22. カレンの記憶 〜ダミアンは私のものになった、のに〜
カレンはダミアンとたびたび会うようになった。
初めはお礼。
それからクレッカーの元を訪れるたびにダミアンと立ち話をするようになり、今度お茶しよう、今度食事に行こうと、とんとんと話が進んだ。
やがてダミアンはカレンの部屋にも遊びに来るようになった。
「ふふ、全然女の子の部屋って感じじゃないでしょ? 田舎者でね、あんまり部屋を飾ることを、知らないの」
とカレンが言うと、ダミアンは「そうか?」と呟き、棚に唯一飾ってあったカレンの両親の写真を手に取った。
「親御さん?」
「そう。でも、もう、ね」
カレンは寂しそうに言った。
ダミアンはその写真を伏せて置いた。
そして自分のシャツの袖口のボタンを外しながら、カレンの方を向いた。
カレンが「え」と思う間もなく、ダミアンはカレンを抱きしめ深くくちづけをした。
カレンは一瞬戸惑ったものの、ダミアンの背に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
ダミアンはそのまま息つく間もないようにカレンの唇を離さず、二人はベッドに倒れ込んだ。
その日から、カレンはダミアンが自分のものになったと思った。
アデルはダミアンが言った通り、人全般に無関心で、特にカレンが心配することは何もなかった。
ただ、クレッカーの職場を訪れるたび、ダミアンがアデルの腕を掴んで話をしていたり、肩を掴んで話をしていたりした。
知らぬ人が見れば、この二人はよほど親密な関係なのかと思うだろう。
グレゴリー大臣とクレッカーの剣呑なやり取りに心を蝕まれていたカレンは余計なことを考えられず、ただダミアンを信じて、あれはそういうものだと思っていた。
カレンはアデルがいようとも、ダミアンにそばにいてほしいと思った。ダミアンが、カレンの心の支えだった。
ある時カレンは勇気を出して、休憩時間なのに作業の手を休めないアデルに話しかけた。
アデルは一瞬振り返ってキョロキョロとしたが、気を取り直してまた自分の作業に戻ろうとした。
カレンは慌ててアデルの腕を取った。
やっとアデルはカレンの顔を見た。
「どうかしたか?」
カレンの思い詰めた顔を見てアデルは聞いた。
「あの」
「うん?」
「私も何でこんなことアデルさんに言うのか分からないんですけど……」
アデルはカレンの意図が分からず、無表情でカレンを眺めていた。
カレンはアデルが無反応なので一瞬怯んだが、勇気を出して
「ダミアンと一緒になりたいです」
と言った。
アデルは顔色一つ変えずに
「いいんじゃないか」
と言った。
「それで?」
アデルは聞く。
「えっと……」
カレンは、アデルの口から、ダミアンをどう思っているのか、カレンがダミアンと結婚してうまくいきそうかなどを、何となくでも聞けるかと期待していたのだが、アデルが無機質な目で特に何も言わないので、諦めて口をつぐんだ。
「いえ、何でもないです……」
カレンは居心地が悪くなってペコリと頭を下げるとアデルの腕を放した。
アデルは軽く微笑んで、自分の作業に戻った。
カレンは何も手応えがないように感じたのだが、しかし、アデルはそのままそのことをダミアンに伝えたらしい。
その日の夜、血相を変えたダミアンがカレンの部屋に来て、「結婚してください」と言った。
カレンは嬉しくなった。
そして、この話はすぐに魔術開発部門に広まり、クレッカーもカレンに「おめでとう」と言った。
カレンは闇夜の底なし沼の中で、ようやく光が見えた気がした。
それからしばらくして、グレゴリー大臣が病で亡くなり失意の淵に落ちていた頃、カレンの妊娠が分かった。
ダミアンは子供のことを喜んだ。
ダミアンはあれを食べろ、重いものを持つな、とあれこれカレンを気遣った。
そして、そんな矢先、突然ダミアンが消えた。
ダミアンだけではなくアデルやダミアンの元同僚の者たちは、みな消えてしまった。
唯一理由を知っていそうなクレッカーは、いきなり魔術管理本部の長官になっていた。
グレゴリー元大臣夫人とクレッカー長官の便りは続いていたので、カレンもクレッカー長官に会う機会はたびたびあったが、ダミアンのことを気軽に聞ける雰囲気ではなかった。
また、クレッカー長官の方も話したくなさそうだった。
何度勇気を出して聞こうかと思ったが、その度聞けずに、そしていつか子供が生まれたのを機にカレンは地元に帰ることになった。
ダミアンのことはついぞ聞けずじまいだった。
お読みくださってありがとうございます!
申し訳ありませんが、今後の励みになりますので、
もし少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、
下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方も、低評価でも構いませんので!!
お教えいただけるとたいへんありがたいです!
今後の参考にさせていただきたいです!
すみませんが、ぜひぜひよろしくお願いします!