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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第4部: カレン、夫の死を知る
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18. 監視 〜生きては捕らえられない者たち〜

 カレンの家から帰ると、シャールは家の庭でロベルトの姿を見つけた。


 シャールはロベルトはいったい何をしているのだろうと、一瞬(いっしゅん)立ちすくんだ。


 しかしロベルトはシャールの家の(もん)の前の木陰(こかげ)で、木にもたれてただ(すわ)っていた。


 ロベルトはシャールの姿(すがた)(みと)めると立ち上がって微笑(ほほえ)んだ。


「シャール、いい天気だね」

「ロベルト、何でここに?」

 シャールが怪訝(けげん)そうな顔をした。


「別に。いい天気だったから、日向(ひなた)ぼっこをね」

とロベルトが笑顔のまま言った。


 シャールはなんとなく()に落ちない顔をしてロベルトを見た。


「そうだ、あの王都で会った日、あの(あと)エミリアが愚痴(ぐち)っていたよ。あなたが(まった)くなびかないって」


「なびくって。私とエミリア様では身分(みぶん)(ちが)いますからね」

とシャールは冷静(れいせい)に言った。


「何言ってるんです。あなたはもう名誉市民(めいよしみん)みたいなものでしょう?」

とロベルトが笑って言った。


「何ですか、名誉市民(めいよしみん)って。ああ、(りゅう)(くすり)ですか? そんなものがあるとしたらリーナですよ。リーナが作ったんだから」

とシャールは答えた。


「そう? リーナに(くすり)()才覚(さいかく)はないし、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)竜避(りゅうよ)けの(くすり)を使えるのはシャールのおかげだと思うけどな」

と、ロベルトは言った。


「だとしても、私はただの薬売(くすりう)りです」

 シャールはうんざりした顔をした。


「へえ。じゃあ、エミリアになびかないのは、身分(みぶん)のせいだって言うの?」

とロベルトは急に(つめ)たく言った。


 シャールはハッとした。それからバツが悪い顔をした。


「それは、すみません。私が悪かったです。身分(みぶん)のせい、は()(わけ)ですね」

 それからシャールは真面目(まじめ)な目をしてロベルトの方をきちんと向いた。

「私には(おも)っている人がいるんです」


 シャールの言葉にロベルトはふっと笑った。

「そっか。でももったいなくない? エミリアのお父さんは魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)人事(じんじ)のトップだよ」


 シャールはロベルトの言葉にむっとした。

(あさ)ましい。私は魔術師じゃないから関係(かんけい)ないです」


「そっか……。じゃあエミリアにもそれとなく伝えておくよ」

 ロベルトは納得(なっとく)したように(うなず)いた。


「ロベルトは、何かエミリアから言われたんですか?」

 (おも)いの(ほか)、ロベルトが真面目(まじめ)にエミリアを気にかけた口調(くちょう)だったので、シャールは聞いた。


「いや、特には。だがエミリアは幼馴染(おさななじみ)可愛(かわい)い妹みたいなもんだからね。俺だって、あいつには幸せになってもらいたいのさ」

 ロベルトはゆっくりと言った。


「あなたは何を考えているか分からないような人なのに、こうして(じょう)(あつ)いところもあるんですね」

とシャールはやや意外(いがい)そうに言った。


失礼(しつれい)なヤツだな」

 ロベルトは(あき)れ顔で言った。


「いえ。エミリアも…良かったと思って。立派(りっぱ)なお父上様(ちちうえさま)優秀(ゆうしゅう)幼馴染(おさななじみ)のあなたがいたら、まっすぐ歩んでいけるな、と」


