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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第1部: 追う者と追われる者
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3. 見つかった者の死

 その日の夜は風が強かった。


 古い宿屋(やどや)はいちいち風で(きし)んで音を立てた。風のせいだろうか。それとも集中しすぎたせいだろうか。ダミアンは突然(とつぜん)訪問者(ほうもんしゃ)に気付かなかった。


 それは黒髪と金髪の二人組の魔術師(まじゅつし)だった。


 二人は音もなく部屋の戸を開けて入ってきた。ダミアンは急に現実に引き戻され、背筋(せすじ)(こお)って顔色を失った。


「ダミアン・ホースだな?」


 黒髪のロベルトが写真を片手に聞いてきた。ダミアンは何も答えなかった。


「答えないってことは当たりだな」

 ロベルトは言った。


「俺たちのことは分かってるんだよな? 魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に言われて来た。何か言うことあるか?」


 ダミアンは何も答えなかった。その目は(あきら)めがあったが不思議(ふしぎ)と落ち着いていた。


「一人か? おや、ここに写真があるな」

 ロベルトはダミアンをチラリと見て挑発(ちょうはつ)した。


 ダミアンの(ひたい)に汗が流れた。それは妻の写真だった。魔術師ではないから殺されることはないはずだ。そもそも王都(おうと)を逃げ出してから一度も会っていない。


 会えて、いない。


 ダミアンがまだ何も答えないので、ロベルトは(てのひら)を上に向けて、ふわりと魔術を使い、この部屋に残された魔力を調べてみた。


 二種類の光がうっすらとロベルトの(てのひら)の上に浮かび上がった。


「この部屋に(だれ)(ほか)にいたな?」


 ロベルトの言葉にダミアンははっとした。アデルの顔が思い浮かんだ。ロベルトはダミアンのの顔色が変わったのを見逃(みのが)さなかった。


「この部屋を()れば仲間も()げられるな」

 ロベルトは(となり)のエドワードに言った。エドワードも(うなず)いた。


 ダミアンは表情(ひょうじょう)強張(こわば)らせた。それだけはさせられないと思った。アデルには指一本触(ゆびいっぽんふ)れさせない。


 アデルには(りゅう)の魔術の概要(がいよう)はもう渡してある。自分の役割(やくわり)は終わっているようなものなのだからいつ死んでもだいじょうぶだと思っていた。


 だが、この状況(じょうきょう)を、アデルに知らせなければならないことに気づいた。もうここには近づかないように。


 ダミアンはこれまで魔術開発(まじゅつかいはつ)ばかりで、実戦(じっせん)という実戦(じっせん)はほとんど経験がなかった。


 逆に、ダミアンの目の前に立つこの二人は、若く(たく)ましい百戦錬磨(ひゃくせんれんま)な魔術師だ。(おそ)らく全く(かな)わないだろう。


 ダミアンは(むね)の前で左手で指を組んでから、右手を自分の背で(かく)した。


「右手(かく)して何か(たくら)んでんだろ。魔力()れるし、分かるからな」

 すぐにエドワードが言った。


 ダミアンは()(あせ)が流れた。だが、何もしないわけにはいかない。隠した右手で無数(むすう)の小さい羽虫(はむし)(まぼろし)で出した。


 アデルに危険を知らせる使者(ししゃ)


 そして羽虫(はむし)から目を()らすため、ダミアンは同時に左手で魔術を使い、とりあえず魔力を光に変えて放った。


 (あた)りに閃光(せんこう)が走り、白い光で包まれた。ロベルトとエドワードは(まぶ)しくて思わず顔の前に手をかざした。


 ダミアンはその(すき)(じょう)じて部屋の窓を開け、羽虫(はむし)を外に出した。


 無数(むすう)羽虫(はむし)は夜の(やみ)に消えていった。余程(よほど)の使い手でなければこれだけ()った魔力の羽虫(はむし)を消すことはできないだろう。一匹でもアデルに(とど)けばいい。


「おい、ロベルト! とりあえず光なんとかなるか?」

とエドワードは(さけ)んだ。


 ロベルトは

「こっち系は(まか)せろ」

(つぶや)きながら、ふんわりと(うで)を広げた。


 ずずっという音がして、(あふ)れかえる光はゆっくりとロベルトの腕の中に()()まれていった。


 魔力の光は全てロベルトの手中(しゅちゅう)(おさ)まった。


 ロベルトは自分の腕の中の魔力を(なが)めながら、こういった魔術は普段(ふだん)あまり見かけないな、と思った。


 目が見えるようになったのでエドワードはダミアンを(にら)みつけた。


「何か出してたじゃん。仲間に連絡?」

「……」

 ダミアンは何も答えなかった。


 ダミアンはさっきのロベルトが光を(おさ)める(はや)さを見て(かく)(ちが)いを感じてしまった。


 何とか逃げられないものか。逃げる方法を頭の中で必死に探した。


 ダミアンはロベルトの腕の中にさっきの光がまだ残っているのに気づいた。手中(しゅちゅう)(おさ)めただけなのか? それならもしかして?


