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本日五回目の更新です。


「……ん、あれ?」

「あっ、おはよう、エルティちゃん」

「ここは、ミュールの家?」

「そうだよー。汚くてごめんね」

「前にも来てるから大丈夫よ。って、そんなことより、なんでアタシは寝てたの?」


 エルティは混乱しながらも、記憶を呼び起こしていく。

 ギルドで依頼を受けたところから始まり、段々と進めていく。

 そうしてみると、もう死ぬと思ったところで、一人の冒険者が≪ツヨイグリズリー≫を倒した光景で来沖が途切れていた。


「グリズリーベアに襲われて」

「うん」

「タケオ、が助けてくれた?」

「うん」

「その後どうなったの?」

「あの後はねー、エルティちゃんが気を失っちゃって慌てたんだけど、タケオさんが気疲れしただけだろうから大丈夫だ、って言ってくれて」

「それで?」

「グリズリーベアの死体はタケオさんが担いで、エルティちゃんは私が運んだの。そう、それで私も後から知ったんだけど、あのグリズリーベア、≪ツヨイグリズリーベア≫だったんだって」

「ええっ!? そうなの?」

「うん」

「うわー……よく生きてたわね、アタシ達」


 ≪ツヨイグリズリーベア≫とは、王都からほど近いメノマエノ森の中でも一番強いとされる≪グリズリーベア≫の上位種である。

 強い。

 冒険者の中でもベテラン級と呼ばれるBランクでも、パーティーを組んで死闘になるレベルの相手である。

 駆け出し冒険者が勝つどころか、遭遇して生きて帰れる可能性もほとんどない程のモンスターだ。

 エルティが驚くのも無理はない。


「タケオさんが来てくれなかったら間違いなく死んでたよ」

「そうね。怪我も治してもらったし、また借りが出来ちゃったわね……。それで、タケオは?」

「死体をギルドに持ち込むからって一人で行っちゃった。私はエルティちゃんを家で寝かせてあげたかったし」

「そう、またその内会えるといいんだけど」

「そうだね。私も何かお返しがしたいなぁ」

「今度会ったら何かご馳走しましょ」

「うん、そうする」

「そうと決まったら依頼をこなしてお金を稼がないとね」

「大丈夫? もう少し休んだ方が……」

「平気平気。怪我自体はタケオが治してくれたし、今まで寝てたおかげかすっかり元気だわ」

「それなら良いんだけど」

「お金しっかり稼がないとアンタも困るでしょ」

「そ、それはそうなんだけどね」


 ミュールの家は貧民街にあるボロ屋の内の一件だ。

 家庭の事情でお金が無い。

 エルティはそんなミュールの為にも、長く休んではいられないのだ。


 起き上がったエルティはミュールと別れて一度家へ戻った。

 ミュールの服を着せてもらっていたが、鎧は背中部分が無くなっていて使えるような状態ではなかったのだ。

 エルティはそこそこ裕福な商人の娘だ。

 私室には予備の装備が用意してあった。

 父親は高級な装備を用意しようとしたが、エルティの拘りにより、駆け出し用の安い装備しか置いていない。

 分不相応な装備は嫌だという、それだけの理由だ。

 駆け出しは駆け出しらしい装備で、危険の少ない場所で経験を積む考えなのである。


 予備の鎧を装備したエルティは、ギルドへ向かう。

 建物の前で、ミュールが待っていた。


「ごめんね、お待たせ」

「ううん、大丈夫だよ。私も今来たところ」

「それじゃあ行きましょ」

「うん」


 二人は一つの依頼を受けた。

 それは、ホネダラケ墓地の巡回の依頼だった。

 タケオの忠告を忘れた訳ではない。

 二人が受けられるような依頼が、他に無かったのだ。

 生活と、タケオへの恩返しを理由に二人はホネダラケ墓地へと向かった。





 依頼の内容はホネダラケ墓地の調査。

 これは張られた強力な結界に異常が無いかを巡回するだけの、簡単な内容だ。

 異常を発見した場合は専用の魔道具により管理者へ連絡する。

 更に専門の魔法使い達が呼ばれる為、実際の対処は冒険者の仕事ではない。


 だからこそ報酬は安いが難度は低く、頻度も多い。

 広大な墓地をカバーする為には人数が必要なのだ。

 駆け出しの冒険者にとってはとても有難い依頼である。


「よし、アタシ達の担当はここまでよ」

「無事に終わったね」

「ほら、何も起きなかったじゃない。タケオは心配し過ぎなのよ」

「そうなのかなぁ」


 異常が無いか調べると言っても、特に何かするわけではない。

 強い結界であるが故に、魔法が少しでも使える者ならばその存在を常に感じ取れる。

 故に、ただ歩くだけに近い。

 簡単な依頼と言われるのはそのせいだ。


 決められた範囲を歩き終わった二人は、墓場だというのに明るく帰路へ着く。

 既に周囲は暗い。

 エルティの持つランタンの明かりが周囲を照らす。


「ほらほら、早く帰ってご飯にしましょ」

「待ってよエルティちゃん……あれ?」

「どうしたの?」


 歩くのが早いエルティの後を、ミュールが早足で追いかける。

 ふと、地面に何かが落ちているのに気付いた。

 それは、赤い石が嵌められた、銀色のペンダントだった。

 ミュールは、どこかで見たことがある気がして、足を止めた。

 エルティが気付いて振り返る。


「何か落ちてて……」

「何それ。そんなの落ちてたかしら」


 エルティが首を傾げる。

 明りを持ち、先に歩いていたエルティが気付かないということは、普通ならば有り得ない。

 

「見たような気が……あっ」


 ペンダントを拾い上げたミュールが気付いた。

 それは、先日死の呪いがかけられた時に拾ったペンダントだった。



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