表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第5部: アデルと死の魔術
32/73

32. アデルの同僚、マルティスという天才 〜新たな魔術〜

 アデルはの昏睡状態(こんすいじょうたい)中、昔の夢を見ていた。


 比較的(ひかくてき)最近の記憶。


 その男は背が低く()せっぽちだった。落ち着きなく歩き、裏返(うらがえ)った甲高(かんだか)い声で早口(はやくち)(しゃべ)り、何にも好奇心(こうきしん)を持つ目はキョロキョロと動き回っていた。


 初めて魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に来た時から、その男は異彩(いさい)(はな)っていた。


 新しい魔術を生み出すことに強い執着(しゅうちゃく)を見せ、ああでもないこうでもないと、ぶつぶつ(ひと)(ごと)を言っては、見た事もない魔術を次々(つぎつぎ)と作った。


 魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)。当時、ここでは、この国の魔術の教育と研究が行われる部署だった。


 全ての魔術習得者(しゅうとくしゃ)を希望するものは、初めは必ずこの機関(きかん)に所属することが義務(ぎむ)付けられていた。


 この国には魔力を持つ生き物が多数生息(せいそく)しているので、人々にとっても魔力に()れること自体は一般的(いっぱんてき)だが、その中でも(おさな)(ころ)から、(みずか)ら強い魔力を持っていたり魔力を操作(そうさ)する力に()けた者は魔術師を(こころざ)すことが多い。


 魔術師を(こころざ)す者は、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の学校に進学(しんがく)し、そこで魔力のコントロールや魔術の仕組(しく)みなどを学ぶ。そして一人前(いちにんまえ)の魔術師として(みと)められて、王宮の様々な部署に配属(はいぞく)されるものだった。


 ただ、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)には、を魔術開発(まじゅつかいはつ)を目的とし、魔術の本質を探る学術的(がくじゅつてき)な部署の一端(いったん)として、魔術開発(まじゅつかいはつ)部門(ぶもん)も置かれていた。


 その男はマルティスといい、この部門のエースらしからぬエースだった。


 その日、アデルはダミアンやクレッカーなど、他のチームメンバーとともに、マルティスに()ばれた。


 何でも、また新しい魔術を作ったから見てくれ、と言うのだった。


 マルティスが新しい魔術を作ることは日常茶飯事(にちじょうさはんじ)だったので、全員興味(きょうみ)はあれど、まあいつも通りのことだろうと思っていた。


「で、わざわざ呼び出して、今日は何を見せようとするのだ」

 アデルは聞いた。新しい魔術など興味(きょうみ)があることになるときちんと話を聞ける。


「えー、ではー」

 相変(あいか)わらず裏返(うらがえ)った甲高(かんだか)い声でマルティスは話し出した。


「新しい魔術をお披露目(ひろめ)しまーす!」

 マルティスはネズミが10匹ほど入ったケージを持ってきた。


「すごいですよー、本当に新しい魔術ですからねー」

 マルティスはニヤニヤしている。


「ネズミに何をするのだ」

 アデルは、マルティスのもったいぶった言い方にイライラして、説明を(うなが)すように聞いた。


「もー、せっかちですねー。答えは見てのお楽しみです」

 マルティスは相変(あいか)わらずニヤニヤしていた。


 が、ふと(つくえ)の上にアデルの読みかけの本が置いてあるのを見て、急にマルティスは興味(きょうみ)を引かれ、

「あれ、あっ!」

と手に取った。


 集められた者は、(みな)「またか」と思った。


 マルティスは興味(きょうみ)()くものを見つければ、会話の途中(とちゅう)でもどんな状況(じょうきょう)でも必ず手に取った。もはや集められたメンバーのことなど眼中(がんちゅう)にない。