 ダミアンは手を()ばした。ダメ(モト)でロベルトの腕の中に(おさ)められた光を圧縮(あっしゅく)して(はじ)けさせた。


 ダミアンの思った通りになった。バンっと大きな音がして、ロベルトが(うめ)きながらのけぞった。ロベルトの(うで)や顔は血まみれになっていた。


「ロベルト、だいじょうぶか!?」


 一瞬(いっしゅん)何事(なにごと)かとエドワードはロベルトを()(かえ)った。


(うで)裂傷(れっしょう)、かすり(きず)みたいなもんだ、気にすんな! それよりあっち!」

とロベルトはエドワードに怒鳴(どな)った。と同時に、集めた光を()ぜさせる、これもまたなかなか見ない魔術だね、とロベルトは思った。


 エドワードは(あわ)ててダミアンの姿(すがた)を探すと、ダミアンは(まど)から姿を消そうとしていた。


「あ、ちょっと逃げよーとしてるじゃん」


 エドワードは(あわ)てて拘束(こうそく)の魔術を使った。筋状(すじじょう)の魔力がエドワードから何本も何本も一気(いっき)放出(ほうしゅつ)され、ダミアンを(から)め取ろうとした。ダミアンはぎょっとした。


「なんだ、この魔力の量……」


 拘束(こうそく)の魔術自体はよく見るものだったが、その威力(いりょく)にダミアンは圧倒(あっとう)された。


 相当(そうとう)な使い手じゃないか。ダミアンは冷や汗をかきながら、拘束(こうそく)の魔術を相殺(そうさい)するものを頭の中で探した。


 魔力塊(まりょくかい)であれば何でも良いはずだ。だが、問題はこの量だ。いちいち魔力塊(まりょくかい)を作ってぶつけるほど、ダミアンは普段から魔力塊(まりょくかい)を使い()れていない。


 ダミアンは、アデルの作った(なみ)の魔術ならいけるかと思い、アデルの応用魔術(おうようまじゅつ)を頭で必死(ひっし)に探した。


「使ったことないけど、理論(りろん)は分かる。いけるか」


 ダミアンは拘束(こうそく)の魔術が走るときの空気の振動(しんどう)をすかさず魔力塊(まりょくかい)に変えて、筋状(すじじょう)の魔力にぶつけた。


 あちこちで、筋状(すじじょう)の魔力はダミアンの作った(なみ)の魔力に触れると固定(こてい)され、バチバチと()ぜて消えた。


 次々に増幅(ぞうふく)した(なみ)のエネルギーが筋状(すじじょう)の魔力にぶつかっていく。


 エドワードはぎょっとした。これは比較的(ひかくてき)新しい魔術だ。こんな薄汚(うすぎたな)()せ男が使えるとは思わなかった。


 と同時に、ダミアンは今度は暗闇(くらやみ)を作るために光を消す魔術を使った。ダミアンが(はな)つ魔力はゆらりとダミアンの周囲を(おお)い、のたりと広がっていった。


 これはダミアンの最新(さいしん)(さく)だった。ダミアンの周囲の光子(こうし)を、消す。部屋のランプは()いていたが、ダミアンの周囲だけ真っ暗になった。


 ロベルトは怪訝(けげん)そうな顔をした。ランプは()いているのに部屋が暗いだと? 見たことのない魔術だった。


「これってどういう魔術!? 作用機序(さようきじょ)が分からん。お前知ってる?」

とロベルトはエドワードに聞いた。


「え! おまえが知らねーのに、俺が知るわけねーだろ! じゃあおまえ、アレだ、最終兵器(さいしゅうへいき)!」

とエドワードは怒鳴(どな)った。


 ロベルトははっとして(うなず)くと、両手を()き出した。ロベルトの手からぬめっとした感触(かんしょく)の魔力が(あふ)れ出てきた。


 その()り付くような魔力は部屋に()ちていき、ダミアンの魔力が()ち消されていった。ランプの光が(とど)き出した。


 ダミアンは逃げなければならないのに、その魔術に(おどろ)いて目を見張(みは)った。ダミアンはその場から動けなかった。これだ! これだ! 探していたものは。ああ、アデル!


 これはアデルに伝えなければならない。ダミアンは窓から飛び出した。


 咄嗟(とっさ)のことで、もう一度羽虫(はむし)を使うことなどは頭から()け落ちていた。窓から外の木の枝に落ちるように()(うつ)ると、がさっと大きな音がした。ダミアンは無我夢中(むがむちゅう)()りていった。


「おっと! 逃げるな」


 エドワードは薄暗(うすぐら)い中、窓枠(まどわく)()()った。


 そしてロベルトに目配(めくば)せすると、ひょいっと窓から外へ出て、トントンと木を降りダミアンを追った。


 ダミアンは木を下りきったところで、体勢(たいせい)を少し(くず)していた。


 エドワードはザっと(えだ)()ると同時に(けん)()き、ダミアン目掛(めが)けて()りおろした。


 (けん)からは魔力が放出(ほうしゅつ)された。(けん)()()手応(てごた)えと、魔力がぶつかった手応(てごた)えがあった。


 (うめ)き声がした。月明(つきあ)かりの(かげ)で人が(くず)れる気配(けはい)がした。やがてその人影は全く動かなくなった。


 エドワードは一仕事(ひとしごと)を終え、ふうっと大きく息を()いた。


 見上げるとさっきの部屋の窓際(まどぎわ)にロベルトがいた。ロベルトは上からうち()せられたダミアンを見て、大きく(うなず)いた。エドワードは安心したように笑顔を見せた。


 よし、これで、また一つ仕事が()んだ。

はじめての作品です。まだまだ続きます。あたたかく読んでくださるとありがたいです。


ご感想や評価もいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。


また、これからの励みになりますので、もしほんの少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、


下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方、


ほんの少しでも全然構いませんので、


どうぞ、どうぞ、よろしくお願いいたします!

お手数おかけしてすみません!

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