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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第4部: カレン、夫の死を知る
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21. カレンの記憶 〜アデルとダミアン〜

 カレンがダミアンと出会ったのは、ちょうど父と母を両方亡くしたのに帰郷(ききょう)する気になれずにいた(ころ)だった。


 (かく)せないほどのイライラを(つの)らせるグレゴリー大臣と、慇懃無礼(いんぎんぶれい)なクレッカーの間で、カレンは()の感情を一手(いって)に受けてしまい、(こころ)()()いがつけられなくなっていた。


 夜の(ねむ)りも(あさ)く、食欲(しょくよく)()かず、上手(じょうず)に笑えなくなっていた。こんがらがった頭の中を整理(せいり)したくても気力(きりょく)がわかず、ついつい後回(あとまわ)しにしてしまっていた。


 (とく)遠方(えんぽう)の父と母のことについては大きなことすぎて、()れば心のバランスが(くず)れる確信(かくしん)があった。


 自分を(たも)つことを()(わけ)に、考えてはいけないと強く()めていた。


 しかし、そんな現実逃避(げんじつとうひ)の日々は無意識(むいしき)にカレンの(こころ)無秩序(むちつじょ)の中に(ほう)()すことになり、余計(よけい)精神衰弱(せいしんすいじゃく)を引き起こしていた。


 しかしカレンは自分ではそのことに気づいていなかった。


 その日もいつものようにグレゴリー大臣からの便(たよ)りをクレッカーの職場(しょくば)に持ってきていた。


 クレッカーは職場(しょくば)(うつ)ったばかりだった。それもグレゴリー大臣がクレッカーに(あたま)()やさせるためにわざと職場(しょくば)()えさせたとのことだった。


 カレンはただでさえ神経(しんけい)薄弱気味(はくじゃくぎみ)のところへ、見慣(みな)れぬ場所ということで、完全(かんぜん)(まよ)ってしまった。


 カレンは地図に集中(しゅうちゅう)しすぎて、周囲(しゅうい)人気(ひとけ)がなくなるような(おく)まったところへ来てしまったことに気づいていなかった。


 最近カレンはこういうことが増えていた。


 カレンが(まわ)りに注意を向けられるようになった(ころ)には、書庫(しょこ)倉庫(そうこ)(なら)薄暗(うすぐら)いところにいた。


「あ、しまった…」


 カレンは思った。


 とりあえず、せめて人の声がする方へと、建物(たてもの)の中をうろつき回って、ようやくカレンは人影(ひとかげ)を見つけた。


「すみません! ここはどこですか!」

 カレンは心細(こころぼそ)すぎて、思わず状況(じょうきょう)を考えずに声を上げた。


 話しかけられた二人はぎょっとした顔をした。


 人がいると思っていなかったのと、声をかけてきた人が、姿(すがた)ばかりは小綺麗(こぎれい)(ととの)えた可愛(かわい)らしい女の人だったからだ。


 魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)のこんな奥深(おくぶか)くには、しみったれた顔のヨレヨレの服を着た専門官(せんもんかん)くらいしか(おとず)れないのだ。


