11. 竜の巣へ薬草を採りに〜魔術師に助けられた少女〜
シャールの妹、薬師のリーナは朝早くから村を離れて、村の外れの崖に続く細道を早足で行った。
崖は遠く、急がねば日が暮れてしまう。
もうここまで来ると人家はなく、家畜の草場が広がっているだけだ。この日は雲ひとつない快晴。
普段のリーナなら気分良く羊飼いの歌でも口ずさむところだが、今日はそんな気分にはなれなかった。
目的が竜の巣だったからだ。
崖に着くとリーナの顔にさらに緊張が走った。その下は竜の営巣地だったからだ。
リーナは恐る恐る下を見下ろしたが、この日は竜の姿を認めず、リーナはほっとため息をついた。
狩りにでも行っているのだろうか。竜のいる日は残念ながら諦めて、来た道を戻らなければならない。
リーナは手慣れた様子でロープを張り、崖の下に降りた。
そこはもう草はまばらだ。竜が物理的に草を踏み潰すし、火を吐いて燃やしてしまうからだ。
がここに、目的の薬草、リュウシソウが生えている。
リーナは辺りに注意しながら、リュウシソウの葉を株が死なない程度にむしっては、次々と手に提げた篭に入れていった。
その時リーナは、リュウシソウの群生の中に、違う植物が混ざっているのを見つけた。
葉の色や背丈の高さはリュウシソウと同じくらいで、本当によく見ないと分からない。でも葉の形がわずかに違った。他の場所では見たことがない草だった。
リーナは隣の群生も見に行った。やはりリュウシソウの中に少しだけその草が混ざっていた。
リーナはいっぺんに興味を惹かれてしまった。そして急いでいたことをすっかり忘れてしまった。
この草はなぜリュウシソウに混ざって生えているのかしら?
リュウシソウの出す匂いを嫌って、竜はここに近づき過ぎることはない。ある意味、この竜の営巣地でリュウシソウの周辺だけが唯一草の生えられる場所だ。
他の場所では勝てない草が、ここでなら細々と生えることができたのかしら?
リーナはどうやらこの新しい発見に夢中になりすぎたようだ。
空を舞う竜の翼が太陽の光を遮りリーナに陰を落とすまで、リーナは竜に気がつかなかっ隠た。
「あ、まずい」
この開けた竜の営巣地に姿をす場所はない。
リーナは藁にもすがる気持ちで摘んだリュウシソウを体に擦り付けた。
ばさっ、どすん、と大きな音がして、一匹の竜が近くに降り立ち、鋭い目でリーナを見下ろした。
真っ赤な目は濡れたように光り、目の前の獲物を脅すように睨め付けた。
ただ、リュウシソウの匂いのせいか、近寄りあぐねているように見えた。
とはいえ、村や森と違って、隠れる場所のないここで、どうやったら逃げられるだろう。
膠着した状況で、時間はゆっくりと流れ、あまりの緊迫感にリーナは目眩がしてきた。
と、そこへ二人の男が飛び出した。
黒髪の男はリーナの肩をかき抱呪文き、を唱えながら飛び上がった。
空間が歪み、次の瞬間リーナは崖の上にいた。リーナは、ああ魔術師が助けてくれたのだ、と思った。
もう一人の金髪の魔術師は、呪文を唱えながら剣を振りかぶった。
どんな剣でも竜の硬い鱗は傷つけられないが、魔術で物質の硬さを変化させながら剣で斬りかかれば、竜にも致命傷を与えることができる。
竜も火を吹き応戦した。同時に金髪の魔術師の男も術を使った。
魔術は火の性質も変えられる。
火は金髪の魔術師に届く寸前で小さな水の粒になって霧散した。
しかし竜は金髪の魔術師に突進しながら、長い首を揺らし、上から横から火を吐き続けた。
術を使い続ける金髪の魔術師の額に汗が滲みはじめた。
舐めるように全ての角度から襲ってくる竜の動きを追いながら、正確に術を使う。
しかし竜はついに金髪の魔術師の後ろへと回り込み、口から噴き出す火力を上げて炎の壁を作った。
金髪の魔術師は一瞬体勢を崩して「おっと」と呟いたが、また歯を食いしばり、炎の壁に腕を突っ込んでかき乱すと、炎は煙になり金髪の魔術師の姿を隠した。
竜は目的の者を見失って戸惑った。
金髪の魔術師の唱える低い声だけが聞こえ、辺り一面どんどん白い煙で覆われてゆく。
竜が羽ばたいて煙を風で蹴散らそうとしたとき、突然金髪の魔術師の剣が煙から現れ、竜の首をずどんと落とした。
金髪の魔術師はすぐに崖の上の黒髪の魔術師とリーナに合流し、二人の魔術師はリーナを急かして近くの草場に走り、待たせていた馬にリーナを抱えて押し乗ると、一目散にその場を離れた。
「しっかり掴まっていろ!」
リーナは馬の上で、金髪の魔術師にしがみついた。リーナを抱えた男の手に力がこもった。全速力で馬を駆けると、やがて遠くに村が見えた。
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