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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第4部: カレン、夫の死を知る
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17. カレン・ホース 〜夫への気持ち〜

「カレン、いるかい?」

 シャールはカレンの(さび)しげな家を(たず)ねた。


 家の中からカレンが出てきた。


「ああ、シャール。だいぶお久しぶりね。どうぞ、中入って下さい」

 カレンは手招(てまね)きしてシャールを(うなが)した。


「赤ちゃんは?」

 シャールは気を(つか)って小さい声で聞いた。


()たところです。ちょうど良かったわ」

 カレンは安堵(あんど)微笑(ほほえ)みを見せた。


 殺風景(さっぷうけい)ながらあちこち子供の物でとっ()らかった部屋にシャールは足を()み入れた。


()らかっててごめんなさいね。その(へん)(すわ)って下さい。今お(ちゃ)()れますから」

とカレンは言った。


「いや、お(ちゃ)とかいいよ。長居(ながい)するつもりじゃないんだ」

とシャールは言った。


 カレンは、ではどういうつもりなのだろう、とシャールの顔を見たが、とりあえずシャールを居間(いま)に通し、椅子(いす)(すす)めた。


「カレン、一人でだいじょうぶ? お父さんお母さん()くなってるよね」

 シャールは片付(かたづ)かない部屋を(なが)めながら、心配そうに聞いた。


「その(せつ)は、本当にお世話(せわ)になりました。お父さん()くなって、それからお母さん()くなって。一人娘(ひとりむすめ)の私が王都(おうと)から帰らなかったから、お葬式(そうしき)やってくれたのよね」

 カレンはとても苦しそうに、言いにくそうに言った。


「もう、それ何度も聞いたよ。何回お(れい)を言うの。あの時はカレンも(いそが)しかったんだから仕方(しかた)ないでしょ」

 シャールはカレンを(たしな)めた。


「ひどい娘だと思ってるでしょう?」

 カレンは目を()せた。


「だから、仕方(しかた)なかったんだ。皆分かってるよ。だいじょうぶだから」

 シャールは(やさ)しく言った。

 そしてシャールは

「それより、気分の方はどうなの? (うつ)って言うのかな?」

と続けた。


(うつ)って……」


「それだと思うよ。専門家(せんもんか)じゃないから分からないけど。ま、何かあったらちゃんと俺を()んで」

とシャールは言った。


「シャール…… あなた本当に、(やさ)しいのね」


「これでも同級生(どうきゅうせい)のこと心配してんだからね」

 シャールはふうっと息を()いた。


「私、王都(おうと)(あこが)れて出ちゃって、ちっとも地元に帰らなかったのに」

とカレンは言った。


「それでも、今はこの家に帰ってきたでしょ。お父さんもお母さんも喜んでるよ」

とシャールは言った。


「シャール。あなた、本当にあれこれ、この村の皆に気を配って」


「そんなことないよ。できることしかできないし。俺もみんなに助けてもらってるからね」


 カレンはシャールを感謝(かんしゃ)の目で見た。

「王都にずっと住んでたけど、子供が(さず)かって一人になって、どーしようって思った時、やっぱり生まれ故郷(こきょう)に帰りたくなった。帰ってきて良かった」


 シャールは微笑(ほほえ)んだ。

旦那(だんな)さんから連絡は?」


「ありません。何か悪いことしたとかで、いきなり消えてもう一年。もうあまり期待(きたい)しない方がいいかもしれないわ」

 カレンは首を()った。


「そんな… 弱気(よわき)にならないで…」

とシャールは(はげ)ました。


「この子に会ったこともない。手紙も寄越(よこ)さない。もう私たちは()てられたのかも」

 カレンは下を向いた。


「何か理由があるんだよ」

 シャールは(あわ)てて言った。カレンに悪い想像(そうぞう)をしてもらいたくなかった。


「いえ。悪いことしたなら、(つみ)(みと)めて(つぐな)えばいいじゃないですか。何で()げて(かく)れるの? (つみ)(つぐな)って堂々(どうどう)と私たちに会いに来てくれたらいいのに」

 カレンの(ほお)(なみだ)(つた)った。


「それを(のぞ)んでるんだね」

 シャールは言った。


「ええ。この気持ちがダミアンに(とど)けばいいのに。私たちはずっと待ってるって。帰ってきてって」

 カレンはしばらくしゃくりあげて泣いた。


「そうだね、(とど)いて()しいね」

 シャールは(うなず)いた。

 

