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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第5部: アデルと死の魔術
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30. 奇妙な病 〜兄は魔術師から妹を護りたい〜

 エドワードはリーナの薬を調合(ちょうごう)する部屋で、相変(あいか)わらずぐだぐだと(ひま)()(あま)していた。


 リーナは()ってきたネズミの()を調べるのに夢中(むちゅう)(いそが)しかったが、あまりにエドワードが(ひま)そうなので話し相手にはなっていた。


 “身分(みふん)さえなかったら俺を男として見てくれるのかよ”

 あの日のエドワードの言葉が思い出される。


 でも、とりあえず、考えたくない。そんな風に考えたことはないし。


 リーナはとりあえず、無かったことにして、エドワードと(せっ)していた。


「ねえ、カレンは魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に出かけて行ったって聞いたわよ。ちゃんとあなたの仕事()わったんじゃないの?」


()わった。今回も無事(ぶじ)()わってよかったよ」


「そうね。にしても、手紙、とんでもない内容だったみたいね」

 エドワードの目が一瞬(いっしゅん)(するど)く光った。が、すぐにそっぽを向いた。


「そうらしいね。リーナはカレンに会ったのか?」


「私は直接(ちょくせつ)会ってないわ、お兄様(にいさま)が」

とリーナは答えた。


「そうか」

 エドワードは少しほっとした。 


 カレンの(おっと)()くなった話を直接(ちょくせつ)聞くのは、聞いた方も(つら)いはずだから。


「でも、エドワードたちがカレンに(つた)えに来てくれて良かったと思うわ」

 リーナが意外(いがい)にも(あたた)かい眼差(まなざ)しで言った。


「は? 何でだ」

エドワードはぎょっとした。


「だって、カレンはずっとダミアンの安否(あんぴ)を気にしてたのよ。今回は悲しいことだったけど、カレンも知れて良かったんじゃないかしら」

 リーナはしんみりと言った。


「そーか? 知らない方が幸せだったりとかはないのか?」

 エドワードは聞いた。


「え? 私なら、(おっと)()んだことを知らずに待つより知りたいかな。次に進めるもの」

 リーナの口から”(おっと)”という言葉が出たので、エドワードは一瞬(いっしゅん)どきっとした。


 しかしリーナは何も気づかず、

「ねえ? なんでダミアンはカレンに少しも連絡よこさなかったのかしら。魔術なんて、いくらでも伝える方法があるんじゃないの?」


「あー。潜伏(せんぷく)してるときはできるだけ魔術使わないんだ。魔力は同業者(どうぎょうしゃ)感知(かんち)されるからな」

 エドワードはめんどくさそうに説明した。


「あら、そうなの……」


「あと、やっぱ傍受(ぼうじゅ)のリスクがあるからな。余程(よほど)じゃないと、魔術で伝言(でんごん)を送ることはないな。大事なことほど(じか)に、ってのが基本」


「そうなんだ。知らなかった。私ったら、ダミアンのこと大分薄情(だいぶんはくじょう)だと思ってたわ」

 リーナが(もう)(わけ)なさそうに言った。


「おい、()んだやつのことあんま悪くいうなよ。そいつは、たぶん、よっぽど慎重(しんちょう)になってたんだと思うぜ」

 エドワードはそう言いながら、ダミアンの潜伏先(せんぷくさき)を思い出した。


 そう、だからこそ、ロベルトと俺をしてもなかなか居場所(いばしょ)(つか)めず本当に苦労(くろう)した。


「そっか。にしても、エドワードって、本当に魔術師さんなのね……」

 リーナが少し感心したように言った。


「は? 俺、一応(いちおう)ちゃんとやってんだけど」


「だって今回は郵便屋(やうびんや)さんみたいなお仕事だったし」


「おい! (りゅう)から助けてやったろ!」

 エドワードが声を上げた。


「あ、そっか。その(せつ)はありがとう」


「本当に感謝してんのかよ。じゃ、お礼にキスでも」

 エドワードが真面目(まじめ)な顔で言うので、言うので、リーナは赤くなった。しかし、リーナは無視することにした。


 そう、俺はあのとき、(りゅう)からリーナを助けられて良かった。あのとき、リーナに出会えてよかった。だから、今、俺はリーナのそばにいられる。


 エドワードはリーナの顔を見つめながら思った。


 リーナはその視線(しせん)にもじもじした。


「ん?」とエドワードは思った。

 

