31. ロベルトとエドワードの確信 〜病気と思っていたものは〜
「ロベルト、シャール神経質過ぎね?」
シャールとリーナを見送ってから、エドワードはロベルトに話しかけた。
せっかくリーナと二人きりだったのに、シャールに掻っ攫われてエドワードは不機嫌だった。
「ああ。あれはどう見ても、リーナを変な男に触られたくないって感じだったな」
ロベルトも頷いた。
「変な男?」
エドワードは不満げに言った。
「ってゆーか、兄妹、のはずだよな」
エドワードは首をかしげた。
「ってゆーか、それよりリーナ、どーしたんだろーな」
エドワードがちょっと真面目な顔になった。
「何かあったのか?」
ロベルトが聞く。
「いきなり王都の流行り病の話聞かれてさ」
エドワードは意味が分からないといった様子で答えた。
「流行り病?」
とロベルトは繰り返した。
「ああ。だからちょっと前に見た、瀕死の男の話をふと思い出したからさ、それ言ったら、リーナが青くなっちゃって。なんか似たような症状の人がいたのか?」
エドワードは考えながら言った。
ロベルトははっとして、
「あー、そういうことね」
と険しい顔で言った。
エドワードは怪訝そうな顔をした。
「何だよ、”そーいうこと”って」
ロベルトは一瞬躊躇ったが、仕事と判断すると、はっきりとした口調で、最近のリーナの真夜中の外出するのことを説明した。
エドワードはぎょっとした顔をした。ロベルトは頷いた。
リーナが例の関係者に接触したのかもしれない。
「何その偶然。あり得なくない? だってカレン・ホースの件は別件だろ?」
とエドワードは言った。
「いや、別件ってほど別件じゃなくないか? ダミアンは関係者だ」
とロベルトは冷静に言った。
「そーか? カレン・ホースの件で来てる村に、別の関係者が現れる……。俺らにとっちゃカモネギシチュエーションじゃねーか!」
エドワードは言った。
「ああ。だが、ダミアンの死を知ったお仲間が、カレン・ホースに接触しようとしたんだったらアリだろ」
とロベルトは言った。
「あー、そー言われれば?」
二人は顔を見合わせた。
「でも、えーっと、今、そのリーナが接触してるヤツ、前の、クラウス・モーゼルの件のときと同じ症状が出てんのか? なんか変じゃね?」
とエドワードは頭を捻った。
「そうだな。何だろうな、この症状。偶然かもしれないが、偶然じゃないかもしれないな」
とロベルトも頭を抱えた。
「とりあえず、リーナにこの症状のこと聞いてみるか。俺に聞くってことは、何か感じてるってことだろ」
エドワードは言った。
「いや、素直に言うかな。わざわざ俺らに隠して、夜中に外出するってことは」
二人はため息をついた。
「なあ」
エドワードが口を開いた。
「ちょっと、そもそもなこと聞くんだけど。俺らが死を看取ったり、殺して回ってるあいつらって何者だ? 何も聞かされてねーんだけど」
「前の魔術管理本部の人間だそうだ。だから俺ら魔術師が派遣されてる。なんでも、良くない魔術を開発したんだって、前にも言ったろ」
とロベルトは面倒くさそうに答えた。
「良くないってなんだよ」
とエドワードは聞いた。
「そこまでは聞いてないな」
とロベルトは答えた。
「は? 聞いてないって、誰に」
エドワードは聞いた。
「ああ、知り合い」
ロベルトがちょっと目を逸らしたのをエドワードは見逃さなかった。
「知り合いって誰だよ、怪しいな!」
エドワードは食い下がる。
「だから、知り合い。そいつクレッカー長官に近いとこで働いてるっていうから、ちょっと聞いてみたんだよ。どれくらい危ない仕事かとか知りたかったし」
ロベルトの口調に言い訳じみたものを感じ、エドワードはニヤニヤした。
「へー、付き合ってんの?」
「……」
「え、マジ?おまえ彼女いたの。聞いてないぞ」
エドワードは真顔になった。
「いや、違う、昔だ。別にお前に関係ないだろ。もう半年ほど前に別れた」
ロベルトはそっぽを向いて言った。
エドワードはロベルトの反応が面白かった。
「次から女できたら教えろよ」
「教えねーよ!」
ロベルトが怒鳴った。エドワードは笑った。
「それに、良くない魔術なんて建前だよ。本当は別の理由さ。それはおまえが言ったんだろ」
とロベルトはぶっきらぼうに言った。
それから二人は少し黙った。
静まり返った部屋で時計の音だけが、聞こえてきた。
