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「これ、この間ここで拾ったペンダント……」

「えっ、それって呪いを掛けられた時の!?」

「う、うん。でも今日は体調悪くなったりしないよ」

「そうなの?」

「うん」


 十日程前にミュールはここで同じペンダントを拾った。

 その瞬間に酷く体調を崩し、ペンダントを放り投げて家へ帰ったのだ。

 それと同じものが、ミュールの手の中にあった。


 謎のペンダントを前に悩む二人に近づく影があった。


「ごめんなさい、それ、私のなの」

「えっ?」

「誰っ!?」

「私はアム。よろしくね」


 そこに立っていたのは、白い髪の、白い肌をした女の子だった。

 年齢は、二人よりも少し下に見える。

 エルティの向けたランタンの光を受けて、薄らと透けている。

 明らかに生きた人間ではなかった。


「これ、あなたのなの?」

「ミュール!? 危ないんじゃ……」


 ミュールはペンダントを少し掲げてアムへ見せる。

 アムは小さく頷く。

 エルティは突然現れた幽霊に、短剣を抜いて構える。

 しかし、ミュールは全く警戒していなかった。

 生来の性格とは別に、何か確信があるような口ぶりだ。


「大丈夫、この子から危ない感じしないから」

「そういうの分かるものなの?」

「うん」

「それならいいんだけど……」

「ふふ」


 ミュールは魔法使いの中でも、闇魔法を得意とする魔法使いだ。

 死と闇を司る闇魔法と相性の良いミュールは、先日の呪いを受けたことで危険な呪いの見分けがつくようになったのだった。

 アムが小さく笑う。


「それじゃあこれ」

「ありがとう。あなた達、お名前は?」

「ミュールです」

「アタシはエルティよ」

「ミュール……エルティ……うん、覚えたわ」

「それで、貴女人間なの?」

「そうねぇ。元、人間よ。私、死んでるの」

「やっぱり……」


 アムは自分の素性を話した。

 しかし、詳しい事情は本人もよく分かっていなかった。

 随分前に死んだことは覚えていた。

 だが生前何をしていたか、死んでからどうなっていたのか、何も知らなかった。


 他に覚えていることと言えば、暗い闇の中に沈んでいたような感覚。

 そして、つい最近その闇から解放される感覚。

 それを聞いたところで、二人には何の事だか分からなかった。

 ただ、目の前のアムが人に害するものではないということだけは、なんとなく理解出来た。


 それが、アムと二人の出会いだった。


 二人はホネダラケ墓地を訪れては、アムと話をした。

 タイミングが悪く、駆け出し冒険者の二人が受けられるような依頼が他になかったのもあった。


 アムは生きた人間と話すのは久しぶりで、二人が来てくれるのを喜んだ。

 そんな様子も、二人が足を運ぶ大きな理由になっていた。


 少女達の語らいは美しい。

 すごく、良い。

 美しい日々が過ぎて行った。


 ある日、そこへ異物とも言える存在が現れた。

 タケオだ。


「た、タケオ!? アンタ、あれからどこ行ってたのよ!」

「ど、どうしてここへ?」

「強力な死霊の気配を感じた」


 タケオの視線はアムへ向いていた。

 タケオはアムの気配を感じて、このホネダラケ墓地へ辿り着いたのだ。

 タケオを以てしても辿り着くのに時間がかかったのは、いくつかの要因がある。


 アムの力が微弱だった為、気配も弱かったこと。

 今のアムは絶大な死のオーラを放っているが、ミュールとエルティが出会った頃はほとんど力を持たない空気のような存在だったのだ。


 二つ目は、結界の存在。

 ドアンナカ墓地は王都最大の墓地。

 大量の死体が眠っている。

 もしアンデッドが発生した場合は被害は甚大になる。


 だから強力な結界が貼られている。

 弱いアンデッドなら一瞬で消し飛ぶほどの結界だ。

 アムは辛うじて結界に耐えていた為、他の場所から感知出来る程の気配が残らなかったのだ。


 そして最後の理由。

 仲の良い少女達を引き裂くのを躊躇ったのだ。

