13. 心からの説諭、伝えられない気持ちと
家に着くと、シャールはロベルトとエドワードを客間に案内した。
そしてリーナを部屋に送ると、シャールは急に真面目な顔をしてリーナの方を向いた。リーナはドキッとして緊張がはしった。
シャールは震える腕を伸ばし、リーナの肩に触れた。
ひどくほっとしたような怒っているような顔だった。
「リーナ、無事で良かった」
「お兄様、心配かけてごめんなさい……」
シャールはそのままリーナを胸の中に抱きしめた。確かな温もりを感じ、シャールは縮み上がっていた心が少しほぐれた気がした。
そして
「竜避けの薬草がそんな危険なところにあるなんて」
と強い口調で言った。
しまった、とリーナは思った。
話の流れでそこはスルーしてもらえたと思っていた。慌ててシャールを押し退けた。
「ごめんなさい、お兄様。だから言えなくて」
「だから、じゃない。なぜ言ってくれなかった。分かっていたら行かせなかった」
シャールの口調は揺るぎなかった。
「お兄様。それでは薬ができないわ」
「かまわない。それよりリーナの身に万が一のことがあったら、そっちの方が心配だ」
どうしたらリーナは俺の気持ちを分かってくれる? 何よりリーナが大事なのだと言うことを。おまえを失うことがどれどけ怖いかということを。
だが、責任感のあるリーナは、人を助けることが何よりで、俺の心配など理解してくれないだろう。
「だめよ。誰かが採りに行かなければいけないのよ、私が行く」
案の定リーナは覚悟を決めた強い顔で言った。
シャールは首を横に振った。
「俺が行くなり、他の者に行かせるなり、なんとかする」
頼むから。頼むから。最悪な事態を想像すると胸が痛む、吐き気がする。
「お兄様、だめだってば。危険だからこそ人に任せられないし。そもそも採り方とかあるし」
リーナは兄の気持ちなど微塵も気付かず、強く言い返し、シャールの腕に縋りついた。
シャールの腕を掴むリーナの手。リーナを抱きしめたい激情が走った。
シャールは堪らなくなって、リーナの肩を掴み強く抱きしめようとした。
しかし、一瞬の理性が彼を止めた。
どんなに自分がリーナを欲しいと思っても、まだ、リーナにとって自分はただの兄でしかない。
シャールは深呼吸をした。
今望む事はただ、リーナが安全に自分の傍にいてくれる事。そしてシャールは懇願するようにリーナをじっと見つめた。
しかしリーナは強い信念を持った目ででシャールを見返した。
シャールは根負けしたようにふうっと息を吐いた。
「ならば、次からは俺がついて行く。リーナが危ないところに行くのに、俺は一人で家で待ってるわけにはいかない。帰ってこなかったらと思うと冷静でいられる自信がない」
シャールのまっすぐな瞳にリーナはそれ以上は言うことができなかった。
「分かったわ……」
リーナは下を向いた。
シャールはリーナの肩から手を離し、リーナの腕を取った。リュウシソウの草の跡がこびりついていた。
シャールはそっと擦ってみたが簡単には落ちなかった。
「お兄様?」
「あ、すまん、腕のこれ、濡らしたら落ちるかな。それと服を着替えないとな」
「はい」
リーナは確かにこんな格好では何の説得力もないと、しおらしく答えた。
「リーナ、あのさ。本当に頼むから、俺に心配かけさせないでくれ」
シャールは念を押すように言った。リーナは首を横に振った。
「お兄様。今のこの国の竜の生息数では、王都にでも住まない限り、どこも安全じゃないわ。何が起こってるんでしょうね」
「それでもおまえには笑顔でずっと側にいてもらいたいんだよ」
シャールは伝わらない想いを弱々しく言った。
「あの二人は何か知ってるかしら」
リーナは兄の気持ちにはたいして気付かず、ぽんと手を打って言った。
リーナはただ、珍しいお客さんにはしゃいでいるようにも見えた。
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