第二話「信じれば」 2
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如月は鏡に手を突いた格好で、しばらく硬直し、動悸を鎮めようとする。それしかできずにいた。
「ナニをシテイる。さッさトイけ。あまりキタない手でサワるナ」
鏡の方から声はすれども影姿は見えず。血の気の失せた男の顔を、如月は直視する。
「お前、なんだ。お前はなんだ。誰なんだ」
返事がこないものだから、拳を振り上げた。
「おい。イイカゲんにしろ。キサマ呪わレるぞ」
いかにも呪いそうな声が拳を止めた。
震える足に活を入れるように、少し強く出る。
「アンタから干渉してきた癖に、無視するなんてひどいと思わないか」
「調子ヅクナよコワッパ」
その声に呼応して鏡が波立つ。
鏡の波が凪いでから何度か話しかけた。うんともすんとも言わなくなってしまい、如月も帰らざるを得ない。
町内放送の鳴り響く道を、ぶらぶらと行く。途中電柱にぶつかりそうになりながらも、無事に家へ戻れた。
家には先に父が帰っており、料理を作っていた。
「おかえり。今夜はハンバーグだぞ」
「ただいま」
「具合、悪そうだな。風邪でも引いたのか」
「そうでもないよ」
どうしても淡泊な返事になってしまう。家の中では何もないところで足を躓き、その目は虚ろだ。
「学校ももうすぐ始まるんだから、体調には気を付けろよ」
「分かってるよ。俺は平気だ。父さんの方こそ、無理しないでよ」
今日の出来事を父に話しはしない。
間違いなく心配されるだろう。




