから起こる大きな体制(たいせい)の変化を予想した。


 普通なら副長官(ふくちょうかん)(つと)める者が()り上がるのが(すじ)のようなものだが、いきなり、まだ若く、役職(やくしょく)も十分でないクレッカーが長官になったのだ。


(みな)は口々に、

「なぜクレッカーが?」

(うわさ)した。


 クレッカーが、新大臣に就任(しゅうにん)したケイマンと懇意(こんい)にしているということは、実はあまり知られていなかったからだ。


 というか、本当のところは、クレッカーがケイマンを利用していた。


 クレッカーは魔術管理(まじゅつかんり)体制(たいせい)を変えたかった。グレゴリー元大臣とのうまく進まないやり取りの中で、自分の目的のためには自分が魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)長官(ちょうかん)になるのが手っ取り早いということがわかった。


 クレッカーは注意深(ちゅういぶか)く、自分の魔術管理の体制改革(たいせいかいかく)賛同(さんどう)してくれる者を探した。


 クレッカーは、慎重(しんちょう)に、慎重(しんちょう)に、探した。


 ケイマンという男は今の国王の遠縁(とおえん)に当たる男で、ケイマンは自分が大臣になれるのであれば、クレッカーを魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の長官にしてやろう、と言った。


 クレッカーはケイマンの話に()ることにした。魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の長官になるために。そして、魔術管理の体制(たいせい)を、変えるために。


 そして、ケイマンの望み通り、グレゴリー大臣は()くなり、ケイマンが新大臣(しんだいじん)になった。


 今のところ全てクレッカーの予定通(よていどお)りとなった。


 アデルとダミアンは、目的はどうであれクレッカーがグレゴリー大臣を(ころ)したことを(うたが)っていたが、何も知らないふりを決め込んでいた。


 ここで(さわ)いでも自分たちの(とく)にはならないからだった。


 グレゴリー元大臣はもう国葬(こくそう)()んでいた。


 グレゴリー元大臣からクレッカーの魔術が検出(けんしゅつ)されたんですと今更(いまさら)言ったところで、クレッカーとグレゴリー元大臣の()直接(ちょくせつ)結びつける証拠(しょうこ)は何一つない。


 アデルとダミアンは(だれ)にも言えず、今後どうするべきか話し合っていたが、良い案も出ず正直(こま)っていた。


 そんなある日、アデルとダミアンは、他の開発部門(かいはつぶもん)の仲間と(とも)に、クレッカー長官の部屋に()ばれた。


 それはごく普通の()び出しで、(みな)無警戒(むけいかい)だった。マルティスだけが、急用とかでいなかった。


「どうぞ」

 秘書(ひしょ)(うなが)されて、アデルたちは長官の部屋へ入っていった。


 秘書(ひしょ)は部屋の(とびら)を開けただけで、自分は中に入ろうとしなかった。


 アデルは、ほんの少し、何だ?と思った。


 その途端(とたん)アデルとダミアンは、クレッカーの部屋に黒ずくめの男たちが数名いるのが目に入った。


 部屋にいた黒ずくめの男たちは、剣を持っていて、急に右から左から()りかかってきた。


「うあっ」


「ぎゃっ」

 

 アデルの仲間が何人かが(うめ)いて(たお)れた。


 続いて剣を()りかぶってくる(てき)に、咄嗟(とっさ)にアデルたちは防御系(ぼうぎょけい)の魔術を使った。アデルは自分の周りの空気の密度を濃縮(のうしゅく)し剣の軌道を邪魔して遅くさせると、剣はアデルたちに到達せずに()んだ。


 アデルは今度は自身も魔力塊(まりょくかい)を次々と生み出すと黒ずくめの男たちに(はな)った。しかし、アデルは普段実戦(じっせん)など()れていない。魔力塊(まりょくかい)を作るのにも手間取り、一度に作れる数にも制限があった。


