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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第3部: 魔術師と薬売り
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16. 魔術師の馬に乗せてもらい、鼠取りに行きました

 エドワードは(ひま)を持て(あま)していた。


 そこで馬を引いて、(はたけ)仕事をしているリーナのところへやってきた。


 リーナの幼馴染(おさななじみ)のベナンはチラリとエドワードを見たが、エドワードのいかにも貴族(きぞく)子息(しそく)という風貌(ふうぼう)と自分の()なりとに大きな()を感じて落胆(らくたん)し、()(まる)めてリーナとエドワードの(あいだ)()って入る事はしなかった。


「リーナ(ひま)か? ちょっと(はな)れたとこに新しい(りゅう)営巣地(えいそうち)を見つけたぜ。おまえの()しい何とかって草が生えてるかも知んねーから()れてってやるよ」

とエドワードはリーナに話しかけた。


「え? どこ?」

 思わずリーナは興味(きょうみ)()かれた。


「馬じゃなきゃ行けないとこだから、乗せてやるよ」

 エドワードは言った。


 リーナは少し躊躇(ためら)った。


 前回の記憶が頭をよぎった。それから、シャールが「一人で行くな」と言っていたことを思い出した。

「ごめんなさい、エドワード様。リュウシソウ()りは自分で行く。危ないし」


「でもおまえ馬とか乗れんの? 歩いて行ける距離(きょり)じゃねーよ」

 エドワードは(あき)れ声で言った。


「でも…」

 リーナは行きたいのはやまやまだが決心がつかなかった。


「歩ける範囲(はんい)のはもう()れるだけ()っちゃったんだろ? こないだのも失敗して(かご)ごと失くしてたろーが」

とエドワードは言った。


 確かに、薬玉(くすりだま)はたくさん作りたいが原料(げんりょう)がたくさん集められなくて(こま)っていた。


 むやみに()()くすわけにはいかないので、リーナがいつも採取(さいしゅ)する場所は決まった日だけにしていた。


「あ、うん…」

 リーナは迷った。

「でも、危ないし…,..」


「こないだ俺、ちゃんと(りゅう)やっつけたじゃん? だいじょうぶだよ」

 リーナが(まよ)ってるのを(さっ)して、エドワードが(やさ)しく言った。


「えっと……」

 リーナは決められずに(こま)った。


「分かったよ。じゃあ、近くまで行ってみるだけならいーだろ。危なかったらやめよ」

 エドワードは、それならいーだろ、というように笑った。


 リーナはエドワードの(やさ)しさを感じた。なんて人。リーナは微笑(ほほえ)んだ。


 それを見てエドワードはにっこりした。

「じゃ乗りな」


「あ、でも、私(うま)とか初めてだから、ちょっと怖いかな」

 リーナはエドワードに言った。


「あーそっか。でもまあだいじょうぶだろ。俺が乗せてくだけだし」

 エドワードはにかっと笑った。


「本当にだいじょうぶ?」


「リーナ、すぐ()れるよ」


「そう? 本当? 絶対?」

 エドワードは心配そうなリーナの頭をぽんぽんと撫でた。


「ごめんなさい、じゃあ… ありがとう…」

 リーナは不安そうな笑顔で答えて、エドワードの馬の背に乗せてもらった。


 エドワードは(うで)の中にしっかりとリーナを()き、

「あぶねーから俺にしっかり(つか)まっといてよ」

と言った。


 リーナは(はば)の広いエドワードの胸板(むないた)がすぐそばにきてドキドキした。


 リーナが躊躇(ためら)いながらもエドワードの胸元(むなもと)に手をやったのでエドワードは馬を走らせた。


「わあっ」

 リーナはいきなり馬の背の上が()れたので体勢(たいせい)(くず)した。(あわ)ててエドワードにしがみついた。


「おっと」

 エドワードがリーナの腰回(こしまわ)りに手をやりそっとサポートする。


「だいじょうぶ?」

 エドワードは聞いた。


「あ、ご、ごめんなさい… (こわ)いので… あの、ちょっとこのままでもいいですか?」

 リーナは青くなりながら答えた。


「ははは、丁寧語(ていねいご)いらないよ。だいじょうぶだって、()ずかしがらないで。しっかり(つか)まっといてって言ったでしょ」

 エドワードはそのままリーナをしっかりと()いた。


 それからふとエドワードは、気軽(きがる)(さそ)ったちゃったけど、これってデートになんのか?と思った。


 いやいやいや、エドワードは首を()った。(りゅう)営巣地(えいそうち)に行くのに何がデートだよ。()()けば()ぬし。


 リーナはエドワードの(うで)の中で体中(からだじゅう)火照(ほて)るのを感じた。


 (ちが)う、馬が(こわ)いだけで、意識するようなことじゃない。でもこんな(ふう)に男の人の(うで)を感じたのは初めてだった。上手(じょうず)(いき)ができてない気がした。


