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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第1部: 追う者と追われる者
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2. 潜む者たち〜竜を集める魔術〜

 アデルは人目(ひとめ)を気にしながら(きたな)宿屋(やどや)に入っていった。


 ここは、ダミアンの潜伏先(せんぷくさき)だ。


 安い漆喰(しっくい)外壁(がいへき)は色むらがあり、火も十分に(とも)っていないため暗かった。


 あまり女が一人で来るような場所ではない。アデルは()()けが悪く暗い扉を開けて宿屋に入ると、一番奥の部屋をノックした。


「ダミアン、調子はどうだ? 相変わらずモグラみたいだな」


 狭苦(せまくる)しい部屋の片隅(かたすみ)の机でダミアンと呼ばれた男は本に()もれていた。


「モグラとか言うな。まだいい案が思いつかないよ。まあ簡単に思いつくようなら、とっくに誰が開発してるけどさ」


「そうだな」


 アデルは苦笑して、ダミアンの目を通している本を肩越(かたご)しに(のぞ)き込んだ。アデルの美しい栗色(くりいろ)の髪がダミアンの肩に()れた。


「ちょっとアデル、近い、近い。セクハラ! こーゆー状況(じょうきょう)だとおまえみたいなのでも女に見えるからやめろ!」


 ダミアンは顔をしかめて、アデルから距離(きょり)を取ろうと体を(ひね)った。


「え、そうか? 昔からおまえ距離(きょり)近かったろう。というか、昔から私は女だ」


 アデルはムッとして言った。


「おまえのこと女だと思ったことねーよ。つーか、お前が人の話聞かないから、用事あるとき腕捕(うでつか)まえてただけで」


「そうだったのか。じゃあ悪かったな」

 アデルは口先で謝った。


 そして

「その本の中身は?」

と聞いた。


 ダミアンは顔を上げた。


「普通の(りゅう)生態(せいたい)についての記述本(きじゅつぼん)。こういうのって、古い本の方が詳しいよね」


「それは同感だな」


「でも今となっては当たり前のこととかも書いてるから長いんだよね。時間かかる」


 ダミアンはうんざりといった様子でため息をつきながら言った。


「あんまり(こん)つめるなよ」


 アデルは(さと)すように言った。ここのところダミアンが睡眠をあまり取っていない事を知っていた。


「んー。でも俺、本と女に関しては、(つね)短期決戦(たんきけっせん)タイプだから」

 ダミアンが適当(てきとう)に言った。


「意味が分からない」

 アデルが(あき)れた顔をした。


「気にすんな、俺はてきとー人間だ。どの本も、どの女の子も、当たりかもと思っちゃって止まらない、それだけだ」


「後半の全力投球(ぜんりょくとうきゅう)は正しいのか? お前、子供いるだろ」


「正しいよ。だから奥さんもらえて、子供が産まれたわけ」


 ダミアンが満足そうに笑った。だがすぐ皮肉(ひにく)そうな顔をして、

「まあ子供には会ったことないけどな」

とアデルに聞こえないように(つぶや)いた。


 聞こえなかったアデルはうんざりした顔を(くず)すことなくそっぽを向いた。

「勝手にしろよ、女好きめ。だが竜の方は… いや、もう竜の方も好きにしろ」


「あー! すぐそういう()(はな)した言い方する!」

 ダミアンが口を(とが)らせた。アデルは笑った。少し空気がほぐれた。


「そっちはどうなんだよ」

 アデルの笑った顔を横目に見ながら、ダミアンが聞いた。


「こっちも進展(しんてん)がない。あちこちで噂集(うわさあつ)めてるが、有力情報(ゆうりょくじょうほう)は今のところ全くないな」

 アデルは答えた。


「まーねえ。うちらは自分たちの興味(きょうみ)のことばっかりで、他の部署(ぶしょ)のことほとんど知らなかったからね。もう少し他部署(たぶしょ)連中(れんちゅう)にもコネ作っとくべきだったよ」


 ダミアンは自嘲気味(じちょうぎみ)に笑って言った。


「だけど相手も待っちゃくれないぞ。もう大臣が殺されてるんだ。他にもあの魔術が使われてるかもしれないんだから。早いとこ何とかしなきゃ」


 ダミアンの言葉にアデルは「分かっている」と短く(うなず)いた。


 それからダミアンはアデルに

「俺たちの()()の方はどうなの?」

と聞いた。


「とりあえず、この一週間は誰もやられてない。だがヒヤリとしたことは何度かあったようだ。ケイトが情報を集めるために話しかけようとした相手が向こうの潜入捜査員(せんにゅうそうさいん)だったり」


