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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第5部: アデルと死の魔術
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29. 神経質な魔術師と、気付かない気の毒な魔術師

 ロベルトは夜中(よなか)目を()ました。


 神経質(しんけいしつ)なところのあるロベルトは、寝る前に何時と決めれば、自然とその時間に起きることができた。


 今日も時間通りだと思った。


 ロベルトは隣のベッドのエドワードを見た。エドワードは軽いいびきをかいてぐっすり眠っていた。


 エドワードは、本当に気持ちよく眠る。


 ロベルトはテキパキと、いつもの兄たちへの定期連絡(ていきれんらく)をすませた。


 知り()た情報はできるだけすぐに報告する。そして、自分も情報を得て、次にどういう行動を取るべきか考える。


 今日はシャールから、カレンが魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)(おとず)れるために村を()ったことを聞いた。


 ダミアンの()真相(しんそう)を知り合いに聞くと言う。


 カレンは手紙を読んで、すぐ()めたようだった。


 (はら)()わった女だな、とロベルトは思った。


「俺も知りたいもんだがな。ダミアンがなぜ(ころ)されなければならなかったか」

 ロベルトは一人(つぶや)いた。


 とにかく、カレンにはきちんと(つた)えられたようだ。任務完了(にんむかんりょう)


 これで俺のこの村での用事はお(しま)いだ。


 長いことシャールには世話(せわ)になり、そもそも彼に(たの)んだ用事も良いものではなかったので、すぐにでも()つかと思ったが、ロベルトはエドワードの顔を思い浮かべた。


 エドワードがリーナを何となく気に入っていることは、ロベルトも(かん)づいていた。


 いや、何となくどころではない。この家のあちこちで、使用人が(うわさ)をしている。


 エドワードがリーナに強引(ごういん)にキスしたとか何とか。シャールに見つかったとか何とか。


 使用人の(うわさ)なのでロベルトにはどこまで本当か分からない。が、火のないところに煙は立たない。エドワードが何かしでかしのは本当だろう。


「にしても、バカなヤツ」

とロベルトはエドワードには聞こえないように(つぶや)いた。

「俺に遠慮(えんりょ)とかねーのかよ。女に本気(ほんき)になるとか」


 エドワードは(ひま)なので、リーナの薬作りを手伝っているようだった。馬であちこちリーナを連れて行っているらしい。

 シャールとリーナは、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)から竜避(りゅうよ)けの薬をたくさん作れと言われているらしいので、大事な仕事とも言えた。

 そしてリーナが薬の調合室(ちょうごうしつ)にこもっている間は、エドワードもそこに入り(びた)っているようだった。


 無邪気(むじゃき)なもんだな、とロベルトは思った。


 だが、エドワードは(けっ)して仕事とプライベートを混同(こんどう)はしないだろう。エドワードの気持ちがこれ以上大きくなる前に出発した方がいいな。エドワードが冷静に今後の自分の未来を描けるまで。


 俺たちは仕事上のパートナー。恋愛も結構。結婚も結構。だがそれは、仕事外での話だ。


 それからロベルトは自分のことを考えた。

 先程の兄との定期連絡で自分が次に何をするべきか明白(めいはく)には決まらなかった。


 ダミアンとカレンは一つのヒントになるはずだとは思っていた。だが、カレンが魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に行くと言うのなら、カレンは何も知らないのだろう。


 「カレンを魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に案内する」とか言って自分もついて行けば、何か分かるかもしれなかったのだが、なにぶんダミアンを(ころ)したのは自分たちである以上、迂闊(うかつ)にカレンに近づけない。


 まあ、どうせクレッカー長官も、カレンには(たい)した内容は話さないだろう。


 ロベルトはため息をついた。


 そのとき、ふと窓から外を眺めたロベルトは意外(いがい)なものを目にした。


 リーナだった。


 黒っぽいフード付きの外套(がいとう)を頭からすっぽりと(つつ)み、人目(ひとめ)()けるように下を向いて足速(あしばや)に歩いていく。


「なんだ?」

 ロベルトは唖然(あぜん)とした。


「こんな夜中にどこへ? (あや)しいな。シャールは気付いてんのか?」


 それから隣でぐっすり眠るエドワードを見た。

「こいつと逢い引きってわけじゃなさそうだし」


 一瞬(いっしゅん)外套(がいとう)(はし)から見えたリーナの異様(いよう)な表情を見て、ロベルトはなぜかわからないが「何かおかしい」と感じた。


 ロベルトはもう一度首を(かし)げると、窓の外に置いてあったガーベラの花びらを数枚ちぎってふっと息を吹きかけた。


 するとガーベラの花びらは魔力を()び、追跡(ついせき)できるようになった。


 ロベルトはそっと気付かれないように窓を開け、隙間(すきま)からその小さい花びらたちを外に出し、リーナに付着(ふちゃく)させようとした。


 花びらはさておき、一般的な追跡(ついせき)の魔術だ。


 だが、さあ花びらを飛ばすぞというとき、ロベルトはふと手を止めた。


 リーナが、もしこれから(だれ)か魔術師と会うのなら、こんな追跡(ついせき)の魔術は簡単に見つかり、リーナたちにロベルトが気づいたことを教えてしまう。


 それは今後どんな展開(てんかい)になろうともきっと不利(ふり)(はたら)くだろう。


 情報を集めるなら、あくまでこっそりとだ。


 ロベルトは、すっとガーベラの花びらから魔力を消した。


「ただの村の恋人との逢瀬(おうせ)とかならいいんだけどな。おっと、良くないか」

 ロベルトはエドワードの顔を(なが)めて苦笑(くしょう)した。


 しかも、ロベルトが見る限り、リーナは少しも浮かれた様子には見えない。

「恋人と逢瀬(おうせ)なわけねーよな、あの感じ」

とロベルトは思った。


 しかもリーナは慣れた足取りだった。

「それにあの所作(しょさ)。今夜が初めてではないな」

 ロベルトは(つぶや)いた。


 昼間のリーナは、夜中の外出なんて微塵(みじん)も感じさせなかった。


 俺たちに(かく)すと言うことは、何か彼女なりに思うことがあるのだろう。


 それは俺たちには関係ないことかもしれないが、もしかしたら関係してるかもしれない。


 例えば(だれ)か魔術師とかと接触(せっしょく)していたら……。


「さて、どうするかな」

 ロベルトは口端(くちはし)で少し笑った。


「にしても、あのカッコ、うちの儀式みたいだ」

 ロベルトは心の中で思い、(まゆ)をしかめた。


 家中静まりかえっている。おそらくシャールや使用人は気付いていないだろう。


「シャールも、まだまだだな」

 ロベルトは思った。


 そして、何も知らずに眠る隣の同僚(どうりょう)をもう一度()(どく)そうな顔で(なが)めた。


 エドワードも、な。


 近くにいる()いた女から(かく)し事されたら、(おそ)らく悲しいだろう。

 こんなリーナを見てしまったら、エドワードはどんな顔をするだろう。あまりエドワードには知らせたくない。


 とりあえず俺が一人で動くか?


「いやあ、(あや)しいよなあ」


 何も気づかないリーナが小走(こばし)りに出かけていくのをロベルトは窓からずっと(なが)めていた。

 


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