 タケオは、すごく甘い。

 自分の手で後始末が付けられる範囲であれば、どうしても躊躇してしまう。


 しかし、アムの力は日に日に増していた。

 そろそろ危険だとタケオが判断する程に。

 エルティとミュールが、アムと出会ってから二年の時が経過していた。

 ずっと一緒に過ごした二人には、アムの放つ死の気配が増していることに気付けなかったのだ。


「そう、もう、おしまいなのね」

「覚悟は出来ているか?」

「ええ」


 アムは理解していた。

 幸せな日々の終わりが近いことを。


 エルティとミュールは、順調に冒険者としての経験を積んで行った。

 一ヶ月もすれば駆け出しを脱し、今では一端の冒険者である。

 そんな二人は、依頼の合間に墓地を訪れてアムと会っていたのだ。

 その二人の優しさが、アムには嬉しかった。とても、楽しかった。


 しかし、少しずつ、本当に少しずつ、アムの心は闇に染まって行った。

 いや、闇が戻って来ていたのだ。

 アムは元々、強大な力を持つアンデッドだった。

 それが、相性の良い生贄を探す為の道具が掛けた祝福を、タケオの手によって浄化されてしまった。

 その反動で消滅寸前にまで力が衰え、正気に戻っていただけなのだ。


 そして、ミュールに、エルティに出会った。

 

 だから、アムはこのまま消えてしまっても良いと思っていた。


「ダメ! アムは消させないわ!」

「何でもしますから、許してください! お願いします!」

「エルティ、ミュール……」


 エルティは愛用の武器を構え、ミュールは懇願する。

 方法は違えど、二人ともアムを守ろうと必死だった。

 アムは嬉しかった。

 嬉しいが、甘える訳にはいかなかった。

 闇が戻って来たことで、アムはアンデッドとしての自分を、ほとんど思い出していた。


 力が完全に戻れば、アムとしての意識は消える。

 そうなれば二人を殺してしまう。

 それどころか、二人の魂を生贄に捧げて上位のアンデッドを産み出し、殺戮を始めてしまう。

 それだけは、嫌だった。


 そしてそれはタケオも理解していた。


「このまま放っておけば、二人とも死ぬ。いや、魂を捧げられて、上位のアンデッドの餌にされるだろう。そうなれば大勢の死人が出るぞ」

「アタシが何とかしてみせるわ!」

「私も、なんとかします!」


 二人は一歩も引かなかった。

 二年も経てば経験もそれなりに積む。

 タケオの正体も、何となく察していた。

 それでも、二人は一歩も引かなかった。


「……ふぅ、好きにしろ」

「ありがとう!」

「ありがとうございます!」


 タケオは諦めた。

 溜息を一つついて、握っていた剣を鞘へ戻す。

 二人の少女の笑顔が咲いた。

 墓場にあっても美しい、尊い花だ。


「本当に良いの? 何とかならないかもしれないわよ」

「良いさ」

「アタシ達がなんとかしてみせるからね」

「うん! アムも、私達に任せて!」

「……ありがとう」


 幽霊は泣くことが出来ない。

 しかし、アムは嬉しくて涙が止まらない気分であった。


「俺の見立てでは、三日後の19時に力が戻る。お前達が失敗した時は、その子を浄化する」


 闇が完全に戻ったとしても、自分なら倒せる。

 その確信があったからこそ、タケオは二人に賭けた。


「任せときなさい! あんたは酒場ででも待ってればいいわ!」

「任せてください!」

「手出し無用だからね、いい? 何とかアムを助け出して、それで酒場に行くから。あの時アンタに返せなかった恩を、全部まとめて返してあげるわ」

「分かった。楽しみにしておく」

「……でも、もし、アタシ達が失敗したらその時は、尻拭いお願いね」

「任せておけ」


 エルティの笑顔に、タケオは自信たっぷりに答えた。

 すごい冒険者は、ホネダラケ墓地を後にした。

 タケオはこれから三日の間、酒場で一人待つことになる。



冒頭の1、0を読んで頂くと、時系列順となります。

是非読み直してみてください。

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