 エドワードは(だま)ったまま馬を走らせた。確かに遠く、二人には大分(だいぶん)長い時間が流れたように感じた。


 しばらくして(りゅう)営巣地(えいそうち)に近づいたとき、エドワードは少しほっとした。


 馬が歩調(ほちょう)(ゆる)めたので、リーナはエドワードの(むね)にうずめていた顔を上げた。


 それに気づいてエドワードが

「もう顔あげていーよ。着いたよ」

と言った。


 リーナは大きく息を()いた。


 エドワードは先に馬から()りるとリーナに手を()し馬から()ろした。


 二人は(りゅう)気取(けど)られないよう身を(かく)しながらそっと様子を(うかが)った。


 その営巣地(えいそうち)には三組(さんくみ)ほどの(りゅう)()があった。たいへん運良(うんよ)(りゅう)姿(すがた)は見えなかった。


「急いで()ってきます!」

 リーナはさっきまでの(こわ)さはどこへやら、(いきお)いよく()け出していった。


「おいっ、ちょっと待て!」

 エドワードが怒鳴(どな)った。


 しかしリーナは聞こえていないのか()(かえ)りもしなかった。


「何あいつ、薬草(やくそう)前では別人格(べつじんかく)出るな。近くまで来るだけじゃなかったのかよ」

 エドワードは(つぶや)いた。


 エドワードは、自身(じしん)上手(じょうず)に馬を(かく)すと、リーナの(あと)()おうとした。


「来なくていいです!」

 その時リーナがエドワードに大声を出した。


「おまえ、(りゅう)()で大声出すなよ。俺が手伝(てつだ)った方が早く()むだろ!」

とエドワードが言った。


「ダメです! 思ったより()えてない。()()くすと次がないし、()り方もあるから、素人(しろうと)は出てこないで!」

 リーナは言い返した。


「おまえなあっ! さっきまでのしおらしさはどこいった!?」

 エドワードは(しん)じられないといった顔をしたが、リーナの言う通りに少し(はな)れたところで待つことにした。


 遠くからリーナを眺める。かがんで丁寧(ていねい)に草を()むリーナの表情は真剣(しんけん)そのものだった。エドワードは微笑(ほほえ)ましく思った。空は青空。


 リーナは手際良(てぎわよ)くリュウシソウの葉を()んでいった。この規模(きぼ)群生(ぐんせい)だと篭一杯分(かごいっぱいぶん)限度(げんど)だろう。


 リーナは顔を上げて(ひたい)(あせ)(ぬぐ)った。


 三組ほどの竜の巣。でもこの営巣地(えいそうち)ならもう少し生えていても良さそうなのに。


 その時ふとリーナはこちらを(うかが)う生き物の気配(けはい)を感じた。


 大きめのネズミだった。そういえばこのネズミ、他の場所でも見たことある。


 そう、(べつ)(りゅう)営巣地(えいそうち)で。


「エドワード!」

 リーナは()んだ。


「うわ、いつの間に()()て!? はいはーい。どーしたの?」

 エドワードが(はな)れたところからのんびりと答える。


 リーナはエドワードを見て聞いた。

「ネズミ(つか)まえたいんだけど、どうしたらいいか教えて」


「は? ネズミ?」

 エドワードは思いがけない質問(しつもん)戸惑(とまど)いながら、リーナの(そば)までやって来た。


 ネズミは()げたそうにしていたが、(りゅう)営巣地(えいそうち)のような(ひら)けた場所では(かく)れようがなく、様子を(うかが)うようにじっとこちらを見ていた。


「これ?」

 エドワードは聞いた。


「うん。これ」

 リーナは答えた。


「簡単」

 エドワードはヒョイっと拘束(こうそく)魔術(まじゅつ)を使った。筋状(すじじょう)の魔力があっという間にネズミを(つつ)んだ。


「え、今の何?」

 リーナは(おどろ)いて聞いた。


「え? 魔術だけど」

 エドワードが答える。


「あー! そっか、魔術師さんだったか! その手があったわね」

 リーナはぽんと手を()った。


「もー俺のこと何だと思ってるの?」

 エドワードはため息をついて、拘束(こうそく)されて動けなくなっているネズミをリーナの(かご)にそっと入れた。


「で、このネズミが何?」

 エドワードは聞いた。


(りゅう)()の近くに()んでるネズミ。(りゅう)共存(きょうぞん)できるってことは何かあるかなって」

 リーナは答えた。


「何かって何さ?」


「何で(りゅう)に食べられないのか、よ」

 リーナは言葉を(しぼ)り出すように言った。


 エドワードはリーナが興奮(こうふん)(おさ)えているのを感じた。


「へー」

と言いながら微笑(ほほえ)んで、それ以上は何も言わずに、リーナを馬に乗せると一目散(いちもくさん)に村へと馬を走らせた。


 おもしれえ女だな、とエドワードは思っていた。

面白い小説を書きたいと思っています。皆様のご意見ご感想をお聞かせいただけるとたいへんありがたいです。

また、励みになりますので、

もし少しでも面白いと思って下さった方がおられましたら、

下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方も、よろしくお願いいたします。

すみませんが、どうぞよろしくお願い致します。

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