「あれ?」

とカレンは思った。


 冷静(れいせい)になってきて、カレンは声をかけたことを後悔(こうかい)した。


 二人の男女は顔をくっつけるほど親密(しんみつ)に、ひそひそ話をしていたように見えたからだ。しかも男の方は女の(こし)に手を回していた。


「すみません、私…」

 カレンは(あやま)った。


「あ、いえいえ、だいじょうぶ。こんなところにあなたみたいな綺麗(きれい)な人がいるとは」

 男の方が笑顔になって言った。


 え、そんなこと彼女(カノジョ)(まえ)で言っていいの? とカレンは思った。


 しかし、気を取り直して、

(まよ)ったんです」

()ずかしそうに言った。


「でしょうねえ」


と男は苦笑(くしょう)しながら言った。


「アデル、(つづ)きは今度。俺はこの綺麗(きれい)なお(じょう)さんを(おく)(とど)けるから」

 男の方はアデルと()ばれた女に向かって言った。


「ああ」

 アデルと()ばれた女はぶっきらぼうに答えた。


 その返答(へんとう)(みじか)すぎて、カレンにはアデルが邪魔(じゃま)されて(おこ)っているのか、気にしていないのか、分からなかった。


 カレンは泣きたい気持ちになって

「本当にすみません」

とアデルに向かって(あやま)った。


 アデルはカレンの気持ちに気づいたようだった。


「ああ、気にしないでくれ、だいじょうぶ。私たちの用件(ようけん)はたいしたことじゃない」

 アデルは無愛想(ぶあいそ)ながらも、ゆっくりと丁寧(ていねい)口調(くちょう)で言った。


「おいっ! たいしたことないとか言うな! 俺の渾身(こんしん)のアイデアを!」

 男の方はアデルに向かって(おこ)って言った。


「あれが渾身(こんしん)の? 出直(でなお)せ」


 アデルは男の方を見もせずに言った。


「はあ〜? おまえに相談(そうだん)したのが間違(まちが)いだったわ!」

 男の方はそっぽ向いた。


 それから(あわ)ててカレンの方を向いた。

「ごめんごめん、気になるよね。こんな陰気(いんき)くさいところで男女(だんじょ)が二人きりで話してたらさ」


 アデルは男を一瞥(いちべつ)してからカレンの方を向いて、

「本当にあんたは私の邪魔(じゃま)しちゃいない。邪魔(じゃま)なのはむしろこの男だから」

と言って、自分はさっさと書庫(しょこ)に入っていった。


()(ぐさ)!」


 男はアデルの後ろ姿に向かって怒鳴(どな)った。


 それからカレンの方を向いて、

「感じ悪いよねえ。でも気にしないで。あいつ(だれ)にでもああだから」

と言った。


 それから人懐(ひとなつ)っこい笑顔を()かべて、

「俺ダミアン。君、名前は何ていうの?」

と聞いた。


「私はカレン」


「そっか、カレンね。こんなところ来ちゃって(あせ)ったでしょ?」

 ダミアンは笑った。


「はい。人気(ひとけ)もないし(くら)いし(ひろ)いし、もう生きて帰れないかと一瞬(いっしゅん)思いました」

 カレンは素直(すなお)に答えた。


「だよねえ。なんで(ぎゃく)にあんなとこまで来れたのかと思います」

 ダミアンは笑顔を(くず)さず言った。


「あそこは何ですか?」

 カレンは純粋(じゅんすい)に聞いた。


「魔術の(ふる)資料(しりょう)研究(けんきゅう)膨大(ぼうだい)歴史(れきし)(おさ)まっています。どんな新しい魔術も、過去(かこ)()(かさ)ねの上で作った方が簡単(かんたん)ですから、私なんかはよく文献探(ぶんけんさが)しに(おとず)れます。私は魔術を作るのが得意(とくい)なんです」

 ダミアンが少し真面目(まじめ)口調(くちょう)で答えた。


「さっきの方は?」

 カレンは聞いた。


「あーアデル? あいつも同じ。(なみ)特性(とくせい)使うのが得意(とくい)で、魔術をいくつも発明(はつめい)改良(かいりょう)してる。あー見えてすごいやつなんだ」

 ダミアンはアデルを尊敬(そんけい)する気持ちを(かく)さずに言った。


「そうなんですね」

 カレンはアデルの姿(すがた)を思い出した。


 ダミアンはぼんやりした様子のカレンを見た。髪や服は整えられていたが、目に生気(せいき)(とぼ)しく、(はだ)もくすんだ印象を与えた。

「ねえ、余計(よけい)なお世話(せわ)かもだけど、(つか)れてる?」

「え? 分かります?」

 カレンは急に聞かれて(おどろ)いた。


「うーん、顔に出てる。でも理由までは分かんないけどね。あ、肩凝(かたこ)りマッサージと一緒と思ってくれたらいいんで」

 ダミアンはカレンの(かた)()れた。ダミアンの(てのひら)から(ねつ)が流れ込んできた。それから一瞬(いっしゅん)だけピリッとして全身(ぜんしん)活動(かつどう)がほんの一瞬(いっしゅん)だけ止まった気がした。その途端(とたん)、全身の緊張(きんちょう)がほぐれた気がして、カレンは自分は緊張(きんちょう)していたんだなと思った。


