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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第4部: カレン、夫の死を知る
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19. 手紙 〜女の決意〜

 カレンの家の(とびら)の前で何度(なんど)()んだが応答(おうとう)がないので、シャールは(いや)予感(よかん)がどんどん()き上がってくるのを感じた。


 待つ時間も危険に感じ、「すまん、入るよ」と言いながらシャールは無断(むだん)でカレンの家の中に入った。


「カレン、だいじょうぶか!?」

 夕方(ゆうがた)薄暗(うすぐら)い部屋でシャールは声を上げた。


「シャール……」

 土気色(つちけいろ)の顔で椅子(いす)(すわ)り、だらりと(ひざ)の上に置いた(うで)に赤ん坊をただ()せたカレンを見て、シャールはあの手紙(てがみ)内容(ないよう)がやはりよくないものだったとすぐに分かった。


「カレン、やっぱり。何か書いてあったんだな」


(おっと)が、ダミアンが、()んだって。私、どうしたら」


「な、なんだって?」

 シャールは絶句(ぜっく)した。


 それから自身の気を落ち着かせるように一度(ちゅう)(あお)ぐと、それからカレンの目をしっかりと見た。

「だいじょうぶ。カレン、だいじょうぶだ。カレンならしっかりやれる」


 カレンは手で顔を(おお)ったきり何も答えなかった。


「どういう(ふう)()くなったんだ?」

とシャールは聞いた。


「何も書いてない」

 カレンは手紙をシャールに見せた。


 シャールは(いか)りが()み上げてきた。


 ダミアンが()んだこと以外(いがい)、ほとんど何も書かれていなかった。


「なんて失礼(しつれい)な手紙なんだ」

 シャールの低い声にカレンも下を向いたまま(うなず)いた。


「今読んだところか?」

とシャールがカレンに聞くと、カレンは首を(たて)()った。


「じゃ、まず、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に連絡しよう。まずはこの手紙の内容(ないよう)が本当かどうか確かめなければ。もし本当なら、どういう(ふう)()くなったかとか、できる(かぎ)りを聞こう」