「なあ、もし、リーナの見た人間が同じ症状だったとして、あれは何の病気だ?」
エドワードはロベルトに聞いた。
「それは俺も分からない」
「なんかの感染症か?」
「……どうだろうな。もし感染症なら、市中にも出て、今頃は王都の衛生管理部門で話題になってても良さそうだが。やつらは市中に隠れてるんだから」
とロベルトは首を振った。
「じゃー、何であいつらが、同じ病気に?」
エドワードは腑に落ちない顔をした。
「同じかは分からん。あれは珍しい症状じゃないだろう。たまたま似てるだけで」
ロベルトはエドワードを嗜めた。
「俺は嫌な予感がするよ。あいつらは、良くない魔術を開発して処刑されることになってる。そいつらがたまたま同じ病にかかってるって。なあ、あれは本当に病気か?」
エドワードは言った。
エドワードの言葉にロベルトははっとした。
「もしや、魔術か!?」
二人は顔を見合わせた。
「いや、でもあんなの見たことないぞ。人を病気にさせるなんて前代未聞だ」
ロベルトは全ての魔術を知っているという自負から、はっきりと言った。
「だな。そんな魔術作ったんなら、そいつはすげーヤツだぜ」
そこまで言ってエドワードははっとした。
「……だが、人を病気にさせるってのは、使い方によっちゃ、ものすごく便利だ」
ロベルトは言った。
「ああ。まったく。そーだな、暗殺にはもってこいだぜ」
エドワードも認めた。
「暗殺する側はこの魔術が公表されない方が何かと便利だな」
それから二人はまた少し黙った。
それからロベルトが
「ちょっと待て。あれが魔術って証拠はないぞ。何妄想膨らませてんだ、俺ら」
と言った。
「でも、あの病気が魔術ってのは、俺はアリだと思うぜ。」
エドワードが言った。
しかしロベルトは首を横に振った。
「俺は違うと思う。魔術なら痕跡が残る。俺らが見た奴らからははっきりした魔術の痕跡はなかった」
「そうか。じゃあリーナに聞いてみようぜ。あいつも何か感じてることがあるんじゃね? それに、リーナが接触したかもしれない関係者。そいつにも聞けば」
エドワードは言った。
ロベルトは急に黙った。
腕を組んで考え込み、頭を整理した。
それからエドワードに確認するように、低い声でゆっくりした声で
「それはお前、首突っ込む、ということでいいか?」
と聞いた。
ロベルトの言葉にエドワードははっとした。
「あー確かに。余計なこと知っちゃうと俺らもヤバいかもな」
「俺たちはこれまでうまくやってきただろう。ここで、俺たちは……」
ロベルトは強い口調で言った。
エドワードは珍しくロベルトが興奮していることに気付くと、冷静に引き戻すようにゆっくりとロベルトの肩を叩いた。
「らしくねーな、ロベルト。ここまで疑念が出てて、おまえはコレだとは思ったんだろ? ロベルト、おまえの本当の目的に、俺は従うよ」
ロベルトは一瞬止まった。そして目を伏せた。迷っているようだった。
だが、ロベルトはふーっと大きく息を吐いた。
ロベルトはエドワードの覚悟に感謝した。
「エドワード、悪かった。間違ってたのは俺だ。そうだな、俺は進む。だが、そうだからこそ、俺たちはうまくやらなければならない」
エドワードは察して慌てて言った。これまで、ロベルトが実家の問題で板挟みになって苦労してきたことを知っていたからだ。
「すまん。悪かったよ、言いすぎた。上に逆らえってんじゃないだ。上に逆らうのはやめようぜ。おまえは本当にこれまでうまくやってきた。俺も負け戦はしたくねー。うまくやろーぜ」
ロベルトはエドワードに感謝した。ロベルトは心が軽くなった気がした。
そして
「ああ」
とロベルトは頷いた。
「よし、じゃー、リーナとその接触者だな」
とエドワードは言った。
「ああ。だが俺らの話はあくまでただの妄想だ。リーナにも怪しまれないよう、ちゃんと手順踏んでいくぞ」
ロベルトは言った。
二人の意見は一致した。
その時エドワードが、ロベルトに遠慮しながら
「一応、リーナをむやみに傷つけんのはやめてね」
と言った。
ロベルトはふっと口元に笑みが浮かんだが、
「それ意識すると急に難易度上がる」
とわざとうんざりしたような声を出して応じた。
が、ロベルトは急にはっとして、
「ところで、おまえ、リーナと何かあった?」
と聞いた。
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