10. 恩ある先輩からの人でなしな頼まれごと
ロベルトとエドワードは王都から少し離れた小さな村に来ていた。そして村の中央にある大きな家の前まで来た。
門の造りはしっかりしていたし、屋根も丁寧に葺いてあって、裕福そうな家に見えた。
しかしなんとなく人の出入りが少ない寂しい感じがした。
「ここっぽいな。」
ロベルトはそう言うと広い敷地を見渡した。
エドワードは腑に落ちない顔をしていた。
「あーあ、やな仕事。何でこんなことなってんだっけ?」
「仕方ないだろう。先輩が大怪我」
「いや、そーゆーことじゃなくてさ。何で 俺ら が!?」
「他にいなかったから」
「だから、そーゆーことじゃなくてさ。俺らがあの女のダンナを殺ってんだぜ!?」
「うん。でも彼女に伝えることが、絶対の要件だとのことだから」
「……。おまえ平気なのかよ。おまえのその、とりあえずうまくやるってとこ、本当尊敬するわ」
エドワードは首を振った。
ロベルトはむっとしたが、エドワードの言うことももっともなので言葉がなかった。
公務で足を失う大怪我をしたハンドリーの病室を見舞ったときのことが思い浮かんだ。
あれはダミアンの死から半年ほど経った頃だった。
ハンドリーは申し訳なさそうなかすれ声で、ダミアンの死をダミアンの妻に伝えてくれと言った。
ロベルトとエドワードはぎょっとして耳を疑った。
ハンドリーは時間がかかったが、何とかダミアンの妻を見つけたこと、
別の人にも片っ端から当たったが、皆忙しくて断られたこと、
クレッカー長官の思い詰めた様子などから、大事な命令だと思われること、などを心苦しそうに話した。
絶対にロベルトとエドワードには頼みたくなかったが、もうおまえたち二人しかいないと頭を下げられた。
ロベルトとエドワードは自分たちの新人時代に、何度もハンドリーが危険から庇ってくれたのを思い出した。
「若いおまえたちにゃさせられねーよ」と汚れ仕事も率先してやってくれた。
そのハンドリーが頭を下げている。
ロベルトとエドワードは、いつも世話になっている先輩のここまでの頼みを断ることはできなかったのだった。
その時、家の中から女が子供を抱きながら出てきた。
続いて出てきた使用人にテキパキと指示を出す様子は、彼女が王都時代にキビキビと働いていた感が残っているように見えた。
責任感強めの表情をしていたが、昔は艶やかだった髪は無造作に後ろで束ねられ、やつれた顔をしていた。
「いや、ダメだわ、絶対。うまくやるってレベルじゃねーよ。鬼畜レベルだ。おたくの夫、死にましたって、夫殺した人間に言われるのとか、ありえねえ」
エドワードは頭を垂れた。
「そうだな。こういうシチュエーションって普通謝罪するときだよな」
「謝罪するか?」
「おまえ、謝罪も何も、俺たちこの件のこと実際何も聞かされてないだろ」
ロベルトとエドワードはその女性を呆然と眺めた。
「何でハンドリーに言われたとき、いける気になって請け負っちゃったんだろう。俺たちが殺したって黙ってりゃ気付かれないとか、ハンドリーも適当すぎる。そーいう問題じゃねーよ」
エドワードは髪を掻きむしった。
その時、その女性がふと何気ない目でこちらを見た。そしてその目は一瞬で疑いの色が浮かんだ。
「しまった」
二人は慌てて目を逸らし、顔を隠すようにしてその場を離れた。
女の視線が背中に突き刺さるのを感じた。
「エドワード、俺たち一番ダメな感じになってる」
「もう、絶対だめだよな。王都に戻って、ハンドリーに謝ろう。俺らができることじゃねーよ」
だがロベルトは王都のハンドリーを思い浮かべると、ハンドリーが気の毒になった。
「……いや、でも、ハンドリーに謝ったってどうしようもない。クレッカー長官の命令は、ダミアンが死んだことをあの人に伝えるってことだよな」
「どーゆー意味」
「ハンドリーも言ってたじゃないか、俺たちが殺したこと気づかれなければいいじゃないか」
「だから、それが鬼畜だっつってんだろ!」
「おまえ、人を殺しといて、今更その貞操観念は何!?」
ロベルトの言葉にエドワードは言葉が詰まった。
「……えっと、ほら、人殺しにもあんだろ、いろいろ」
「ないよ、ただの人殺しだよ」
「……でもさ、俺らが殺したのは罪人だろ。あの女は何も悪いことしてない。俺は気が引けるよ」
エドワードは矛盾に頭を抱えながら、自分の中のわだかまりを整理するように呟いた。
「ロベルト、とりあえず、出直させてよ。ちょっと今は気持ちの整理がついてないから」
ロベルトはエドワードのぐちゃぐちゃな胸中を思って、うん、と頷いた。
こういうのは、エドワードは苦手だ。なんとかしなきゃね、とロベルトは思った。
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