15. 隣の兄妹〜優しい幼馴染〜
「リーナ」
「あ、ベナン。畑仕事、精が出るわね」
翌朝、薬草畑で株に一本一本支柱を立てていたリーナは、隣の畑で作業をしている幼馴染のベナンに声をかけられた。
ベナンの上半身の服ははだけて、たくましい体が半分露わになっていた。
「ちょっと、ちゃんと服着てよ。半裸の人には近付きたくない」
「相変わらず言い方きっつ。泣きそう」
ベナンはしゅんとして服を着た。
「恥ずかしいもの、男の人の半裸とか」
リーナが怒って言う。
「何言ってんだ。おまえ兄さんいるだろ。これくらい普通だろ」
とベナンが言い返した。
「うちのお兄様は半裸とかなりませんから」
とリーナも返す。
「そ? 昔は俺ら半裸で村中駆け回って遊んでたもんだけどなあ」
「もう大人ですけど」
「どっちがダメなの? リーナが見るのが? シャールが見せるのが?」
ベナンが口をとんがらせて言った。
「聞き方が変態っ!」
リーナは持っていた野菜の支柱をベナンの方に向けた。
「あっぶねー、そーいうの人に向けちゃダメだろ。そりゃそーと、おたく、今、イケメンの旅人来てる?」
ベナンは降参したように一度両腕を挙げてから、ふと聞いた。
「来てる。竜から助けてもらった」
とリーナは答えた。
「竜!? おまえ気をつけろよ! 隣村であんなんあったばっかりだろ!」
ベナンは慌てて大声を出した。
リーナもあの日の隣村の、瓦礫の下で血まみれで横たわる人々を思い出した。気が滅入った。
「あんときゃ大変だったな。おまえ、偉かったよ」
ベナンがポツリと言った。
「ベナンもだよ。手伝いに一緒に来てくれて」
とリーナも言った。
「俺はただのボランティアだから。安全警備の部隊の人は、竜追い払って怪我人探し出したら任務終了ってとこあるじゃん?」
とベナンは言った。
「うん。それは仕方ないけどね。家が壊れたとか治療とかは安全警備の人の仕事じゃないもの。そういう壊れた家の片付けとか手伝って、本当ベナンは偉いと思ったわ」
とリーナは心から言った。
「リーナはさ、は怪我人の手当てしててさ、血まみれの人、怖くないの?」
「んー、怖いけど、そこまでじゃないかな。一応薬師だしね。ベナンは怖いの?」
「俺はすげー血とか怖い。だからおまえを尊敬する」
そこまで言って、ベナンは話が逸れたことに気付き、こほんっと咳払いした。
「あのさ、おまえんちの旅人イケメンじゃん。おまえもあーゆーの好きなの?」
ベナンは真顔でリーナをじっと見ながら聞いた。
「そりゃ、女ですから。イケメンは好きだけど」
と言ってから、リーナはベナンがあんまり真面目な顔をしてるのでムッとした。
「やめてよ、ベナン。そもそも身分違うし。イケメン貴族は美人の令嬢と恋するもんでしょ」
ベナンはやっと笑顔になった。
「そーだな、心配いらねーか」
「どーゆー意味よ」
リーナはふくれた。
「汚ねー村娘って言ってんだよ」
とベナンは笑った。
リーナは自分の服を眺めた。
「確かに」
それからベナンを見て言った。
「でもベナンに言われたくない。さっきあんたの畑で少し病気にやられ始めた株見つけたけど、手伝わないからね」
「マジで。やべ。どれ?」
ベナンは少し焦った顔をした。
「教えない。意地悪言う人は手伝わないのよ」
リーナはそっぽを向いた。
「嘘嘘。リーナはキレイ。村一番可愛い」
それから真顔でもう一度リーナを見つめて、
「村一番、可愛いよ」
と言った。
リーナはベナンの含みある物言いにはさっぱり気づかず、
「よろしい。手伝ってあげるわ」
と笑って言った。
ベナンは苦笑した。
「おまえ、やっす」
「早く手を打った方がいいよ。あ、グレース! 石灰持ってきて!」
リーナは、納屋のそばにベナンの妹のグレースを見つけて声をかけた。
グレースがぱっとこっちを向いた。
「石灰?」
グレースは急いで足元の袋を掴むとこちらへ駆けてきた。
しかし、畝に足を取られて転けてしまった。
「あぶねーな! だいじょうぶか!?」
慌ててベナンが駆けていってグレースを起こした。そしてグレースの足元の泥を払ってやった。
「ベナン、あなたって優しいよね」
リーナは笑って言った。リーナはシャールを思い浮かべた。口元がほころぶ。
その瞬間ベナンが大声を出した。
「こらー! グレース、これ石灰の袋じゃねーじゃん! 堆肥の袋じゃん!」
「あれ? 私、隣のやつ持ってきちゃった?」
「どじーっ」
リーナは相変わらずの兄妹を見て楽しそうに目を細めた。
「そういや、今日シャールは?」
ベナンはリーナに聞いた。
「シャールは、カレンとこ行くって言ってたかな。ベナンも同級生だよね」
リーナは答えた。
ベナンは頷いた。
「そ。俺とシャールとカレン。でも、カレンはむっちゃ優等生タイプでさあ。俺ら芋軍団には目もくれない感じよ」
「お兄様は芋じゃないし。ベナンだけだし」
リーナがむっとして言った。
「だから芋だったんだってば。おまえのお母さんとシャールのお父さんが再婚した頃はさあ」
ベナンがため息をついて言った。
「信じないもん」
「けっ、好きにしろ」
ベナンは口を尖らせると、グレースの代わりに石灰の袋を取りに行った。
そのとき、馬の蹄の音がして、ベナンは振り返った。
金髪の魔術師の男が、リーナの薬草畑を訪れるところだった。
面白い小説を書きたいと思っています!皆様のご意見ご感想をお聞かせいただけるとありがたいです。
また、これからの励みになりますので、お手数ですが、もし少しでも面白いと思って下さった方がおられましたら、
↓ご評価☆☆☆☆☆↓よろしくお願い致します。
ほんの少しで構いません!
不躾なお願い、どうもすみません。
よろしくお願い致します!