 シャールはカレンを(はげ)ますように言った。


「はい」

 カレンはやっと()れた目をシャールに向けた。


「それからダミアンの遺体(いたい)があるか、遺品(いひん)があるか、も聞かないといけないかな」

 シャールはカレンに確認するように聞いた。


「はい」

 カレンは(うなず)いた。


 シャールはふうっと息を()いた。

 そして

「はたして罪状(ざいじょう)と関係あるのか、だ」

(つぶや)いた。


 カレンはそのシャールの言葉に、赤ん坊を強く()きしめて泣き声を出した。

「やっぱり消されたとか、そういうことなのかしら。だってダミアンの関係者はみんな()きては(つか)まってないのよ」


「カレン。そんなこと言っても仕方ないよ。俺たちには分からないことなんだから」

 シャールが(たしな)めるように言うと、カレンは口をギュッとつぐんだ。


 シャールも心苦しそうに目を閉じた。


 それから気を取り直して

葬儀(そうぎ)はするかい?」

と聞いた。


 カレンは一瞬(いっしゅん)ぎょっとした顔をしたが、すぐに首を(よこ)()った。

「ダミアンの遺体(いたい)が帰ってきたらにするわ」


「ダミアンのご両親は?」

とシャールは聞いた。


「あの人も私と一緒(いっしょ)なの。両親共(りょうしんとも)()くなっているわ」


 二人は(だま)った。


 カレンが何か考えに(ふけ)っているので、シャールは心配そうにカレンを(なが)めた。


 カレンはだいぶ()ちのめされている。もし、最悪(さいあく)のことをカレンが考えていたら。


 しかし、思ったよりしっかりした声で、カレンは口を開いた。


「シャール、私、ダミアンが()ななければならなかった理由を知りたいわ」


 シャールははっとしてカレンを見た。

「うん。カレンは()権利(けんり)があると思う」


「私が前に進むには何か目標(もくひょう)があった方がいいかもしれないし」

 カレンは少し声が小さくなった。


「いや、とても、いいと思う。何か考えがあるの?」

 シャールは(はげ)ますように聞いた。


「シャール、あなたに手紙を(たく)したと言う二人(ふたり)魔術師(まじゅつし)は何か知ってそう?」


 カレンの言葉にシャールは首を(よこ)()った。

「それが、先輩(せんぱい)(たの)まれたとかで、あんまり知らなさそうだった」


「そうなの?」


「とぼけてるだけかもしれないけどね。とぼけてるんだとしたら、余計(よけい)言わないさ」

 シャールは期待(きたい)できなさそうな口調(くちょう)で答えた。


「そっか。じゃあ私、直接(ちょくせつ)魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に行ってみるわ。知り合いがいなくもないから」

 カレンの頭にはクレッカー長官(ちょうかん)の顔が()かんでいた。


 そして、

「ダミアンを(ころ)した(もの)も分かれば、ね」

とシャールには聞こえないように(つぶや)いた。


 絶対(ぜったい)に、絶対(ぜったい)に、白日(はくじつ)(もと)(さら)してやる。


「すぐにでも()つわ」

 カレンはハッキリと言った。


「そうか。赤ん坊はどうする」

 シャールは聞いた。


「もちろん()れて行くわよ」

 カレンは()たり(まえ)のように答えた。


「だいじょうぶか? 赤ん坊、たぶん村の者で面倒見(めんどうみ)てもらえるよう(たの)めると思うよ」

 シャールは王都(おうと)に小さな赤ん坊を()れて行くカレンが少し心配だった。


「だいじょうぶ。私が子供と(はな)れるなんて無理(むり)だもの。それにこの子の父親(ちちおや)のことだもの、赤ん坊とはいえ、この子も()権利(けんり)があるわ」

 カレンは()るぎない声で言った。


「そうか、わかった。だが、(こま)ったら言ってくれ、できることがあったら協力(きょうりょく)するから」

とシャールは(ねん)()した。


「ありがとう」

 カレンはシャールに頭を下げた。


 先程(さきほど)部屋に来た時よりは前向(まえむ)きな顔をしているカレンを見て、シャールは少し安堵(あんど)した。


 カレンがダミアンの(あと)()うような最悪(さいあく)事態(じたい)はなさそうだ。


 シャールは以前の(うつ)っぽかったカレンを心配していた。


 だが目的をはっきり決めて行動しようとするカレンにその心配はなさそうだった。


 もちろん、予断(よだん)(ゆる)さないが。


「カレン、お前には村のみんながついてる。何度も言うが、だいじょうぶだからな」

 シャールは大事(だいじ)なことなのでもう一度言った。


「ええ、ありがとう」

 カレンは微笑(ほほえ)んだ。


 シャールには()に落ちないことがあった。


 なぜロベルトとエドワードは、こんな(うす)っぺらな手紙ですら、自分たちで直接(ちょくせつ)カレンに(わた)すのを躊躇(ためら)ったのか?


 この村まで来ておいて。


 最後の最後で気が引けたのか?


 ということは……。


 一番(いや)なことを考えるなら、ロベルトとエドワードが、ダミアンに(かん)して()(くだ)したということだ。


 俺は人殺(ひとごろ)しを家に()めているのか?


 先刻(せんこく)、ロベルトは「俺たちは(ろく)でもない人間だ、妹を近づけるな」と言った。


 いやまさか、そんな。考えすぎだ。


 一抹(いちまつ)の不安を残したまま、シャールは(いや)予感(よかん)を頭から()(はら)おうとした。


 とにかくカレンだ。彼女を(ささ)えなければ。


ブックマーク本当にどうもありがとうございました!感激しております。絶対にもっと面白い小説にしていこうと、とても励みになりました。今後ともどうぞよろしくお願い致します!

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