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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第5部: アデルと死の魔術
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27. あの日の、そして一際強引な今日のキス

 リーナはエドワードがネズミに()まれて以来、本当はすぐにでもエドワードの怪我(けが)を見に行きたかった。


 だが、兄に(おこ)られて、なんとなく()きそびれていた。


 しかし、今は兄もロベルトも用事があるようで外出していた。リーナは兄に罪悪感(ざいあくかん)をらもちながらも、エドワードが心配で、今日こそはエドワードのら(かた)傷口(きずぐち)()よう、と思った。


 リーナは、薬箱を手に、エドワードの部屋を訪れた。


 とたんに先日のキスが思い出されて、リーナは顔が赤くなった。


「いや、だいじょうぶ。先日は何かおかしかっただけ。エドワードみたいな貴族の子息(しそく)が私なんかに」


 リーナは気を取り直した。


 リーナはトントンとエドワードの部屋の戸を(たた)いた。

「すみません、大分時間()っちゃったんどけど、(かた)傷口(きずぐち)を見に参りました」


 部屋の中で物音がした。

「ああ、入って」

 エドワードの声だった。


 リーナが扉を開け、エドワードの部屋に入るや(いな)や、エドワードがリーナの腕(うで)(つか)み、リーナを自分の(うで)の中に抱き入れ、キスをした。


 それはエドワードの部屋の(とびら)が閉じる前の光景だったので、付近にいた使用人の目に()まることとなった。


 使用人はぎょっとして、ざわついた。


「エ、エドワード、ちょっと部屋の外が……」

 リーナはエドワードの(うで)の中で言った。


(かま)わん」


「いえ、私が(かま)いますよ! ってゆーか、どーしたんですか、今日は!? いつもはこんなことしないのに!」


 リーナはエドワードが好きだった。リュウシソウをとりに連れて行ってくれたり、ネズミを捕まえてくれたり、薬の調合室に遊びにきて話し相手になってくれたりした。


 リーナが、もしどこかで、(りゅう)(おそ)われた村の後方援護(こうほうえんご)活動(かつどう)をするなら、そこで(りゅう)退治(たいじ)してくれるのはエドワードがいい。


 エドワードは優秀で、(りゅう)などたちまちやっつけてくれるだろう。


 だけど。

 

 だけど、キスは違う。身分(みぶん)が、違うから。


「あと、こんなに使用人が(さわ)げば、外からでもお兄様が飛んできます、多分(たぶん)

とリーナは言った。


「シャールが?」

 エドワードは(いや)そうな顔をした。


「私が他の男の人と(しゃべ)るだけでもうるさいですから。ましてやこんな……」

 リーナは自分の(くちびる)に手を当てた。


「シャールが来るなら今のうちだな。いやか?」

 エドワードは(あらた)めてリーナをぐいっと引き寄せると、じっと目を見ながら聞いた。


(いや)というわけでは……」

 リーナはエドワードの真っ直ぐな目が()ずかしくて目を()らした。


「なら問題ないな」

 エドワードはまたしてもリーナを(うで)の中にしっかりと抱き、口付けた。


 リーナは(あわ)ててエドワードの体を押しやろうとした。

「問題ありまくりですよ、エドワードは貴族様(きぞくさま)でしょ! 私はただの村娘(むらむすめ)なの!」


 だがエドワードの(きた)()かれた体はびくともしなかった。

「それがどうかしたか?」


「どうかしたか、じゃないでしょ! 身分!」


「そんなもの、俺は知らん」

 エドワードはムッとして言った。


「王都には他に綺麗(きれい)御令嬢(ごれいじょう)がいっぱいいるでしょ。本当は許嫁(いいなずけ)とかもいるんじゃないの?」

 リーナは消え入りそうな声で言った。


「俺はリーナがいい。他は知らん」

 エドワードはリーナの(うで)(はな)さなかった。


「いや、だから、身分が……」

リーナが身を捩った。


「ってゆーか、(かた)の傷を見に来たの、私は!!」

リーナは大きな声を出した。


「んなもん、(なお)った! それよりおまえを抱く方が重要だ」

 エドワードも聞かなかった。


「いや、怪我(けが)()んでないかくらい見せてよね。感染症疑(かんせんしょううたが)いあったら飲み薬も飲んでもらいますから!」


()げって?」

 エドワードは意地悪(いじわる)くリーナをリーナを見た。


「もう。今日のエドワードは、本当にどうしたの!? 悪いけど、その(へん)薬師(くすし)として免疫(めんえき)ありますからね。どうぞ、大胆(だいたん)になさってくださっても結構(けっこう)です」