 ロベルトはシャールの言葉にビクっと反応(はんのう)した。


「どういう意味だ?」

 ロベルトは思わず声を(あら)げたが、ハッとしてすぐに気を(おさ)めた。


 それからロベルトは()()(なお)して、

「えっと、手紙、カレン・ホースに(わた)してくれましたか?」

と聞いた。


 シャールは、なるほど、と思った。


 こんなところでロベルトがわざわざ自分と二人で話そうとしているのだから、そちらが本題(ほんだい)のはずだ。


(わた)しましたよ。何も監視(かんし)しなくてもいいじゃないですか」

とシャールはロベルトを(かる)(にら)んだ。


「彼女、手紙、読みましたか?」

 ロベルトはそこが知りたかった。


「いや、(おそ)らく、これから」


「そうですか」

 ロベルトは小さくため息をついた。


「ロベルト、あなた何なんです? (わた)したところを確認(かくにん)に来るくらいなら、あなたご自分で(わた)せばいいじゃないですか」

 シャールはロベルトに疑問(ぎもん)をぶつけた。


 ロベルトは(けわ)しい顔になり、一度大きく(うなず)いてから、

「私にこの仕事を()()けた人は大事(だいじ)先輩(せんぱい)なので、きちんと遂行(すいこう)しなけりゃならないんです」


 ロベルトの言葉にシャールは(いら)ついた。

「そういうことじゃない! なぜ自分で(わた)さないかと聞いてるんです!」


 ロベルトは、ああ、そういうこと、といった顔をした。

「もちろん私は自分で(わた)してもいいかなと思ったんですが、エドワードの手前(てまえ)、ね」


「エドワードの手前(てまえ)?」

 シャールは聞き返した。


「ええ。あいつは自分では(わた)せないって。俺は(くさ)ってるけど、あいつはいいヤツなんです」

 ロベルトは答えた。


 シャールはロベルトの言葉に嫌気(いやけ)がさして首を横に()った。

「あなたが何言ってるか、私にはさっぱり分かりませんよ。じゃあ、何でエドワードは自分では(わた)せないんです?」


 ロベルトは止まった。じっとシャールを見たまま答えなかった。


 ロベルトの黒髪が風に()れた。黒い(ひとみ)(やみ)()()んだように表情をなくしていた。


 シャールは王都で初めてロベルトとエドワードに会った日のことを思い出した。


 それまでロベルトとエドワードは国境付近(こっきょうふきん)の地方都市にいた、と言った。魔術関係者(まじゅつかんけいしゃ)(けん)だとのことだった。


 カレンの(おっと)のダミアンは、確か魔術師(まじゅつし)だったはずだ。


 (いや)予感(よかん)がした。


 シャールは、カレンの()ちひしがれた顔を思い出した。


 数ヶ月前、赤ん坊を()いて村に帰ってきたとき、カレンはやつれていた。何年も会っていなかったが、大人(おとな)になっただけとは言えない(ほど)、カレンは(きず)ついていた。


 カレンを()いて()えた魔術師の(おっと)罪人(ざいにん)だという話だった。


 しかし、カレンの(おっと)の仲間は誰一人(だれひとり)として()きて()らえられず、裁判(さいばん)がないため、詳細(しょうさい)不明(ふめい)のままだ。


 ()きては()らえられず……


 シャールはどきっとした。


 もしや、手紙(てがみ)内容(ないよう)は…


「シャール、これからカレンのそばにいてやってよ。(かん)のいいあなたなら分かるだろ」

 気遣(きづか)う言葉なのに、ロベルトの顔は無表情だった。


 シャールはぞっとした。


 すぐにカレンの元に戻らなければと思った。

「分かりました」


 シャールが(きびす)(かえ)して戻ろうとすると、ロベルトがシャールの背後(はいご)から言った。


「あとさ、シャール。エドワードがリーナに(なつ)いてる。でも俺とエドワードは(ろく)でもない人間だ。あんまり近づけない方がいいぞ」


 シャールはロベルトの言葉に歯軋(はぎし)りをした。


「分かっているさ、あんたたちが(ろく)でもない人間だということぐらい!」

面白い小説を書きたいと思っています!よろしければ、皆様のご意見ご感想を、お聞かせ下さい!


また、これからの励みになりますので、お手数をおかけしますが、

↓ご評価↓☆☆☆☆☆↓の方も、ほんの少しで構いませんので!

ぜひぜひ、よろしくお願いいたします!!


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