24. 魔術師が不意にキスしました
「ほい、とりあえず、ネズミ10匹」
エドワードはポンポンと魔術で拘束したネズミをリーナの篭に入れていった。
「うん、ありがとう!」
「とりすぎても良くないんだよな?」
とエドワードは聞く。
「うん、これくらいにしとく」
「よし。竜がいなきゃ本当簡単な仕事だな。いい気分転換になったわー」
エドワードは満足そうに伸びをして、笑顔になった。
「うん、じゃ、帰りましょ。このネズミ飼えるかしら。いろいろやることありそうね」
リーナはワクワクが止まらない顔をして言った。
と、そのとき、拘束の甘かったネズミがリーナの篭から飛び出した。
慌てて追いかけて捕まえようとしたリーナに、興奮したネズミは背中中の毛を逆立たせ、噛みつこうとした。
決して小さいネズミではない。小さなうさぎくらいの大きさはある。
「あぶね!」
エドワードは咄嗟にリーナを掴むと後ろに引き戻した。
そのとたん、ネズミが飛びかかりエドワードの、肩に噛み付いた。
齧歯類の鋭い歯。
ネズミの歯はエドワードの肉を抉った。
血が割合速いスピードでエドワードの服に滲み始めた。
「いってーっ! やりやがったな、もう」
エドワードは肩を押さえながら、めんどくさそうにもう一度拘束の魔術を使ってネズミを確保した。
「だいじょうぶ!?」
リーナが叫んだ。
「だいじょうぶ。そもそも俺の魔術の失敗。リーナは気にすんな」
「そういうわけには!」
リーナはエドワードの肩を覗き込んだ。
「おい、やめろ。服汚れるぞ」
「そんなのどーでもいーわよ! エドワード、怪我すごい! きっとネズミも渾身の力で噛んだのね。手当てするから! 傷口からくる熱など出しては明日に障ります」
リーナは手持ちの軟膏など、いくつかの応急処置用の薬を取り出した。
「手当てなんていーって。ただのネズミだし。あとで自分で処置すっから」
「だめ! 傷口からの感染症で命を落とすものが多くいるわ。特にこれは野生のネズミ」
リーナは凄い剣幕で言った。
「私の薬は感染症を抑えることができます。信じなくとも結構ですが、この薬、塗らないより絶対に塗った方がいいわ。断言する」
リーナの必死な目にエドワードは気圧された。
「あ、う、うん。わかった、任せるよ」
とエドワードは言った。
「うん。本当にごめんね。ありがとう」
リーナはエドワードの上半身の衣服を脱がせ、肩の咬み傷を診た。
「特殊なところにしか棲まないネズミなのが、不幸中の幸いだけど、逆に何の感染症持ってるか分からないところが怖いわね」
リーナは考え込んでぶつぶつと独り言を言った。
そして、エドワードの肩の咬み傷に塗り薬を擦り込んでいった。独特な匂いがした。
「つっ」
リーナが傷を圧迫したのでエドワードが顔を顰めた。
「あ、ごめん、だいじょうぶ!? すみません。でも我慢して下さい。触れると痛いからと中途半端な処置をしていては予後が悪くなるわ」
エドワードの肩に手を当てた姿勢でリーナが言った。
その真摯な眼差しにエドワードは大人しく従った。
「終わりました。手持ちの薬はこれだけなの。家に帰ったらもう一度ちゃんとするわね。でも、絶対に塗った方がいい薬なんだからね。信じてね。」
リーナはエドワードの肩に包帯を巻き、エドワードに衣服を付けさせながら言った。
リーナが身を乗り出し、エドワードの襟元を正しているときだった。
リーナはエドワードの肩に触れぬよう変な姿勢をとっていたのだが、リーナは急にバランスを崩し、「あっ」と呟いて倒れそうになった。
「おっと」
エドワードが咄嗟にリーナの腰に手を回した。
「あ……すみませ……」
リーナが顔色を変えて謝ろうとした時、エドワードが急に唇でリーナの口を塞いだ。
エドワードは強い力でリーナの体を掻き抱いた。
エドワードの金色の髪の毛がリーナの頬に触れた。
激しいキスだった。
エドワードの手はリーナの手を握った。
時間が長く感じられた。
エドワードが唇を離すとリーナは真っ赤になって俯いた。
「あ……あの……」
エドワードはもう一度リーナの体を引き寄せると、リーナの顔を自分の胸に押し当てた。
そして真面目な顔で
「すまなかった」
と言った。
リーナは顔を真っ赤にして「いえ」と答えた。
「そんな顔すんなよ、もう一回押し倒したくなる」
エドワードはリーナをじっと見ながら言った。
そらからエドワードはふーっとため息をついた。
「ここ、竜の営巣地だったよな。何やってんだか。帰らねーとな」
とエドワードは普通のトーンに戻って言った。
やっとリーナは頭が回り出した。
「あ、ああ、そうね、竜が帰ってきたら大変だわ」
しかし、そこまで言ったあと、またエドワードと馬に乗るのかと思った。
またエドワードの腕の中だ。
先程のキスが思い出されて、顔が赤くなった。
「さ、帰ろ」
エドワードは特に気にしたそぶりは見せず、馬の場所までリーナを連れて行くと、リーナを抱えて馬に乗り、村へと馬を走らせた。
エドワードは、王都の貴族の、子息。私は汚い村娘。エドワードの、さっきのキスは何だったのだろう?
リーナはエドワードの腕の中で、エドワードの胸のすぐそばで、どんな顔をしたら良いのかずっと分からず、ただ目を閉じていた。
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