 それからダミアンはカレンのおでこに右手の指をくっつけた。ゆらゆらした気分の高揚(こうよう)を感じた。


「ありがとうございます。何か体が軽くなりました」

 カレンは目を(かがや)かせた。


「よかった。さっきはひどい顔してたもん」

 ダミアンはにっこりした。


「すみません、ちょっとここんとこしんどくて。人に親切(しんせつ)にしてもらえて、なんか泣きそうです」


「泣いていいよ。魔術よりよっぽど泣いた方がスッキリするかもね」


 ダミアンはふふっと笑った。


 カレンはほっとして微笑(ほほえ)んだ。

「なんでこんなに(やさ)しくしてくれるんですか?」


「えー? 俺の下心(したごころ)が女の子に(やさ)しくしろと」


 ダミアンは真顔(まがお)で言った。


「もー(うそ)ばっかり。でも、泣いていいなんて言ってくれる人いなかったな」

 カレンは(つぶや)いた。


「よし、じゃあ、今日は俺の(むね)で泣け!」


「いや、いらないです。アデルさんに(おこ)られる」

 カレンは丁重(ていちょう)(ことわ)った。


「は? なんで?」


彼女(カノジョ)でしょ?」

 カレンは何をバカなといった顔で言った。


「は? やめて、(ちが)うよ! あいつが女とかマジないし! いや、まてよ。女だったらよかったと思ったことは何度もあったな。理不尽(りふじん)すぎて」

 ダミアンは哲学的(てつがくてき)(なや)みにハマったように、ブツブツ(つぶ)いた。


(こし)に手を回してましたよね」

 カレンは(ねん)()すように言った。


「あー…… そんなことしてた? 無意識(むいしき)(こわ)い…」

 それからダミアンは頭を(かか)えながら言った。


「あいつ、物理的(ぶつりてき)(つか)まえないと人の話聞かないんだよ。そのせいで俺、歴代(れきだい)彼女(カノジョ)誤解(ごかい)されて()られまくりなんだ」

 ダミアンはため息をついて言った。


物理的(ぶつりてき)に…」


 そう言いながら、カレンは、(けっ)してそれだけではないダミアンの気持ちもあるだろうと思った。


「あ、ごめん、そこは仕方(しかた)ないんだ。あいつ、魔術研究(まじゅつけんきゅう)全振(ぜんぶ)りした結果というか。ちょっと人付き合いが苦手(にがて)というか、人に興味(きょうみ)がないというか」

 ダミアンの方はカレンの考えに気づかず、アデルという人物(じんぶつ)説明(せつめい)した。


 カレンはそういうことでいいやと思った。


「あ、なんか天才(てんさい)とかにそういう人いますよね」


「分かってくれる? でも、あいつの性格(せいかく)に俺のプライベートが()()られるって理不尽(りふじん)……」

 ダミアンの物言(ものい)いに、カレンは苦笑(くしょう)


 ダミアンは急にハッとして、

「それはそうと、カレンはどこ行こうとしてたの?」

と聞いた。


「クレッカーさんのところです」

 ダミアンは「え」とちょっと止まった。


 何か思うところがあるようだった。


 が、気を取り直して

「オッケー、()れて行くよ。彼、部署(ぶしょ)変わったんだ。今は俺と同じ、魔術開発(まじゅつかいはつ)部門(ぶもん)だから」



読んでいただきどうもありがとうございます! たいへんありがたいです!


面白い小説を書きたいと思っていますので、皆様のご意見ご感想をお聞かせいただけるととてもありがたいです。


また、今後の励み(参考?)になりますので、お手数をおかけしますが、

↓下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方も教えてくださると大変ありがたいです!


もちろん、低評価でも構いません!


どうもすみません、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

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