 リーナの「もじもじ」がなんだかいつもと違う雰囲気(ふんいき)だったからだ。エドワードはそれくらいはリーナのことがわかるようになってきていた。


 やはり、口を開いたリーナは意外(いがい)なことを言った。


 リーナは、本当は今日、ずっと聞きたかったことを聞いた。


 今日、聞きたかったこと。


「ねえ、エドワードは、これまで他にどんな仕事をこなしてきたの?」


 エドワードは、(ちっ) と思いながら、(こいつはまた面倒(めんどう)な質問だ) と思った。

「言えねーな」


守秘義務(しゅひぎむ)?」

 リーナは残念そうに聞いた。


「ま、そんなもんかなー」

 エドワードは心の中で、(リーナに言えるかよ) と思いながら 適当(てきとう)に答えた。


「そっか」

 リーナは少し(こま)った顔をした。


 エドワードは、この部屋にいるときはいつも頭から()(はら)っていることを思い出して、ため息をついた。


 リーナ、俺はいつだっておまえを()(たお)したいって思ってる。

 いつだって。今だって。


 だけど、俺は本当は人を何人か(ころ)してる。


 このことを思い出すとリーナのそばにいてはいけないのではと思う。


 だけど、こうして、俺はリーナのそばにいたい。


 だから、今こうしている時間は、自分が人殺(ひとごろ)しなことは出来(でき)るだけ考えないようにしている。


 リーナ、俺は、おまえに人殺(ひとごろ)しがバレるのが怖い。


 俺が人殺(ひとごろ)しと知っておまえが(はな)れて行くんじゃないかと思うから。


 俺は、どうしたら、と毎夜(まいよ)思っている。


 そして、(かく)したままこうしてずっときている。俺は最低(さいてい)な人間なんだ。


 その時、突然(とつぜん)少しリーナが口調(くちょう)を変えた。先程(さきほど)の質問で要領(ようりょう)()なかったので、質問を変えるつもりだった。


 躊躇(ためら)いがちに口を開いた。

「あの、ちょっと、聞いてもいい?」


「なんだよ、リーナ。急に」

 エドワードはまた面倒(めんどう)な質問か?と思ったが、リーナが何か(あらた)まっている様子を感じとり、なんとなく()(どく)になって、(うで)()ばしてリーナの頭を優しく()でた。


「言ってみ?」

 リーナはエドワードの優しい目を見て、少し勇気(ゆうき)が出た。


「あの、何か王都(おうと)とかで(みょう)(やまい)流行(はや)ってないかな? 致死性(ちしせい)の」


 エドワードは、本当に寝耳(ねみみ)(みず)な質問だったので、思わず、

「は?」

と聞き返した。


「は? えっと、(みょう)(やまい)って言ったか?」


「うん」

 リーナは(うなず)いた。


 エドワードは

「何かあったっけか?」

(ちゅう)(あお)いで思い出そうとした。


 そのとき、エドワードの脳裏(のうり)にある瀕死(ひんし)の男の様子がまざまざと思い出された。


 数ヶ月前、安宿(やすやど)の暗い一室(いっしつ)だった。


 エドワードがロベルトと(おとず)れた時、その男はベッドに仰向(あおむ)けに寝ていたが、意識はもうなく、目がくぼみ、足先が痙攣(けいれん)していた。


 ヒューヒューという苦しそうな呼吸音(こきゅうおん)が耳についた。


 ベッド(わき)には水差(みずさ)しと食べかけのオートミールが置いてあった。


 奇妙(きみょう)なことに水差(みずさ)しは10本近くあり、全て(から)だった。


 その後、ロベルトとエドワードには特に何もすることはなかった。ただ横に立っていたら、しばらくしてその男は()んだ。


「あー、そういや、流行(はや)(やまい)かは分からんが、少し奇妙(きみょう)な様子で()んだ人は見た」

 エドワードは答えた。


「どんな症状(しょうじょう)ですか?」

 リーナは(いや)予感(よかん)(むね)(おそ)(おそ)(たず)ねた。


「んー、俺医師(いし)じゃねーから分かんないけど。ベッドに寝たきりで、目が(くぼ)んで、呼吸が(あら)くて、そのまま()んだ」

とエドワードは答えた。


「似ている」とリーナは心の中で思った。


 悪い予感は当たった。急に動悸(どうき)(はげ)しくなった。


「いつ? どこで見たの?」

 リーナは(ふる)える声で聞いた。


「仕事で」


「仕事で?」

 ああ、やっぱり、とリーナは思った。


 リーナはエドワードの言葉に目眩(めまい)がした。


 エドワードは仕事でと言った。やはり、あの女の人は、ロベルトやエドワードに関係している人なのかもしれない。


 あの女の人はたぶん魔術(まじゅつ)をかけられている。魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に命を(ねら)われているのかもしれない。


 そう、ダミアンのように。


 リーナは青ざめた。


 じゃあ、ロベルトとエドワードは、何者?


「ってゆか、どーした、リーナ。顔が真っ青だ」

 エドワードはリーナの異変(いへん)に気づいた。


 ガタッと席を立ち、リーナの(かた)()いて手を取った。

「大丈夫か? 手が(つめ)たい。ちょっと休むか?」

 エドワードはリーナを()きかかえようとした。


「あ、エドワード、ちょっとここで休めばだいじょうぶだから」


「ばか。部屋に送ってやる」

 エドワードはリーナを()きかかえた。


 リーナは()ずかしかったが、まだ頭がくらくらしていたので抵抗(ていこう)できなかった。


 エドワードはリーナの部屋に急いだ。


 その時、偶然(ぐうぜん)シャールがやってきた。


 そしてリーナとエドワードの様子を見て、血相(けっそう)を変えて()けて来た。

「おい、どうした、リーナ!? エドワード、何かしたのか!?」


「は? まだ何もしてねーし。気分悪そうだから部屋に送ってくとこ」


「は? まだって何だ!」

とシャールはエドワードを(にら)んだ。


「お兄様、ごめんなさい、だいじょうぶです。ちょっと気分が悪くなっただけ。ありがとう、エドワード」

 リーナはエドワードの(うで)から()りようとした。


「だいじょうぶじゃないだろ。このまま連れてってやるから」

 エドワードがリーナを()きかかえたまま行こうとした。


 シャールはエドワードの(かた)(つか)んた。


「エドワード、すみません。だいじょうぶです。ここからは私が」

と言って、エドワードからリーナを引き()がした。


 エドワードは一瞬(いっしゅん)戸惑(とまど)ったが、何も言わずに()を引いた。


 シャール。ずいぶん強引(ごういん)だなとエドワードは思った。


 シャールはエドワードに軽く会釈(えしゃく)すると、リーナを()きかかえて部屋に連れて行った。


 その様子を、少し離れたところで、()(あらそ)いの声に気づいて顔を出したロベルトが、(あき)れた顔で(なが)めていた。


お読みくださってありがとうございます。


もし少しでも面白いと思ってくださる方がおられましたら、

下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方、

ほんの少しでも構いませんので!

どうぞよろしくお願いします!

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