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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第5部: アデルと死の魔術
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33. 大臣の死の、真相 〜マルティスの魔術〜

 メンバーはそれ以上何も言わなかった。(みな)(だま)って部屋を出た。


 この魔術についてどうするか話し合わなければならないと思った。ひとまず不用意(ふようい)(だれ)にも話さないことを(ちか)った。


 今までに、悪意(あくい)ある魔術師がいなかったわけじゃない。内密(ないみつ)弟子(でし)を取り暗殺者(あんさつしゃ)を育てる者が過去にいた。(ちまた)にはモグリの魔術師だっている。


 しかし、今までは、魔術で人が(ころ)されれば、犯人(はんにん)(つか)まえることができた。魔術を使えば痕跡(こんせき)が残るからだ。


 だが、マルティスの今回のこれは? おそらく知らなければ病気ということで片付(かたづ)けられ、気づかれることがない。危険だ。


 (みな)は同じことを考え()(だま)っていた。

 

 マルティスの作った、(おどろ)きの新しい魔術を見てから数日後、ダミアンがアデルの(うで)(つか)んだ。

「アデル、ちょっといいか」


 ダミアンはまたアデルを人気(ひとけ)のない魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)奥深(おくふか)くの書庫(しょこ)へと引っ張ってきた。


「なんだ、ダミアン。(おく)さんいるのに女を(くら)がりに連れ込むんじゃないよ」

 アデルは(あき)れて言った。


「そんなこと言ってる場合じゃない! グレゴリー大臣が病気だそうだ。カレンから聞いた」

 ダミアンが真面目(まじめ)な顔をして言った。


「何だと!」

 アデルには、それだけですぐに、ダミアンの言わんとしていることが分かった。


 だがアデルは落ち着いて聞いた。

「大臣の病名は何だ?」


「それがはっきりした病名がついていないらしい。医者は疲労(ひろう)じゃないか、とのことだ。だが大臣は、脱水症状(だっすいしょうじょう)を起こしてるらしい」

 ダミアンの(ひたい)には(あせ)(にじ)んでいた。


「なるほど、それで例のマルティスの魔術を(うたが)ってるんだな?」

とアデルは言った。


 ダミアンはふーっと息を()いた。

「そりゃ、もちろん分からないよ。だがあり()なくものいだろ? 一日中(いちにちじゅう)水を飲ませても脱水症状(だっすいしょうじょう)が良くならないって、医者が首を(かし)げてるそうだ」


 アデルもふっと息を()いた。

「マルティスには何か聞いたか?」


「いや、まだだ」

 ダミアンは答えた。


「急ごう。マルティスの魔術の脱水症状(だっすいしょうじょう)なら、あまり時間がないだろう」

 アデルはダミアンの手を()(ほど)いて、脇目(わきめ)()らず、開発部門(かいはつぶもん)の部屋へ(もど)った。ダミアンは急いでアデルを追った。


 アデルは職場の部屋に入ると、すぐにマルティスを(つか)まえた。

「ちょっと来い」

 その様子をクレッカーがちらりと見た。


「ちょっとアデルー! 僕、やりかけの作業(さぎょう)がー!」

 アデルにぐいぐい部屋の外に()()り出されて、マルティスが(わめ)いた。


「ちょっと大事な用件なのだ、マルティス」

とアデルは言った。


「もうー!」

 それでもマルティスは不満(ふまん)げだった。


 アデルは人気(ひとけ)のない場所へマルティスを引っ張ってきた。ダミアンも付いてきていた。


「マルティス、例の新しい魔術、(だれ)かに教えたか?」

とアデルは聞いた。


「はい〜? ちゃんと(みーんな)に見せたじゃないですか。もう(わす)れちゃったんですか?」

とマルティスは心外(しんがい)な顔をした。


「そういうことじゃない。魔術のかけ方の方だ」

とアデルは言った。


「あー、かけ方? はいはい、教えましたよ、クレッカーに」

とマルティスはどうでもいいというように、ぶつぶつと言った。


「クレッカー……」

 マルティスの言葉にダミアンは(つぶや)いた。


「なんかクレッカーは言ってたか?」

とダミアンは冷静さを(たも)ちながら聞いた。


「うん! とにかく、僕の魔術がすごいって()めてくれてね! そもそもこの魔術のきっかけになった虫をくれたのもクレッカーだしね。 クレッカーって本当いい人だ! それに比べて、君らは全然()めてくれなかったね」

 マルティスは、最後の部分を特に(うら)めしそうに言った。


「そういうことじゃない! クレッカーが何に使うかとか……」

とアデルが言いかけたところを、ダミアンが横から(せい)した。


「マルティス、おまえはすごいよ。(だれ)もが(おどろ)いた」

 ダミアンの言葉に、マルティスは(うれ)しそうな顔をした。


「だから、俺たちにも、おまえの魔術について(くわ)しく教えてくれないか? 他の病気との見分け方とか? ()き方とかあるのか?」

とダミアンはゆっくり聞いた。


「見分け方? うーん、(むずか)しいかなー。この術、ほんのちょびっとの魔力でいけたんだ。魔力量(まりょくりょう)少ないと感知(かんち)しにくいですよね」

 マルティスは(あご)に手を当てて考えた。


「そうだな」

とダミアンは(うなず)いた。


「だが、マルティス、何で少しの魔力量でいけるって思ったんだ?」

 それが厄介(やっかい)の原因だ、とダミアンは思いながら聞いた。


「クレッカーにもらった虫、小さかったんだ。だから」

とマルティスは笑顔で答えた。


「ああ、そういう……ってか、それだけで思い付いたのか?」

 こういうマルティスの純朴(じゅんぼく)なひらめきだ、とダミアン素直(すなお)に感心した。


 だがダミアンははっと(われ)(かえ)ると、

「とにかく、病気とは見分けられないんだな?」

とマルティスに聞いた。


「うーん、それと思って感覚(かんかく)()()ませれば、体内の魔力を感知(かんち)できるとは思いますけど」

とマルティスは言った。


「ああ、そうだな。おまえのネズミも、何かしら魔力を感じたな」

とアデルは(うなず)いた。


「はい。魔力が感じられるなら、魔力の微妙(びみょう)紋様(もんよう)から、魔術使った人間特定(とくてい)できますよねー。体内から別人(べつじん)の魔力の紋様(もんよう)が見えたら、魔術かけられた、とは言えるかもしれないですね」

