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本日五回目の更新です。


 依頼された薬草は、本当にただの薬草だ。

 病気の治りが少しだけ良くなったり、体力の回復を少しだけ早くする、それだけのもの。

 それでもエルティはきっちりと依頼をこなす気でいた。


 普通の冒険者なら無駄だと立ち去っていただろう。

 それどころか、そもそも依頼を受けてここまで来ることすらなかった筈だ。

 仕方なく受けたとはいえ、依頼は依頼。

 それに、自分と同じ駆け出し冒険者を見捨てる気にはなれなかったのだ。


「薬草は採って来なくていい」

「ちょっとあんた、無駄だって言いたいわけ?」

「そうだ」

「あんたから見たらそうかもしれないけど、少しでも良くしてあげたいって親心が分かんない訳? アタシがここで断ったら、あの程度のお金じゃ買えないのよ」


 エルティに提示された金額は安かった。

 市場で薬草を買おうと思っても痛んだ切れ端が買えるくらいの、端金である。

 それでも受けようと思った心意気や、タケオに文句を言う気持ちは尊いが、口に出して依頼主の耳に入ってしまうのは頂けない。

 先程の気遣いは頭に血が上ってどこかへ行っていた。


「心配するな」

「えっ!?」


 タケオがミュールに手を翳すと、暖かな光があふれ出る。

 回復魔法だ。

 魔法の腕がすごいタケオは、回復魔法も使いこなす。

 これもただの回復魔法ではなく、解呪と回復を掛けあわせたすごい魔法なのである!


「う、ううん……あれ、もう朝……?」

「――ああ、ミュール!!」

「すごい、あれだけ顔色が悪かったのに……」


 ミュールはすっかり良くなっていた。

 戻らなかった意識が戻り、血色も良い。

 新陳代謝が良くなり胸も少し成長していた。

 奇跡のような光景に母親はまだ寝ぼけ眼のミュールに抱き着いた。


「もう大丈夫だ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「……お母さん、この人達、誰?」

「貴女の命の恩人だよ。ほら、お礼を言いなさい」

「ありがとうございます?」


 母親に促され、ミュールはお礼を言った。

 まだ状況を把握していない為、疑問形だった。


「アタシはエルティ、駆け出し冒険者よ」

「俺はタケオだ」

「私、ミュールです。宜しくお願いします」

「ミュール、あなたも冒険者になったばかりなんでしょ? アタシもなのよ」

「そうなんですか?」

「ええ、歳も近いみたいだし、仲良くしましょ」


 挨拶を済ませたエルティは、ミュールに積極的に話しかけた。

 自分でも気付いていなかったが、同年代の駆け出し冒険者の少女に、親近感が沸いていたのだ。

 ミュールが一瞬で元気になった興奮も、エルティを後押ししていた。


「すまない、話を聞かせてもらっても良いか?」

「あっ、はい」

「いいところだったんだけど、まぁいいわ」


 タケオはすごく我慢強い。

 エルティが偉そうな態度を取っても全く気にならないのだ。


「ミュールに掛かっていたのは高度な死の魔法だ。一体何があった?」

「えっ!?」

「の、呪い!? えっと……」


 ミュールは元気になった顔を曇らせた。

 呪いという予想外の言葉に怯えてしまったのだ。

 少しためらった後、話し出した。


 要約すると、ホネダラケ墓地で変わった物を見つけ、拾おうと手を触れた途端に体調が悪くなり、必死に帰宅したのだという内容だった。


 ミュールは街の端に存在する、王都最大の墓地であるホネダラケ墓地の調査以来を受けたという。

 それは、結界の状態を観察するだけの簡単な依頼だった。

 ホネダラケ墓地の結界は、とても強い。

 少しでも魔法を使える者ならば、見ただけでその強さが分かる程だ。

 だから、駆け出し冒険者向けの依頼としてほぼ毎日貼り出されている。


 報酬は安いが危険も少なく、難易度も低い。

 魔法が使えるミュールも、既に何度か受注していた。

 

 ミュールはその依頼の為に墓地を訪れて、依頼の途中でかなり奥の方まで行った。

 そこに落ちていたアイテムに触れて、呪いに掛けられた。


 タケオは話を聞くと、立ち上がった。

 病み上がりの人間にあまり負担をかけないようにという、すごい心遣いだ。


「参考になった。感謝する」

「あの、報酬を」

「俺は受け取らない約束だ。エルティに渡してやってくれ」

「いらないわよ」

「冒険者なのに報酬はいらないのか?」

「アタシは何もしてないんだから、当然でしょ。そんなの報酬じゃなくてただのお小遣いよ。もらう義理は無いわ」

「だそうだ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「あの、ありがとうございました!」 


 親子が揃って頭を下げた。

 エルティは顔を赤くして家を出ていく。


 タケオも後に続こうとして、ミュールに向き直った。


「墓地には近づかない方がいい」

「え?」


 一言だけ呟いて、タケオは今度こそ家を出た。

 すごく口下手なのだ。

 その真意が伝わることはすごく少ない。

 ミュールはよく分からないまま、二人の冒険者を見送った。



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