「え!? どうやって気づいたの、それ」


「本当に運が良かった。ケイトが話しかける前に別の男がその相手に話しかけたそうだ。内容から魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の者だって分かったそうだ」


「あっぶな! 肝冷(きもひ)えるわ」


「ああ」

 アデルは大きく息を吐いた。


 本当に良かった。クレッカー長官に追われて身を(ひそ)めて一年。


 クレッカー長官が(はな)った追っ手のせいで、一緒に逃げた20人の同僚(どうりょう)のうち、すでにもう5人が殺された。そして、5人が行動を別にすることを決めた。この5人は、ただもうクレッカー長官が(おそ)ろしく、(かく)れて()らすという。


 アデルは小さい窓から外を眺めた。


 ダミアンはそんなアデルをチラッと見て、また本に目をやった。アデルはこの部屋でいつも少し考え事をする。この部屋はアデルを落ち着かせるのかもしれない。そんな時いつもダミアンはアデルを放っておく。ダミアンも考え事をしているアデルがそばにいると安心して自分の時間に集中できた。


 静かな時間が流れた。


「あ…… 」


 突然(とつぜん)ダミアンが(つぶや)いた。アデルは()(かえ)ってダミアンを見た。


「これ使えるかも」


 ダミアンの動悸(どうき)急激(きゅうげき)に激しくなった。


 興奮(こうふん)して本をめくろうとするが、(ふる)える指でうまくページがめくれない。アデルが()()ってすぐにダミアンの望んだページを開いてやった。


 ダミアンの(ひたい)から汗が()()した。前のページに後ろのページと何度も行き来して、同じ箇所(かしょ)を何度も何度も読んだ。


「やべ、きた。これでいける」


 ダミアンが口にしたことにも気づかない(ふう)(つぶや)いた。


「いけるか」

 すぐ横でアデルは聞いた。


(りゅう)のこの習性(しゅうせい)使えば、(りゅう)を集められる」


「そうか」

 アデルの顔が()()まった。


 ダミアンは興奮冷(こうふんさ)めやらぬ様子で、ノートに膨大(ぼうだい)に何かを書き出した。もはやアデルには目もくれなかった。


 その様子に、アデルはふと昔の同僚(どうりょう)のマルティスを思い出した。


 (りゅう)(あやつ)る魔術だよ、マルティス。市民にも一定(いってい)被害(ひがい)が出るだろうな。承知(しょうち)で使う。私たちもしょせんおまえと変わらないのだ。


 アデルはダミアンが机にかじりついているのをずっと眺めていた。新しいものを生み出される(とうと)い光景だった。


「アデル、先にお前には伝えとく。要点(ようてん)はこんな感じ」


 ダミアンは(こま)かい字でびっしりと書き込まれた紙をアデルに渡した。


「明日には皆に話す。みんなひれ()すぞ」


 ダミアンの顔には自信が(あふ)れていた。アデルもそんなダミアンの様子を(ほこ)らしげに見つめた。


「そうだな。だが、ほどほどにしろよ」

 アデルは大事そうに紙を受け取った。


 ダミアンはニヤリと笑ってまた机に向かった。アデルはそんなダミアンの様子をしばらく(なが)めていたが、満足そうな笑みを浮かべてそっと部屋を後にした。


 ダミアンはやることをやった。これで(りゅう)が使える。一歩近づいたな。アデルはダミアンが(ほこ)らしくて仕方(しかた)がなかった。自分の隠家(かくれや)(もど)る足取りがいつもより軽かった。


 ダミアンも、今日の成果(せいか)に満足していた。


 しかし、ダミアンは満足し過ぎていたようだ。


 だから、今まさに、まさにらこれから、(しの)び寄ろうとする()気配(けはい)を感じることができなかった。


 薄汚(うすぎた)い宿屋の外で、黒髪と金髪の二人の魔術師が、気配(けはい)を消しながら、様子を(うかが)うようにダミアンの部屋を窓の下から(なが)めていることに、ダミアンは気づかなかった。

面白い小説を書いていきたいです。皆様のご意見、ご感想等、どうぞよろしくお願いいたします。


すみません、お手数ですが、もし少しでも面白いと思ってくださいましたら、


↓ご評価☆☆☆☆☆↓の方、


ほんの少しで構いませんので!!!


どうぞよろしくお願いいたします。

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