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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第5部: アデルと死の魔術
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26. 致命的な魔術 〜アデルの死のカウントダウン〜

 アデルはフードを深く(かぶ)り、人の目を()けるようにして旅路(たびじ)を急いだ。


 もう目的の村は目の前だった。


 アデルは、あの日、ダミアンが襲撃(しゅうげき)されてから、(みずか)(さが)(もの)の旅に出たのだった。


 ダミアン襲撃(しゅうげき)の後、アデルはすぐに同僚(どうりょう)たちを()ぐに()()せた。


 ほうぼうに()っていた仲間たちのうち、数日で集まれる者は急いでやって来た。


 魔術を使わず、(じか)()び出すということは、傍受(ぼうじゅ)(おそれ)る、よほどの内容だということを(みな)理解していた。


 集まれるものが集まると、アデルはダミアンの訃報(ふほう)(りゅう)魔術(まじゅつ)原案(げんあん)について報告した。


 同僚(どうりょう)たちはあまりのことに(みな)()(だま)った。


 めいめいが突然(とつぜん)喪失(そうしつ)を深く悲しんでいた。


 (みな)、ダミアンの人柄(ひとがら)功績(こうせき)を思い浮かべたり、ダミアンとの日々を思い返したりした。


 と同時に、そのダミアンが(ころ)されたという事実に(おび)え、(みな)(こころ)(はし)でうっすらと、次は(だれ)()(ばん)かと、後ろ向きな思いを(いだ)いていた。


 深い沈黙(ちんもく)(のち)(だれ)かがダミアンの(りゅう)の魔術について口にした。


 これは(みな)(すく)一言(ひとこと)だった。この一言(ひとこと)(みな)急に(われ)(かえ)ったように前向きになったからだった。


 (みな)はアデルの顔を見、アデルは(うなず)いた。


 ダミアンの遺志(いし)()がねばならない。


 アデルは(みな)にダミアンの紙を見せた。


 (みな)順々(じゅんじゅん)に紙を()()るように見つめ、それから感嘆(かんたん)の声を上げた。


 相変(あいか)わらず、ダミアンのアイデアは秀逸(しゅういつ)だ。


 それは(みな)に希望を与えるのに十分だった。


 (だれ)かが手を(むね)の前で組み、ダミアンはに深い(うやま)いの(ねん)を示した。


「ここまでダミアンが示してくれていればすぐできる。明日にも始めよう」

 一人が言った。


「頼む。私は例の者を探す。とにかく急ごう」

とアデルは言った。


 (みな)(うなず)いた。


 アデルはさらに

「それから、ついでにダミアンの(つま)を探し、ダミアンの()(つた)えようと思う」

と言った。


 アデルのその言葉に(みな)(いや)な顔をした。


「アデル、私たちはやるべきことがある。みな命をかけてそれに()き進んでいるんだ。今するべきことじゃないだろう」


「それに、危ないですよ。やめた方が」


 (みな)は口々に言った。(みな)の言う通りだった。


「分かっている。だが…。あくまでついでだ」

 アデルは(みな)に頭を下げながら言った。


 頭を下げられて(みな)は少し(こま)った顔をした。


「全部が終わってからでいい。()んでいった者を(とむら)うのも、(のこ)された遺族(いぞく)に説明するのも」

 最年長(さいねんちょう)の男が低い声で(つぶや)いた。


 それは、なぜダミアンの(つま)だけ特別扱(とくべつあつか)いするのか、ということだった。


「分かっている。だがどうせ人探しをしているのだ。探し人が二人になるだけだ」

 アデルは答えた。


「それは二倍時間がかかるってことじゃないのか?」

 (べつ)(だれ)かが言った。


「アデル、今、遺族(いぞく)に会うべきではない。決意(けつい)がブレたらどうする」


「……」

 アデルは言葉を()んだ。


 (みな)の言うことはもっともだと思った。しかし、(かた)決心(けっしん)(くちびる)はぎゅっと(むす)ばれていた。


 その様子を見ていた最年長(さいねんちょう)の男が

無駄(むだ)だ、おまえら。昔からアデルはダミアンのこととなると冷静(れいせい)じゃいられなくなるのだ。ほっとけ。その()わり、(かなら)ず目的の者を探して来い。ダミアンの(つま)はあくまで()いでだ。おまえの仕事を(わす)れるな」

