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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第5部: アデルと死の魔術
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28. 瀕死の者 〜リーナの確信、恐らく死の魔術〜

 リーナはベナンと二人、(つか)れた足取(あしど)りで村への帰り道を急いでいた。


 今日は朝から村長(そんちょう)()れられて隣村(となりむら)往診(おうしん)に行っていた。


 先週の(りゅう)被害(ひがい)以来、リーナは隣村(となり)を見に行けていなかったので、村長(そんちょう)慰問(いもん)に行く(さい)一緒に往診(おうしん)に行かないかと(たの)まれた時、(ふた)返事(へんじ)快諾(かいだく)した。


 同時に、シャールは何かあった時の村長代理(そんちょうだいり)のようなものとして待機(たいき)(めい)ぜられた。


 シャールは(はじ)めあれこれ、(たと)えばリーナを手伝(てつだ)う者が()るとか、村長代理(そんちょうだいり)として自分が慰問(いもん)に行くとか言って、何とかリーナについて行こうとしたが、村長(そんちょう)に笑っていなされて(しま)いだった。


 そして村長(そんちょう)は、村長代理(そんちょうだいり)(つと)めるシャールの()わりに、ベナンをリーナのお手伝いに()り出したのだった。


 シャールは不愉快(ふゆかい)そうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。


 だが実際は、シャールは留守番(るすばん)でも良かった。まだ目的不明(もくてきふめい)の魔術師の客人(きゃくじん)が村に居座(いすわ)っていたからだ。


 隣村(となりむら)()いたリーナとベナンは、(りゅう)(おそ)われて怪我(けが)をした人を順々(じゅんじゅん)訪問(ほうもん)した。


 (さいわ)(みな)重傷(じゅうしょう)軽傷(けいしょう)はあれど快方(かいほう)に向かっていた。


 重症(じゅうしょう)火傷(やけど)で命が()つか心配だった者も、包帯(ほうたい)の下とはいえ(いき)(らく)になっており、以前より落ち着いていた。


 リーナはそれぞれの家で怪我(けが)具合(ぐあい)()て、追加(ついか)で薬が必要な者には薬を出した。


 ベナンは怪我人(けがにん)が体を()こすのを手伝ったり、怪我(けが)のせいでできなかった家の中の不便(ふべん)ごとなどを手伝ってやったり、甲斐甲斐(かいがい)しく動いた。