「ふん」

 エドワードは大人(おとな)しく、上半身の衣服をとり、(かた)傷口(きずぐち)を見せた。


 エドワードの言った通りだった。

 最初の処置(しょち)が良かったのか、化膿(かのう)もなく、炎症(えんしょう)が広がっている様子もなかった。


 リーナはほっとした。安心した手つきで包帯(ほうたい)()き始めた。


「これでいいか? じゃあ」

 エドワードはリーナの、包帯(ほうたい)を持つ手を(つか)み、ぎゅっと(にぎ)った。


邪魔(じゃま)よ、包帯(ほうたい)()けません」

 リーナは言った。


「後でいいだろ」

 エドワードは(こら)えきれずに、リーナの包帯(ほうたい)を持つ手から首筋(くびすじ)から、くちづけていった。


「や、ちょっと、エドワード! だから身分(みぶん)が……」

 リーナがエドワードを押しやろうとすると、


「さっきから、身分、身分ってなんだよ! じゃあ、身分の問題さえなけりゃ、おまえは俺を男として見てくれんのかよ!?」

とエドワードが怒鳴(どな)った。


 そこへシャールが飛び込んできた。


 エドワードがリーナを(うで)に抱いているのを見て、


「ちょっと、エドワード。うちの妹に手をださないで下さいよ」

と言った。


 さすがにエドワードもシャールの前で強引なことはできなかった。


 リーナは急いでシャールのもとに逃げた。(もう)(わけ)なさそうにエドワードを見ると、エドワードはそっぽを向いた。


 シャールとリーナは、(だま)ってエドワードの部屋を後にした。


「だいじょうぶだったか? リーナ。何かされなかったか?」

 シャールはハラハラしながら聞いた。


 リーナは本当はあちらこちらくちづけをされたが

「いえ、特に。エドワードの傷口(きずぐち)をみただけ」

(うそ)をついた。


「そうか」

と、シャールはほっとしたように息を()いた。


「だが、(うわさ)になるな。使用人たちの(くち)(ひま)なんだ。村で(うわさ)になられると(いや)だな」

 シャールは大きくため息をついた。


 旅人がリーナにちょっかいを出したと。(うわさ)には尾鰭(おひれ)がついて、リーナの貞操(ていそう)(うたが)われてしまう。


「そ、そうね……」

 リーナも青ざめた。


 村を()(めぐ)(うわさ)がどうなるかは良く知っていた。


「お(よめ)(もら)い手がなくなる……」

 リーナは(ふる)え声で言った。


(こま)ったわね。お兄様がお(よめ)にもらってくれる? いや、だめよね、いくら優しいお兄様でも、さすがにそれは……」

 リーナは首を横に()った。


 シャールは絶句(ぜっく)して一瞬(いっしゅん)(かた)まった。


「おまえ……」


「ごめんなさい、聞き流して! まあいいわ。別に(よめ)(もら)い手なくても、私は薬師(くすし)よ、生きていけるわ!」


 シャールは息を()んだ。


 俺が欲しいものは。ずっと欲しいものは。(もら)ってやる、(もら)えるものなら、今すぐにでも。


 シャールはふうっと息を()いた。


 そしてそっとリーナの頭を()でた。


「だいじょうぶ、俺がもらってやるから」


「お兄様、ごめんなさい、悪かったわ。だいじょうぶよ。こんなのでも欲しいって言ってくれる人が(あらわ)れるようにがんばるから」


 リーナは、兄の気持ちなど微塵(みじん)も分からず笑顔で答えた。


 シャールは大きなため息をついて、(つら)そうに下を向いた。


 エドワードの部屋の中では、エドワードは椅子(いす)腰掛(こしか)け、リーナの()途中(とちゅう)包帯(ほうたい)(はし)(にぎ)っていた。


 ずっと考えていた。リーナとの距離(きょり)を縮める方法を。あの日以来、俺はまたリーナに触れたくて。

お読みくださってありがとうございます!


今後の励みになりますので、もし少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、


下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方、


ほんの少しで構いませんので、


宜しくお願いいたします。

お手数をおかけして申し訳ありませんが、ぜひぜひ、よろしくお願いします!

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