と言った。


 その言葉に、(みな)仕方(しかた)ないといった顔をした。


「私たちは(りゅう)()()せる。それから例の者はもちろん私たちの方でも探す。連絡(れんらく)(おこた)るな」

 最年長(さいねんちょう)の男は言った。


 あれから半年(はんとし)ほどがたった。


 アデルの探し物は見つからなかったが、アデルはダミアンの(つま)居場所(いばしょ)()き止めることができた。そこで、一先(ひとま)ずそちらへ向かうことにした。


 そして、その村はもうすぐそこだった。


 そのときアデルはふと奇妙(きみょう)気配(けはい)の男に気づいた。


 フードを深く(かぶ)った男がアデルを()けるように歩いていた。


 もしやと胸騒(むなさわ)ぎがしたと思うと、男はアデルに(さと)られたことに気づき、外套(がいとう)からすっと両腕(りょううで)を突き出した。


 その所作(しょさ)は魔術師のものだった。


 私たちを追う者だ。


 アデルはすぐに応戦(おうせん)できるよう(かま)えたが、それは一瞬(いっしゅん)のことだった。


 男は手をかざし(じゅつ)(はっ)した。すごく繊細(せんさい)な魔術だった。(こま)かい魔力が(ほそ)(いと)のようにアデルの体に入ってくるような感覚(かんかく)がした。


 それで(しま)いだった。


 アデルは、しまった、と思った。


 男は(きびす)(かえ)すとあっという間に姿(すがた)()してしまった。


 マルティスの、例の魔術だ!


 アデルは確信(かくしん)した。心臓がドクドクと激しく鳴った。


 (さいわ)即効性(そっこうせい)はないはずだが、()つのは(しの)()確実(かくじつ)()だ。


 アデルは、マルティスの無邪気(むじゃき)な顔を思い出して(くちびる)()んだ。


 それよりどうする……。これが例の術だったら数時間で異変(いへん)が出始めるはずだ。


 72時間だ。人が水を取らずに()きていられる時間。


 アデルはゴクリと(のど)を鳴らした。まだ実感が()いてこなかったが、カウントダウンが始まっていることに(あせ)りを感じた。


 (じゅつ)精度(せいど)は分からない。とにかく水だ。72時間より時間があるかもしれない。


 仲間達の顔が思い出された。


 アデルは自分が歯痒(はがゆ)くて仕方(しかた)なかった。(もう)(わけ)ない。私は例の者を見つけられなかった。


 しかし、せめてもの(さいわ)いで、ダミアンの(つま)は見つけた。私はダミアンの(つま)(けん)片付(かたづ)ける。


 まずは仲間達に報告せねばならない。アデルは(てのひら)の上に魔力を集中させ、沢山(たくさん)(まぼろし)羽虫(はむし)を出した。


「伝えてくれ。マルティスの魔術、アデルはじきに()ぬ、と。残された時間でアデルはダミアンの(つま)のところへ行く、と」


 羽虫(はむし)は太陽の光を反射(はんしゃ)してきらきらと(かがや)きながら()()って行った。


 とにかく時間がない。アデルは早足(はやあし)になり目的地の村を目指した。


お読みくださってありがとうございます!

もっと面白い小説を書きたいと思っていますので、ご意見ご感想をお聞かせいただけるとありがたいです。


また、今後の励みになりますので、

下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方も、


もちろんのほんの少しで構いませんので!


評価していただけるとありがいです!

お手数をおかけしますが、よろしくお願い致します!

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