 不幸中(ふこうちゅう)(さいわ)いで怪我人(けがにん)は多くなかったため、昼過(ひるす)ぎには往診(おうしん)は終わった。


 隣村(となりむら)の者たちはこの慰問(いもん)感謝(かんしゃ)し、せめて夕食に歓待(かんたい)(せき)(もう)けると言った。


 リーナとベナンは心身(しんしん)ともに(つか)れたので、それよりも早く帰りたいと思い、村長だけを置いて、二人で帰宅する運びとなった。


 二人はとにかく家を目指して帰り道を(いそ)いだ。


「リーナ、思ったより(みな)元気になってて良かったな。破壊(はかい)された家とかもだいぶ片付(かたづ)いてたし」

とベナンは言った。


「うん。ベナンもありがとね。今日は大変(たいへん)だったでしょ?」


「ん? (べつ)に。おまえと一緒(いっしょ)だったしな。あー腹減ったなー」

 リーナはベナンの底抜(そこぬ)けの人の良さに(あたた)かい気持ちになった。


 正直(しょうじき)リーナは人の怪我(けが)を見ると、(いた)ましくて気分がだいぶ落ち込むのだった。


 それに(くら)べてベナンは、リーナの横で、人の怪我(けが)を見ても

「あ、まだ、怪我(けが)けっこう大変(たいへん)っすね。ま、でもこれなら(なお)るっしょ」

と明るく言ってくれるので、気持ち的にリーナはだいぶベナンに(すく)われていた。


 たぶんベナンはリーナを(ふく)(みな)の気持ちを明るくするために、わざとそういう物言(ものい)いをしていたのかもしれない。


「ベナン、今日はほんと助かったわ。あなたのおかげで気持ちを強く持てた」


「ばか、(あらた)まって言うな。()ずかしい」

 ベナンは笑って言った。


「でも、どーだ。俺に()れたか?」

とベナンがニヤッと笑って言うので


「いや、それはない」

とリーナも笑って答えた。


「ちっ」

 ベナンは(した)を出した。


「つーか、おまえ、村中の連中で、すっげー噂になったんだけど」

 ベナンは心配そうに言った。

「金髪の魔術師だろ!? おまえ、ほんとに変なことされてない?」


「え! どんな(うわさ)になってんのよ?」

 リーナは顔色を変えた。


「あー、やめてくれ、俺の口からは言いたくない!」

 ベナンは空を(あお)いだ。


「え、マジで、噂が今どうなってるのか知りたいんだけど」

 リーナは確認したかった。


「え? おまえが、その、えーっと、男に押し倒されてー」

 ベナンは言葉を(にご)した。


 ああ、やっぱり、とリーナは思った。

 私はもう、傷物(キズモノ)ね。


 二人は(だま)って村への道を歩いた。


 やがて、夕方前になって、自分たちの村がもう目の前といった(ころ)、すぐ前方の道端(みちばた)の木の(かげ)で、かさっと何かが動く気配(けはい)がした。


 リーナとベナンはドキッとして立ち止まった。


「何だ? リーナ俺の(うし)ろへ」

 ベナンはリーナの(うで)(つか)むと自分の(うし)ろに()いた。


 リーナはその影を凝視していたが、はっとすると、途端にベナンの後ろから飛び出し駆けて行った。


「おい、危ないぞ、リーナ!」

 ベナンの声にリーナは答えなかった。


 木陰で具合の悪そうな女の人が倒れかかっていた。


「だいじょうぶですか!」

 リーナは声を上げて女の人に駆け寄った。


 唇が乾き、頭を押さえていた。熱中症か? 昼間、気温が高かった。外にずっといたのなら具合が悪くなってもおかしくない。


 ベナンも駆けて来た。

「おい、こりゃ……」


 ベナンはリーナを押し除けた。

「おい、村に連れてくぞ。俺が担ぐ」

 ベナンはひょいっと女の人を抱えた。


 二人は道を急いだ。

「とりあえず俺んちでいいか? おまえんちの方が薬があるか?」

 ベナンが聞いた。


 リーナは女の人の様子を見て、なぜだかわからないが何となく違和感を感じた。そこで、ごくりと喉を鳴らし、

「ベナン、うちの薬草畑の納屋に運んでくれる?」

と言った。


「ん? りょーかい」

とベナンは言った。


 リーナの納屋の隅には少しばかり薬草作りができるスペースが増設してあった。長い時間過ごすこともあるので、少しくつろげるスペースもあった。


リーナは寝具になりそうなものを集め、ベナンはその上に女の人を寝かせた。


 リーナは急いで水を飲ませたり扇いだが、その女の人の具合はなかなか良くならない。


 熱中症ならとにかく体温を下げねばと、体に水をかけて扇いだがぐったりしたままだ。


「良くならないな。リーナ、どーする? このまま納屋に寝かせておくのもどうかと思うぜ。家連れてくか?」


「そうね……」

 リーナは自分の口元に手を当てて思案した。


 ずっと胸騒ぎがしていた。これはただの熱中症ではないのではないか。何かがおかしい。


 家はだめだ。


 目的の分からない二人の魔術師の客人の顔がよぎった。


 リーナはその女の人を納屋においておくことにした。


 女の人は脱水症状を起こしていそうだってので、リーナは水をたくさん飲ませ、とにかく何でもよいから具合の悪いのを緩和できそうな薬をかたっぱしから飲ませてみた。


 すると少し症状が回復し、女の人は朦朧としながらも目を開けた。


 だが、リーナの嫌な予感は消える事がなかった。案の定、しばらく時間が経つと、その人はまた初めのような状況に戻ってしまった。


 どの薬が効いたのか分からないので、またとにかくあるだけ飲ませる。


 これは、熱中症だろうか? リーナは思った。


 それならどうして、良くなってからまた悪くなるのだ?


 外はあっという間に夜になり、あたりは暗くなった。


「リーナ、とりあえず、おまえは帰れ。シャールが心配する」

とベナンは言った。


「でも……」


「俺がグレースと交代で見とく。おまえが飲ませてる薬もだいたい分かったし、だいじょうぶだ。何かあったら呼びにやるから」


「でも……」


「おまえが家じゃなくここに連れて来たのは、何か嫌な予感がするからだろ?」


「……うん」


「それはあの魔術師か?」


「……うん、分かんないけど」


「ああ。じゃあ、家じゃ普通にしとかねーと。変だと勘ぐられちゃダメだろーが」


「そっか、そうね……。でもいいの? ベナン? 大変なこと押し付けちゃって」


「俺は別にいーよ、グレースもわかってくれるだろ」

 ベナンは言った。


 だが、ベナンは急にひどく真面目な顔になって、

「リーナ、シャールには言えよ」

と言った。


「言えないわ。これ以上迷惑をかけられないもの」


「迷惑なもんかよ」

 ベナンの、声は少し怒りが混じっていた。


「だって、この女の人がもしあの魔術師さんの関係者だったとして……シャールを巻き込むことだけは嫌。シャールはこの村の大事な人で、私はただの居候なのよ!」

 リーナは蒼白の顔で言った。


 ベナンはシャールが、どんな気持ちでリーナと暮らしているかぶちまけてやりたい気持ちもあったが、それ以上は何も言わなかった。


 その日から、ベナンとグレースは交代でその女の人の看病をしてくれた。


 次の日リーナがグレースに謝ると、グレースは笑って「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言った。


 リーナはベナンとグレースの反対を押し切って、夜中こっそり家を抜け出して納屋へやってきた。そして夜中の看病はリーナがすると言い張った。


 女の人はここ数日、水と薬を数時間おきに飲んでいるのに、ずっと脱水症状のような容体のまま、劇的な回復は見られなかった。


 薬のおかげで少し良くなったと思っても、また悪くなって昏睡状態に戻ってしまうのだ。


 リーナとベナン、グレースは、とにかく水と薬を飲ませるのを繰り返し、なんとか女の人の命だけは繋いだ。


 だが意識が戻ることはなく、どんどん危険な状況になっていった。


 もはやリーナには確信があった。


 たぶん、これは、魔術だ。


 しかも見たことのないもの。


 解けるのか、どう解けばいいのかも分からない。


 女の人は肩で息をしている。直感でこの人がもう保たないのには気付いている。


 これまでも薬師として力及ばず、何人も看取らなければならなかったが、今回の件に関してはひどく後味が悪かった。


 なぜなら、目の前の人はただ脱水症状を起こしているだけで、正しく処置すれば本来なら助かるはずだったからだ。


 だが恐らく魔術が邪魔をしている。


 これは、殺人なのだ。


お読みいただきありがとうございます!


ほんとにすみませんが、今後の励みになりますので、

ほんの少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、

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もちろん低評価でも構いませんので、


ご評価の方、お聞かせいただけるとありがたいです!

お手数をおかけしますが、どうぞよろしくお願い致します!

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