1 隣人
「遂に生命体が存在する星を見つけたぞ!」
「なんと美しい星だ……」
今から20年前、俺たちジュッキス星人はこの星、地球を見つけた。この宇宙は俺達だけだと思っていた。まさかの隣人発見に歓喜する俺たち。あの時は皆と一緒に感動したものだ。
ところが調査の結果、今のままでは彼らとの交流は難しいと結論付けられた。理由は数々あるが、深刻な問題は見た目。人間たちから見ると我々は非常に醜いというのだ。
さらに悪いことに醜い者たち=悪、危険とされる傾向が強いようだった。一時期流行した映像作品がそうした影響を与えていたようだ。このまま焦って彼らと出会っても、敵対されてしまう可能性が高い。俺たちはとにかく慎重に行動を。
そして遂に、地球の宇宙研究機関と接触することに成功。今では何人かのジュッキス星人が地球に入りり、制限はありつつも生活をしている。
俺はその中の1人、ジュッキス星人のダノン。現在は夕刻時、これから外に出てドライブをするところだ。
「ダノンさん、準備が出来ました」
『了解した』
連絡が入り、俺はトラックの荷台に乗る。この荷台の壁、天井は、ウチの星で作った、いわゆるマジック・ミラー。非常に鮮明に外の景色を見ることが出来る。
「よろしいですか」と運転手がこちらに話しかけてきた。俺は彼を見て頭を下げ頷く。人間は、そのまま我々を見ると失神する。そのため彼はモザイク処理が施される特殊なヘルメットを装着している。宇宙服のような服も。そのヘルメットは他にも様々な機能を搭載している。俺たち対策の装備だ。
「では出発します」
トラック発進。田舎から街へと入る。ここには人がたくさんいる。もう20年か、手を尽くしてはいるが彼らと会うにはまだまだ超えなければならない壁が数多くある。手が届きそうで届かない。なかなかに歯がゆい。
トラックは小高い丘へ。この道から見える街、川、海。
(相変わらず美しい風景だ)
俺たちの星はとてつもなく過酷な環境だった。高濃度の酸が混じる大気に、高温の地表、他。その中で進化し、強靭な肉体を手に入れた。
暗くなっってきた、そろそろ帰る時間だ。また街の中へ。
「あ、危ない!」
運転手が叫ぶ。前方、反対車線の横断歩道で小さな女の子が転んでいる。そこへ赤信号なのに勢いよくトラックが突っ込もうとしていた。どうやら居眠りをしているようだ。いけないこのままでは。
『リィーアァー!』
俺は荷台の天井を突き破りながら叫び声とともに、反対側の横断歩道へ向かって跳躍。少女とトラックはまだ少し距離がある。よかった、これなら間に合いそうだ。
「ぎゃーー!!」
女の子は大声で叫びながらその場から走って逃げる。確かに地球人から見たら怖いかもだけどさ。ちょっとショック。まあ元気なら良いか。
徐々に近づくトラックの明かり。そして光が大きくなり。
大きな衝突音が発生。俺はトラックを弾き飛ばした。弾き飛ばされたトラックは横倒しに。運転手は、大丈夫そうだな。さて、帰るか。急いで荷代に戻り、発進。
「だ、駄目じゃないですか。急に飛び出したりして」
『すまない』
「でも、格好よかったっすよ」
べ、別にそんな事言われても嬉しくないからね! ……この星の人とは仲良くできそうなんだよね。はやく俺たちを世界の人達に紹介できる時が来ると良いな。
「後処理はどうします?」
『いつものやつで』
「了解しました」
注意していても、どうしても人間の目にはいってしまうことがある。もし目撃情報が上がって騒ぎが大きくなってきた場合は、都市伝説、未確認生物、宇宙人等でごまかしてしまう。尾ひれをつけるなど誤情報も追加する。こうして嘘くさくすることで作り話だなー感を皆に与える。俺たちも地球を発見するまでは宇宙人なんて信じていなかった。
しかし本当はいるのです。今アナタの家の前を通過したトラックの中にもしかしたら……。
こんな様な映像作品を地球で見たな。
この日の夜のこと。ベッドで寝ていたはずなのに、目を覚ましたら椅子に。上を向く。まぶしっ、スポットライトのような明かりが俺を照らしている。夢だろうかと周りを見渡すが辺りは真っ暗。何も見えない。
ふと上から光が、前方に椅子が現れた。その椅子には地球人風の女性が座っていた。
「あなたがダノ、ギィャーー!!」
急に泡を吹きその場で失神。失礼な、と言いたいが地球人は俺たちを見ると失神する人が多数。本当に最初の接触は苦労したよ。
失神した女性は、手元から指輪と封筒を落とした。かなり大きな指輪だ。彼女の物ではないな。
ふーむ、これは、俺の指に合いそうだ。俺に渡そうとしていたのかも。しかし確認しようにも相変わらず失神したまま。だからといってここで起こしてはいけない。起こしても失神のループに入り込む可能性がある。慎重に、慎重に。ええ、昔やらかしましたよ。