「ごめん、カレン、泣かすつもりはなかったんだけど」


「ううん、シャール、私の方こそごめんなさい。泣きたかったから」


「そっか、それならよかった」

 シャールは、カレンが泣き終わるまで下を向いて(だま)った。


 カレンは(しばら)く、しくしくとしていたが、やがてハンカチを口に当てて嗚咽(おえつ)を飲み()んだ。


 しばらくしてからカレンが、

「リーナはどうしてますか?」

と聞いた。


「元気にしてますよ」

 シャールは苦笑いした。


相変(あいか)わらず?」

 カレンは聞いた。


「そう。相変(あいか)わらず、(くすり)作ってます」

 シャールは言った。


 カレンは微笑(ほほえ)んだ。

「リーナが変わらないと安心するわ」


「何それ。さすがにもう小さな女の子じゃないよ」

 シャールも笑った。


「そうね。で、あなたは、リーナには気持ちは伝えないの?」

 カレンの言葉にシャールは一瞬(いっしゅん)止まった。


「伝えないよ。まだ」

 シャールは自嘲気味(じちょうぎみ)に言った。


「何で?」

 カレンが聞く。


「まずは、リーナが俺がいいって思ってくれないとね」

 それはシャールの(こころ)(そこ)からの(ねが)いだった。


 カレンはシャールの言葉に微笑(ほほえ)んだ。

「そうね。でも安心して。リーナの理解者(りかいしゃ)なんてあなたくらいよ」


「うん。まあ、だから、今リーナにその気がないのがよく分かる」

 シャールは(つら)そうに言った。


「そっか」

 カレンは(つぶや)いた。


「いつか俺を男として見てくれる日がくればいいんどけどね。ちょっとね、リーナにちょっかいを出しそうな男もいて」

 シャールは少し弱音(よわね)を言った。


「ええ! そうなの!? あのリーナに? (めずら)しいこともあるもんね」

 カレンは(おどろ)いて、先ほどまでの湿(しめ)っぽい空気はどこかにいってしまったようだった。


「カレン、それ、何か俺に()さるんだけど」

 シャールは(つぶや)いた。


「あ、ごめんなさい。でも(おどろ)いちゃって。そっか、あのリーナにねえ」

 カレンは明るい声だった。


「そ。さすがにもう小さな女の子じゃないってこと」

 シャールは弱々(よわよわ)しく微笑(ほほえ)んだ。


「何よ、シャール。それ、その男に()けそうってこと?」

 カレンはシャールの様子を心配して言った。


「どうかな。こういうこと、俺苦手(にがて)なんだ」

 シャールは自嘲気味(じちょうぎみ)に笑った。


「そうね。ずっと、シャールはリーナだけを見てるのにね。……私はシャールにはうまくいって欲しいわ」


「ありがとう」

 二人は(だま)った。


「そういえば、隣村(となりむら)(りゅう)が出たのは知ってるな。ここもいつやられるかって話してる。何かあったらすぐ来いよ」

 シャールは言った。


(りゅう)? ああ、魔術師(まじゅつし)さんみたいな人が来てたのは、それね?」

 カレンの言葉にシャールはぎょっとした。ロベルトとエドワードのことだろう。


「ええと、そうかな」

 シャールはお(ちゃ)(にご)した。


 そのとき赤ん坊のぐずり出す声がした。


「あれ、起きたんじゃない? ミルク? おしめ? ()っこ? 何か手伝(てつだ)おうか?」

 シャールが(あわ)てて言った。


 その言葉にカレンは悲しそうに微笑(ほほえ)んだ。

「それ、あなたが言う? 今、ここに、ダミアンがいてくれたらってすごく思っちゃった。ダミアンとそういうことしたいのよ」


「あ、ごめんね。考えなしだった。じゃ、俺帰るよ」

 シャールは(あやま)った。


「うん。また来て。シャールと話せて安心した」

 カレンはにっこりした。


「俺も」

 シャールは(こし)を上げながら、

「あと、これが本当(ほんとう)要件(ようけん)。手紙(あず)かってる。俺は中身(なかみ)は知らないけど、あんまり良い内容(ないよう)じゃなさそうだ。落ち着いたら読んでみて」

と、カレンに手紙を渡した。


 カレンは不思議(ふしぎ)そうな顔をして手紙を受け取った。


「じゃあね、また」

 シャールはうっすらと(いや)予感(よかん)(つつ)まれながら、カレンの家を(あと)にした。


 だが、その予感(よかん)は当たることになる。

すみませんが、面白い小説を書きたいと思っています。皆様のご意見ご感想をお聞かせいただけるとたいへんありがたいです。


また、お手数ですが、もし少しでも面白いと思って下さった方がおられましたら、

↓ご評価↓☆☆☆☆☆↓の方、どうぞよろしくお願い致します。

もちろん、評価の方はほんの少しでも構いません!

とてもとても励みになります。

よろしくお願い致します。

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