6 悲恋の行進
翌日、宿屋から出てギルドへ向かっていると、多数の馬車が街に入ってくるのを目撃。豪華な馬車だなと眺めていると、中から高そうな衣服を身に着けた人たちが出てきて、高級宿屋に入っていくのを見る。
豪華な馬車な中でも一段と豪華な宝飾が施された馬車の中から美しい服を身にまとった女性が出てくる。とても高貴なふるまいを見せる彼女。貴族の人かな?
彼ら、彼女は誰何者なんだろう。
気になったのでギルドにいるベテランさんに聞いてみた。
10年に1度行われる「聖女の行進」と呼ばれる行事であるとのこと。大教会で選ばれた聖女が世界の各街を巡って挨拶をする、という内容。
大教会とは女神「エイリア」を信仰する宗教団体の大本。教会は世界に散らばっている。この世界ではほぼ女神エイリアを信仰しているようだ。この街にも教会がある。大教会はここから近く、隣の隣の街のようだ。大きな街らしい、1度行ってみたいな。
「ただ問題があってな。聖女の行進の最後は、各街を訪れた聖女が生贄となって終了するというとんでもないものなんだ」
「それは穏やかではないですね」
何度か生贄をやめようという話にはなったが、大昔から行われてきたもので、今無理矢理辞めて問題が起きた場合は誰も責任を取れないとして、結局この儀式は続けられてきてしまったようだ。
「1つだけ、正攻法で生贄、儀式を終わらせる方法があるんだが」
その方法とは聖女が持っている杖を「破壊」すること。書物に「杖を破壊せし時、儀式は終りを迎える」と書かれている。言い伝えもありそれも似たような内容。
だがとてつもなく頑丈な素材でできているらしく、これまで様々な人達が杖の破壊に挑戦したが、誰も破壊どころか傷1つつけることが出来なかった。
今回はそれだけではなく、聖女リンと彼女を守る騎士団の長ランスが恋仲ということもあり悲恋の行進として人々に語られている。うーん、何ともやりきれない話だ。
今日はこれから広場で祈りを捧げるという。俺なら彼らになにかしてあげられるのではないか、そう思い今日は仕事はやめてお祈りを見に行くことにした。
昼食後広場に人々が集まってくる。お立ち台で聖女が祈りを始める。ふむ、美しい女性だ。近くに長身で端正な顔立ちの男性。美男美女、お似合いのカップルだな。
街の人はたくさん集まっているが、皆難しい表情をしている。この後彼女は生贄として死ぬわけだ。当然気持ちの良いものではない。気持ちが沈んだ街の人の後ろ、広場の後ろから大きな声が。
「その杖、俺が破壊しよう!」
「おお、彼は街一番の力自慢。それから隣りにいるのは有名鍛冶屋さん。これなら破壊できるかも!」
杖の破壊は「誰がやってもよい」。彼女はお願いしますと杖を渡す。一部の人からは「杖破壊の行進」とも呼ばれているとベテランさんが言っていたな。
鍛冶屋さんが準備を。杖を横にして、先端と石づきを固定して置く。男の手には巨大槌。中心を金属槌で叩きつけようってわけだな。
男は槌を振り上げ、思い切り杖に振り下ろした。大きな金属音が発生、槌は杖に弾き返され、男はよろめく。杖は無事。それを数度繰り返したが、最終的に折れるどころか傷一つついていなかった。逆に槌は曲がってしまった。
気落ちし「まあ仕方がない」と口々に言う街の人達。大柄の男は残念そうに杖を聖女に返す。「ありがとうございました」と笑顔で受け取る。それがなおさら辛い。
彼女は杖を持ち再び祈りを捧げる。街の人達も祈りを。
それにしても硬そうな杖だった。だけど俺ならもしかしたら破壊できるかも。決めた、あの杖の破壊チャレンジを俺も。この後彼らを尾行してスキを見て杖を拝借、破壊を。あの姿をこの場で見せるわけにもいかないしね。
しばらくすると祈りは終わり、彼女らは広場から出ていった。俺はその後をつける。途中、今日はこの街に泊まっていくという情報が小耳に入る。そうだな、仕掛けるなら夜か。
彼女たちは宿屋へ。夕刻時に外に出て食事を済ませるとまた宿屋へ。時が経ち、深夜。そろそろ動こう。
どう動くか考えていると、宿屋の2階の窓から人影が2つ。ランスさんとリンさんだ。2人は外に誰も居ないのを確認すると、街道に飛び降りた。まさか駆け落ちか。しかしこれは好機でもある。宿屋から杖を持ち出すのは骨がおれるからな。街の入口に向かって走っていく2人。俺は2人後を追った。
2人は街の近くにあるディストの森の中へ。しばらく進むと足を止め休憩を。
あれ? 彼女は杖を持っていない。そうか捨ててきたのか。となると宿屋に戻った方が良いかな?
「ここまで来れば」
「あ、あれは!」
なんと、杖が街の方から飛んできて、彼女の元へ。杖は禍々しい気配を放っている。
「やはり駄目ね。この杖の印がある限り」