とマルティスは頭を(ひね)って何とか答えになりそうなことを言った。


「だが、それでは、あくまで、(だれ)かに魔術をかけられた、っていうことしか分からない」

とダミアンは冷静に言った。


「そうですね、僕もそう思います。それだけで僕のこの魔術だって言い当てるのは(むずか)しいんじゃないと思います」

とマルティスも真面目(まじめ)な顔で答えた。


 それからふと思いついたように、

「まあ、水飲ませて脱水症状(だっすいしょうじょう)(なお)らなかったら、僕の魔術かもですね!」

と言った。


「そんな状況証拠(じょうきょうしょうこ)しかないのか?」

 アデルとダミアンは頭を(かか)えた。


 本当に、なんて完璧(かんぺき)なものを作ったんだ、マルティスは。


「じゃあ、()き方は?」

とアデルは話題を変えた。


()き方はないですね! 弱い魔力を体の中にずっと(とど)めさせてるから、一時的(いちじてき)な魔術じゃないし、()き続けますよー。でも、いいね、()き方かあ! 次はそれ考えてみよーっと」

とマルティスはいいことを聞いたというように目を(かがや)かせた。


 アデルとダミアンはがっかりしたようにうなだれた。


 しかし、不意(ふい)にマルティスが、素っ頓狂(すっとんきょう)な声を出した。

「あ! でも、アレだ! “魔術を消す魔術” ってのなら僕のコレも消せるんじゃないですかね!?」


 マルティスの言葉に、アデルとダミアンは(うら)めしそうに顔を上げた。

「魔術を消す魔術、って。あの、(いにしえ)の?」


「俺も以前別件(べっけん)で探したが、文献(ぶんけん)すら見つからなかったぞ」

 二人は(あき)れ声を出した。


「そうですね。僕も実在(じつざい)するか分かりません。それならと、自分で作ろうとしたけど、まだどうにも」

とマルティスもため息をついた。


 絶望的な空気が(ただよ)った。


「分かった、とにかく、いろいろ(きび)しいってことが分かった」

とアデルは言った。


(きび)しい?」

 マルティスが不可解(ふかかい)そうに聞き返した。


「それだけおまえの術が完璧(かんぺき)ってことだよ」

 ダミアンが苦笑(くしょう)して言った。


 翌日(よくじつ)、ダミアンはカレンの()()いという形で、グレゴリー大臣の部屋を(おとず)れた。


 その日、グレゴリー大臣がはクレッカーを()び出すようカレンに(めい)じるつもりだった。


 グレゴリー大臣は、ダミアンを見て「(きみ)(だれ)だ」という顔をしたが、ダミアンがカレンの後ろでうやうやしく突っ立っていただけだったので、結局(けっきょく)何も聞かなかった。


 カレンは短く「私の(おっと)です、私の体調がすぐれないもので」とだけ紹介(しょうかい)した。


 ダミアンは部屋に入るなり、グレゴリー大臣の体内に(ひそ)む魔力を探り始めた。


 感覚を()()せ、注意深く探っていく。そしてグレゴリー大臣の腹部(ふくぶ)らへんから微量(びりょう)の魔力を感知(かんち)した。


 これは、大臣が元々(もともと)持っている微量(びりょう)の魔力か、それとも(べつ)(だれ)かの魔力か?


 ダミアンはさらに集中して、その魔力の持ち主の紋様(もんよう)精査(せいさ)した。


 大臣自身のものではなさそうだ、では?


 ダミアンは一瞬(いっしゅん)(つか)んだかすかな紋様(もんよう)に体が止まった。


 実際今日のダミアンは、クレッカーがグレゴリー大臣にマルティスの魔術をかけたのでは、と心に思いながらここに来ていた。


 そして事実それは、クレッカーに特徴的(とくちょうてき)紋様(もんよう)だった。


 ダミアンの(ひたい)から(あせ)()き出した。


 カレンがグレゴリー大臣からクレッカーへの伝言を受け取ると、カレンとダミアンは丁寧(ていねい)にお辞儀(じぎ)をして部屋を出た。


「ダミアン? だいじょうぶ?」

 事情を知らないカレンは不思議(ふしぎ)そうに聞いた。


「急に私について来たいなんて。本当にどうしたの?」

 カレンは心配していた。


「いや、ありがとう、カレン。何でもないさ」

 ダミアンはカレンを()き込んではいけないと、何も話す気はなかった。そしてカレンに笑顔を向けた。


「なあに? なんかあなた、今日は(へん)ね」

 カレンは笑って言った。


 そして数日のうちに、グレゴリー大臣が病気で()んだ。


読んでいただきありありがとうございます!


今後の励みになりますので、もし少しでも面白いなと思って下さった方がおられましたら、

下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方、


ほんの少しの評価でも構いませんので、


お教えいただけたらと思います!

お手数をおかけして申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願い致します!

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