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鴨川物語  作者: そーた
1/2

本当にあった怖い話です


流れる流れる、悠々と。

川が流れる、悠々と。

景色も流れる、悠々と。



速度を出さないのは、


法定速度を守りたいからじゃない…


針の様な冷たい風から身を守りたいから…


眼を細めているのは、


風が眩しいからじゃない…


山の向こうからむくりと起き上がってきた太陽の「おはよう」が、

眩しいほどに輝いていたから…


ただ、俺の右側には、

永遠と伸びる鴨川が横たわっているーーー



冬の寒い日だったと記憶している。

その日は夜勤のバイトを終え、もう日も登ろうかという時間帯にバイト先を出た。


俺は大変な食いしん坊なので、やはりその日も賄いをたんと食ったのは言うまでもない。

賄いを食べてタバコを吸い、クソして帰る。

これが俺のサイクルだ。

眠い目をこすり、今日も俺は帰るのだ。


バイト先を出ると、途端に眩しい光に当てられる。

さっきまで俺は地下の居酒屋で走り回っていた。

俺のバイト先はオシャレな演出の為か、結構薄暗い。

俺はまるで暗い洞窟から出てきた吸血鬼のようだ。

このまま光を浴びれば死ぬのではないかという錯覚に囚われる。


街が「おはよう!今日も一日頑張ってね!」と励ましてくれる。


気持ちはありがたい。


しかし既に俺は頑張り尽くした後なのだ。

とても挨拶を返せる気にはなれない。

俺はひとまずバイク置き場へと行く為に木屋町を通って行く事にした。

河原町を通って行ってもいいのだが、いかんせん河原町で歩きタバコをすると罰金1000円が課せられる。


しかし木屋町では歩きタバコは全然オッケーなので木屋町を選んだわけである。


明るい閑散とした木屋町をフラフラと歩いて行く。


ゲロをぶち撒けてある地面に気を付けながら…


早歩きで抜かして行く警官を一瞥しながら…


端っこの地べたで寝ている酔っ払いの前を素通りしながら…


キャッチの兄さんと酔っ払いが喧嘩しているのを眺めながら…


よく見るとその騒動の中には先程俺を抜かして行った警官がいた。


そんなに珍しい光景でも無いが、喧嘩の結末は見届けたい。

でも足を止めてまで観戦するのはかったるい。


そんな心の矛盾をシカトしながら歩いていると、まもなくしてバイク置き場に辿り着いた。


ーーさっさと帰るとしよう。


そう思いバイクにエンジンを掛けるのだが、


・・・・なかなかエンジンが付かない。


しかし、そんなことには慣れっこな自分だ。

俺の愛車であるこの原付は、車体価格5万円で買った中古車。

約2年間乗り回しているのだから、そらエンジンも付きにくくなる。

ちなみにもちろんキックでしかエンジンは付かない。


こんなひねくれ者のコイツだから、乗りこなせる者といえば私くらいなのだ。

もっとも俺の言うことでさえ聞かないこともあるが、その時はコイツと呼吸を合わせ、相手のタイミングで付けてあげる。

まあ、読者には意味が分からないだろう。

とにかく闇雲に命令してもこいつはヘソを曲げてちっとも聞きやしない。


だから俺はその時も苦戦しながらだがエンジンを掛けることができた。


相棒の紹介はこれくらいにして・・・・



流れる流れる、悠々と。

川が流れる、悠々と。

景色も流れる、悠々と。



速度を出さないのは、


法定速度を守りたいからじゃない…


針の様な冷たい風から身を守りたいから…


眼を細めているのは、


風が眩しいからじゃない…


山の向こうからむくりと起き上がってきた太陽の「おはよう」が、

眩しいほどに輝いていたから…


ただ俺の右側には、

永遠と伸びる鴨川が横たわっている。


川の流れにともなって、


腹の飯も流れ出す。


それは突如激しさを増し、


嫌な汗も流れ出す。


大雨、予兆も無く川が氾濫するように。


予兆も無くそれはやってきた。


(しまったッッ〜

今日ウンコすんの忘れてた!)


大飯を食らってタバコを吸えば、誰しもが予測できただろう。

実際過去何度も原付に乗っている途中に便意に駆られたことはあった。

しかし今までは運がよかった。

便意に駆られた時は決まって近くにコンビニがあったのだ。

しかし運が良かっただけに、いずれこうなるであろう現実から目を背け続けていたのだ。

今まで運が良かっただけに、今まで保留にしていた不運が一気にやってきたのだ。

俺は本当に運がついている。

そう、ウンが付いているのだ。


便意に駆られた時は時すでに遅し。


近くにコンビニなど無かった。


この先にコンビニがあると言えばもう自宅の近くになる。


自宅までは鴨川沿いに一直線。


だが遠すぎる。


だからといって今更戻れる距離でもない。



そうしてる間にも強烈に襲いかかってくる便意…


俺が家に着くのが先か…


括約筋を打ち破られるのが先か…



これはーーー



絶対に負けられない戦いだ!



そうして俺は歯を食いしばり、俯きながら便意と闘っていた。



俺が便意と闘い、原付のアクセルをふかし、バイクの振動に負けまいと何とか括約筋に鞭を入れていた…



しかし…



「な、なん…だと?」



俺は見てしまったのだ。



いや、気づくのが遅すぎたと言うべきか…



原付のハンドル部に表示されている、ガソリンメーター。



そう…



その針が、Eの文字を指していたのだ。



「ガソリンが……無い……だと?」



果たして家まで持つかどうか。



いや、そういえばさっきからバイクのスピードも落ちてきている気がする。


もうすでに、相棒は余勢だけで走っている状態みたいだ。



そして…死刑宣告を受けた人間に当然、死刑執行の日が訪れるように、


その時はやってきた。


ド…ドド…ドッ…ドドッ…ド…


ド…


…………


…………


とうとう信号待ちで止まったエンジンの音。


その時の心境は、


(嗚呼………来たか)


と案外穏やかなものだった。



・・・・押して行くしか無いな。


要するに家まで我慢すればいいだけの事。


そう割り切って相棒を押して行くしか無かった。


コイツに何も罪は無い。


寧ろ1mでも前に進んでくれてありがとう。

あとは俺が頑張る番だな。


そう覚悟して歩くものの、すぐにまた便意が襲いかかってきた。


下腹部を襲う猛烈な便意。


今回は本当にヤバイらしい。


本当に我慢出来ないやつらしい。


それは今までに駆られた便意の中で余りにも圧倒的なものだった。


案外とあっさり覚悟は折れた。


あっさりと覚悟を捨てたのは、諦めたからでは無い。


別の覚悟を決めたから…




…シャッターの閉まった建物。


そこに原付を停めた。


その建物と隣の建物の間…


つまり、、、


路地。


煙が上がり、火が上がるのではないかと思うくらいギラギラとした眼光で、その隙間を睨めつける。



…俺は、覚悟を決めた。


それは余りにも常軌を逸したものであったーー


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