3
本日五回目の更新です。
依頼された薬草は、本当にただの薬草だ。
病気の治りが少しだけ良くなったり、体力の回復を少しだけ早くする、それだけのもの。
それでもエルティはきっちりと依頼をこなす気でいた。
普通の冒険者なら無駄だと立ち去っていただろう。
それどころか、そもそも依頼を受けてここまで来ることすらなかった筈だ。
仕方なく受けたとはいえ、依頼は依頼。
それに、自分と同じ駆け出し冒険者を見捨てる気にはなれなかったのだ。
「薬草は採って来なくていい」
「ちょっとあんた、無駄だって言いたいわけ?」
「そうだ」
「あんたから見たらそうかもしれないけど、少しでも良くしてあげたいって親心が分かんない訳? アタシがここで断ったら、あの程度のお金じゃ買えないのよ」
エルティに提示された金額は安かった。
市場で薬草を買おうと思っても痛んだ切れ端が買えるくらいの、端金である。
それでも受けようと思った心意気や、タケオに文句を言う気持ちは尊いが、口に出して依頼主の耳に入ってしまうのは頂けない。
先程の気遣いは頭に血が上ってどこかへ行っていた。
「心配するな」
「えっ!?」
タケオがミュールに手を翳すと、暖かな光があふれ出る。
回復魔法だ。
魔法の腕がすごいタケオは、回復魔法も使いこなす。
これもただの回復魔法ではなく、解呪と回復を掛けあわせたすごい魔法なのである!
「う、ううん……あれ、もう朝……?」
「――ああ、ミュール!!」
「すごい、あれだけ顔色が悪かったのに……」
ミュールはすっかり良くなっていた。
戻らなかった意識が戻り、血色も良い。
新陳代謝が良くなり胸も少し成長していた。
奇跡のような光景に母親はまだ寝ぼけ眼のミュールに抱き着いた。
「もう大丈夫だ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「……お母さん、この人達、誰?」
「貴女の命の恩人だよ。ほら、お礼を言いなさい」
「ありがとうございます?」
母親に促され、ミュールはお礼を言った。
まだ状況を把握していない為、疑問形だった。
「アタシはエルティ、駆け出し冒険者よ」
「俺はタケオだ」
「私、ミュールです。宜しくお願いします」
「ミュール、あなたも冒険者になったばかりなんでしょ? アタシもなのよ」
「そうなんですか?」
「ええ、歳も近いみたいだし、仲良くしましょ」
挨拶を済ませたエルティは、ミュールに積極的に話しかけた。
自分でも気付いていなかったが、同年代の駆け出し冒険者の少女に、親近感が沸いていたのだ。
ミュールが一瞬で元気になった興奮も、エルティを後押ししていた。
「すまない、話を聞かせてもらっても良いか?」
「あっ、はい」
「いいところだったんだけど、まぁいいわ」
タケオはすごく我慢強い。
エルティが偉そうな態度を取っても全く気にならないのだ。
「ミュールに掛かっていたのは高度な死の魔法だ。一体何があった?」
「えっ!?」
「の、呪い!? えっと……」
ミュールは元気になった顔を曇らせた。
呪いという予想外の言葉に怯えてしまったのだ。
少しためらった後、話し出した。
要約すると、ホネダラケ墓地で変わった物を見つけ、拾おうと手を触れた途端に体調が悪くなり、必死に帰宅したのだという内容だった。
ミュールは街の端に存在する、王都最大の墓地であるホネダラケ墓地の調査以来を受けたという。
それは、結界の状態を観察するだけの簡単な依頼だった。
ホネダラケ墓地の結界は、とても強い。
少しでも魔法を使える者ならば、見ただけでその強さが分かる程だ。
だから、駆け出し冒険者向けの依頼としてほぼ毎日貼り出されている。
報酬は安いが危険も少なく、難易度も低い。
魔法が使えるミュールも、既に何度か受注していた。
ミュールはその依頼の為に墓地を訪れて、依頼の途中でかなり奥の方まで行った。
そこに落ちていたアイテムに触れて、呪いに掛けられた。
タケオは話を聞くと、立ち上がった。
病み上がりの人間にあまり負担をかけないようにという、すごい心遣いだ。
「参考になった。感謝する」
「あの、報酬を」
「俺は受け取らない約束だ。エルティに渡してやってくれ」
「いらないわよ」
「冒険者なのに報酬はいらないのか?」
「アタシは何もしてないんだから、当然でしょ。そんなの報酬じゃなくてただのお小遣いよ。もらう義理は無いわ」
「だそうだ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「あの、ありがとうございました!」
親子が揃って頭を下げた。
エルティは顔を赤くして家を出ていく。
タケオも後に続こうとして、ミュールに向き直った。
「墓地には近づかない方がいい」
「え?」
一言だけ呟いて、タケオは今度こそ家を出た。
すごく口下手なのだ。
その真意が伝わることはすごく少ない。
ミュールはよく分からないまま、二人の冒険者を見送った。




