エピローグ
これにて完結となります。
アンデッドを掃討したタケオは、後始末を連合軍に任せてホネダラケ墓地への奥へと足を進めていた。
そこには、一つの墓があった。
数百年前に没した、貴族の令嬢の墓だ。
その墓の前に、二人の少女が手を繋いだ状態で倒れていた。
うつ伏せで、表情は分からない。
呼吸で上下するはずの身体はピクリとも動かない。
エルティとミュールは、既に息絶えていた。
タケオは、エルティの左手に握られているものに気付いた。
拾い上げて観察したタケオは、ふと笑みを溢した。
「……なるほどな」
その魔道具を見ただけで、タケオはエルティ達の言葉が嘘ではなかったことを理解した。
それは、≪聖王の十字架≫と呼ばれるものだ。
王都ドマンナカからほど近い、とあるダンジョンの奥深くに生息するといわれている≪聖王竜≫に認められた者だけが授けられる伝説のアイテムである。
噂では、試練を与えられるという。
タケオも、実際に授かったことの無いアイテムなのだ。
聖王竜に会ったことはあるが、『元からすごい奴に力を貸す気にならん』と言われてしまったのだ。
強ければ誰にでも認められるという訳ではないのが、現実の厳しい所だ。
聖王の十字架は闇を退ける効果を持つ。
アムに与えれば、正気を保ったまま、アンデッドとして復活することもなかっただろう。
しかし、タイミングが悪かった。
今夜は新月。
十字架の力が僅かに陰ってしまったのだ。
タケオが力を貸せば、光魔法で十字架の力を増すことが出来た。
そうすれば、二人が死ぬことは無く、アムがツヨイデスロードとして世に放たれることも無かっただろう。
それでもエルティとミュールはタケオの力を借りることはしなかった。
もしかしたら、気付かなかっただけかもしれない。
だが、絶対に手出し無用だと、酒場で待てと言った。
それは、自分達の手で何とかしてみせるという、固い意思の表れだったのは間違いない。
全て失敗してしまったとしても、二人は悔やんでいない。
だが、タケオは受け入れるつもりは無かった。
≪聖王の十字架≫を道具袋の中へ仕舞う。
タケオは、死人を生き返らせることはしない。
少しの条件さえ揃えば出来ない訳ではないのだ。
タケオは、それぐらいすごい。
しかし、しない。
だからタケオは、全てを無かったことにすることにした。
発動するのは、すごくすごい時空魔法。
タケオが操るこの魔法は、世界の全てを巻き戻す。
「ミュール、早く行くわよ!」
「待ってよエルティちゃん、早いよー」
二人の少女が冒険者ギルドへとやってきた。
身に着けた初心者用の装備は、片方はまだ真新しく、もう片方は逆に今にも壊れそうな程に年期が入っていた。
二人は依頼の貼られた掲示板の前で、依頼を吟味する。
駆け出しの二人が受けられる依頼はそう多くない。
少しでも安全で、少しでも報酬の良い依頼を受けようと悩むのはごく当たり前のことだ。
「あーあ、この間みたいな割のいい依頼無いかしらね」
「ホネダラケ墓地へのお供え物?」
「そうそう、それ。十字架みたいなのを持っていくだけであれだけ貰えるなんて、楽な依頼だったわ」
「確かに、ただのお使いにしては報酬も良かったもんね」
「でもやっぱり、ないわね」
「偶々運が良かっただけだよ」
「そうよね。真面目に働きましょ」
「あっ、これなんてどう? 満月草の採取だって」
「良さそうね。それじゃあ早速行きましょう!」
「わわ、待ってよエルティちゃん!」
「ほら、早く! 今日はこの依頼が終わったらこの前の余ったお金で美味しいご飯作りましょ!」
「やったぁ!」
姦しい二人の少女を、部屋の隅から見つめる男がいた。
男はカラフルという概念を鎧にしたような、色とりどりのすごくダサい鎧を着ていた。
男は、二人の少女の後を追うようにギルドを出た。
そして、少女達とは反対の方向へ歩き出そうとして、振り返った。
仲良く歩く少女の後ろ姿がある。
その後ろに、薄らと透ける少女の姿が見えた。
白い髪に、白い肌。
明らかに生きた人間ではなかった。
銀色に輝く十字架のネックレスをつけた少女が、男の方へ振り向いた。
幽霊の少女は、タケオに向かって微笑んだ。
すごくすごい冒険者、タケオは今度こそ歩き出す。
彼は世界で唯一のSSSランク冒険者。
誰もが美味い飯を食える世界を目指して今日も行く!
完
細かい説明を放り投げていますが、これで完結となります。
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