 黒ずくめの男たちは普段から(たたか)()れているようで、アデルの魔力などいとも簡単に離散(りさん)させた。


「こんなのが()くと思っているのか?」

 黒ずくめの男の一人が(あざけ)った。


 と同時にアデルの作った空気の濃縮(のうしゅく)()いた。


 アデルの魔力塊(まりょくかい)では(らち)があかない。


 黒ずくめの男の剣先がアデルの(かた)(とど)こうとした時、アデルはなんとか()(くぐ)って横にずれ、剣を()けた。


 が、この時間にもまた仲間が(うめ)いて倒れる音がした。


 あちらこちらで、刃物が肉を断()つ音と魔力の()ぜる音と人の(うめ)き声がした。


「何なのだ、これは!」

 アデルは部屋の奥にいるクレッカーを(にら)みつけた。


「おまえたちが余計(よけい)なことを知ったからね」

とクレッカー長官は落ち着いて言った。


「おまえがグレゴリー大臣を(ころ)したことか!?」

 部屋中にアデルの声が(ひび)いた。


 魔術開発(まじゅつかいはつ)部門(ぶもん)の仲間たちにアデルの声が届いた。(みな)(おどろ)いて息を()んだ。


「どういうことだ」

「俺たちは何も知らなかったぞ」

(つぶや)く声が部屋のあちこちから上がった。


「だからさ、そういうことを知られると困るんだよ。あと、マルティスの魔術もさ」

 クレッカー長官は表情を変えずに言った。


「マルティスの魔術」

 数名の魔術開発(まじゅつかいはつ)部門(ぶもん)の仲間は少し理解したようだった。


「ま、この雰囲気(ふんいき)だと、あんまり言いふらしてないみたいだね、アデル、ダミアン。いい心がけだよ」

とクレッカーは笑顔で言った。


人殺(ひとごろ)しの大悪党(だいあくとう)め!」

 アデルは(さけ)んだ。


「まあ、証拠(しょうこ)はないからね。君たちにも()んでもらうし」

 クレッカー長官は冷たく言った。


「おまえ、仲間じゃなかったのか!? おまえは仲間に(あつ)いやつだと思っていたが」

 アデルは挑発的(ちょうはつてき)(にら)んだ。


「仲間に(あつ)い? そうだったかな?」

とクレッカーは首を(かし)げた。


 アデルは腹が立った。

「ハルト、ってヤツがいたろ? 大親友だったそうじゃないか」

とアデルはクレッカーを(にら)みつけながら言った。


 クレッカーは一瞬(いっしゅん)動揺(どうよう)した。


「ハルト、よく知ってるね。おまえ」

とクレッカーは低い声で言った。


 しかし、気を取り直したように、

「そうさ、よく知ってるね。それ(がら)みで、俺にはちょっとトラウマがあってね。俺にはすべき事があるから、そのためには手段(しゅだん)(えら)ばないよ」

とクレッカー長官ははっきりした口調(くちょう)で言った。


 アデルはダメだと思った。クレッカーは相当(そうとう)強い意思(いし)を持って事を起こしている。


 だがアデルは説得を試みた。

「やめるんだ、クレッカー! ハルトは望んでいるのか、こんなこと!」


 クレッカー長官は何も言わなかった。クレッカーの冷たい目とアデルの(うった)える目が合った。


 右手を(かか)げ、黒ずくめの男たちに「やれ」と合図した。


 アデルは絶望した。だめだと思った。


「みんな、逃げるぞ!」

 アデルは逃げることにした。


 アデルは(けむり)目隠(めかく)しの魔術を使った。大量の魔力を放出する。


 しかし、そんな魔術はあっという間に黒ずくめの男たちに消されてしまった。使える魔力量がそもそも違うのだ。実戦量が違う。


 男たちがまた剣を振りかぶる。今度はバチバチっと剣を帯電(たいでん)させている。()(きざ)むと共に、()れただけでアデルたちを感電死(かんでんし)させる気だ。


 研究ばかりで実践経験がほとんどない自分が、海千山千(うみせんやません)の実践系魔術師から逃げるには。


 アデルは開発途中(とちゅう)のアレを思いついた。

「みな、いけるかもしれない。逃げるぞ、生きのびるんだ」


 それはアデルの得意とする(なみ)魔術(まじゅつ)だった。空気中の音や衝撃波(しゃうげきは)などあらゆる振動(しんどう)を魔術エネルギーに変え、クレッカー長官の手下(てした)の黒ずくめの男たちにぶつけた。


 激しい音と光が飛び散った。


 黒ずくめの男たちの殺気(さっき)(ともな)う動きは、そのままアデルの波の魔術の(みなもと)となったため、その威力(いりょく)半端(はんぱ)なかった。


 黒ずくめの男たちは、あらゆる方向から体に()い付くように流れ込んでは()れた瞬間(しゅんかん)()ぜる魔術に、完全に足止めを食らった。


 見たことがない! アデルの開発途中の魔術なので当たり前だが。


 クレッカー長官の手下(てした)の黒ずくめの男たちは、あちこちで大怪我(おおけが)を負い、この見たことのない魔術に大分(だいぶん)(ひる)んだ。


 アデルとまだ生きていた仲間たちは、なんとかクレッカーの部屋を逃げ出すことに成功した。


 このまま魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)にいては、何かと理由をでっち上げられ(ころ)される。(みな)は、そのまま(かく)れるように地下に(ひそ)むことにした。


 アデルは、王都から逃げながら、クレッカー長官の疑惑(ぎわく)(みな)に話した。そしてマルティスの魔術が悪用(あくよう)されたことも。


 (みな)はクレッカー長官の自分勝手(じぶんかって)な行動に怒った。


 そして潜伏(せんぷく)しながら、クレッカー長官の(つみ)(あば)く方法を探し、仲間の無念(むねん)を晴らすことを(ちか)った。


すみません、お読みくださってありがとうございます!

面白い小説にしていけたらと思っておりますので、ご意見ご感想をお聞かせいただければありがたいです!


また、今後の励みになりますので、もしほんの少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、


下のご評価欄↓★★★★★↓の方、


低評価でも構いませんので!!


ご評価いただけるとありがたいです。

どうぞよろしくお願いいたします!

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