 (みな)苦虫(にがむし)()(つぶ)した顔でマルティスを待った。話しかけても無駄(むだ)だからだ。


 マルティスはページをパラパラとめくっては「へー」とか「ふーん」とか(わる)びれず声に出した。そしてさらっと一読(いちどく)して本を投げ出した。


 やっと本題(ほんだい)か。(みな)は待ちくたびれた顔をして

「で、新しい(じゅつ)というのを早く見せろ」

と口々に言った。


「はい、では、いきます! すごく新しいんですよ、よく見てくださいねー」

 マルティスは10匹のネズミ全てに術をかけた。


 それはすごく繊細(せんさい)な術に見えた。(こま)かい魔力が(ほそ)(いと)のようにネズミたちの体に入っていったような感覚(かんかく)だった。


 と同時に、アデルたちは得体(えたい)の知れない寒気(さむけ)を感じた気がした。


 全員の顔から表情が消えた。これは、何かとんでもない術かもしれない。


 集められた魔術師たちは、どんな変化も見逃(みのが)すまいと食い入るようにネズミを見つめた。


 しばらく沈黙(ちんもく)が流れた。


 しかし、ネズミたちは餌場(えさば)水場(みずば)にチロチロと動き回り、鼻をヒクヒクさせたり頭を()いたりした。


「何も起こらない……?」

 アデルは(つぶや)いた。


 マルティスはニヤッと笑った。

「これからですよ! 時間かかるんです!」


「時間? どれくらいだ」

 アデルは聞いた。


「数時間でしょうか〜」

 マルティスが(わる)びれずに言った。


 アデルは(あき)れた。

「数時間って何の魔術だ。というか、私たちを数時間待たせるつもりか?」


 マルティスはクックっと笑った。

「術かけたとこだけはちゃんと見てもらおうと思ったんですよ。じゃ、続きは明日です」


 集められた魔術師たちは腹を立てた。

「バカバカしい、私たちを何だと思ってるんだ!」


 しかしマルティスはニヤニヤしているだけだった。


 翌朝(よくあさ)渋々(しぶしぶ)集まった魔術師たちはもっと(けわ)しい顔をになった。(いや)なものを見たからだ。


 10匹のネズミは全て()んでいるか、ぐったり(たお)れていたのだ。


「マルティス、ネズミの死骸(しがい)を見せて何が楽しい。昨日の魔術は失敗したのか?」

 アデルはマルティスに苦情(くじょう)を言った。


「とんでもない! 成功(せいこう)ですよ! (ころ)す魔術ですから」

 マルティスは憤慨(ふんがい)して言った。


「何だと?」

 (ころ)す魔術? アデルはもう一度ネズミをよく見て、魔術の痕跡(こんせき)を探した。


「そんなはずはない。生き物を(ころ)す魔術は、致命傷(ちめいしょう)となる場所に、魔術の痕跡(こんせき)が必ず残る」


「だから、そこが新しいんですよ!」

 マルティスは得意(とくい)げになって、いつもの早口がさらに早口になった。


「これまでの攻撃系(こうげきけい)の魔術は全て物理的(ぶつりてき)攻撃(こうげき)ばかりでした! 魔力をぶつけて体を破損(はそん)させたり、物を(こわ)す魔術で体の欠損(けっそん)させたり。そしてその魔術は、おっしゃる通り必ず魔術の痕跡(こんせき)が残ります。()()()()()()()()()()()() まず直接(ちょくせつ)死因(しいん)は魔術で体を()き飛ばしたことじゃないんです。病気で()んだんですから!」


 アデルたちは意味がわからなかった。

「魔術で病気にしたのか? 病気にさせる魔術なんて聞いたことないぞ。できたとしてもいったいどうやって?」


「ふふ。たいそうな病気じゃないです。脱水症状(だっすいしょうじょう)ですよ! 水を飲んでも吸収(きゅうしゅう)できないって魔術を作りました! ね、すごいでしょ? 新しいでしょ?」

 マルティスは鼻高々(はなたかだか)だった。


「いや待て、分からん! 水を飲んでも吸収(きゅうしゅう)できない魔術? 何を言っているかさっぱりだ!」

 アデルは大声を出した。


 マルティスは相変(あいか)わらずニヤニヤしている。

「クレッカーが市場(いちば)(へん)な虫見つけましてねー。環境(かんきょう)に合わせて水分調節(すいぶんちょうせつ)している虫だったんですよー。なんか(やく)に立つかもってくれたんです。その虫見てて、僕思いついちゃったんですよね!」


 アデルはさらにじっくりとネズミを見た。


 確かに、なんとなくだが、ネズミの体内に(わず)かな魔力が感じられた。しかし魔力の(あと)はぼやっとして特定出来ず、魔術が使われたかのかどうか判断出来なかった。


 他の魔術師も同様のことを感じたようだった。

「何が感じる。本当かもしれない」


「俺は分からんぞ」


「いやしかし、本当だとして、何をターゲットにどんな術を使ったんだ?」


「それよりも、この()(ざま)……」

 (みな)がざわついた。


 その時一人の魔術師がわなわな(ふる)えながら言った。

「なんてものを作ったんだ……。人に悪用(あくよう)されたらどうするんだ」


 それを聞いてマルティスは意外(いがい)そうな顔をした。

「それは別に今までの魔術も一緒(いっしょ)でしょ。人に攻撃系(こうげきけい)の魔術を使うことは原則禁止(げんそくきんし)されていますし、これも同じように禁断(きんだん)の魔術になるだけですよ」


門外不出(もんがいふしゅつ)は当たり前だ。()れたら大変なことになるぞ。人に使われても、こんなのただの(やまい)()んだようにしか見えない。人を(ころ)したいと(ねが)ってる奴がいたとしたら、こんなに便利(べんり)な術はないぞ。魔術で()んだとは分からないのだから」

 (みな)(うなず)いた。


 アデルは「『魔術(まじゅつ)病死(びょうし)(いつわ)魔術(まじゅつ)』だな。」と皮肉(ひにく)を言った。


 マルティスは文句を言った。

「えええー! 僕は悪用(あくよう)とかどーでもいいです。これは純粋(じゅんすい)に魔術の発展(はってん)ですよ。だってすごいでしょ?」


「だめだ、こんなもの(みと)められない……」


「だから、(みと)められるとか何ですか? 新しいものを作ったんだ、ただの新しい魔術の知識(ちしき)ですよ。(みな)共有(きょうゆう)したらいいでしょ。これを応用(おうよう)したらもっといろんなことができますよ! 人を眠らせる魔術とか、ダイエットの魔術とか」


 人を眠らす? 自力(じりき)目覚(めざ)められなかったら、その人は意識戻(いしきもど)らず寝たきりになる。


 ダイエット? ()せさせる? 悪用(あくよう)すれば餓死(がし)させられる。


お読みくださってありがとうございます!


申し訳ありませんが、今後の励みになりますので、


もし少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、


下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方も、


低評価でも構いませんので!!!


よろしくお願いいたします!


お手数をおかけしてすみませんが、ぜひぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