表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

第二話「信じれば」 1

1.

 鏡の中と言っても、左右が反転しているとか、おぞましいものが這いずり回っているとか、そんなことはない。

 如月は手洗い台に手を突いて、ぽかんと鏡に映る自分の顔を見ていた。口を半開きにして、いかにもな間抜け面をしている。

 鏡の中から腕が出てくるだけなら、すっ飛んで逃げるくらいの反応はできただろう。

 如月は鏡に手を触れる。

 しかし、何の反応も得られない。声は聞こえないし、波も立たない。

 そもそも、鏡の中とは一体なんであるのか、皆目見当もつかない。

 辺りを見渡す。

 窓の外が白い光に包まれていること以外は、トイレに来た時と変わっていない。

 先ほどまで外はまばゆいオレンジ色に染まっていた。

 白昼夢の可能性は消える。あまりに現実味を帯び過ぎている。

 しばらく、足が震えて身動きが取れなかった。

 鏡を見ることも避け、頭を抱えて座り込む。

 どれくらいの時間が経過したのか。ケータイを見ても画面は消えていて、今が何時何分であるのかも確認できない。

 外の光は、気が狂ってしまいそうになるほど白いままだ。

 如月はおもむろに立ち上がって、鏡に話しかけた。ふと、思いついたのだ。

「おい。そろそろ出してくれ。お前はちょっとと言ったはずだ。自分の発言にくらい責任を持て」

 鏡に入る前になにがあったのか。

 鏡に入る前に聞いた声があった。頼みの綱はそれしかない。

 その声の主に鏡の中に入れられたのは、間違いない。

 声は裏返るが出しきる。鏡を叩きもした。

「おい、おい! 出せよ! そこにいるんだろ!」

 自然とその声は荒くなり、手には汗が滲んでいく。

 叩いて叩いて、ようやく反応が得られたときには、安堵の息を吐いた。

「まてまてまて、なにやってる。割るつもりじゃないだろうな」

 鏡は揺らぎ、薄らと人影が写り出した。

 安堵の息を吐くと同時に、如月は膝を立て、足を引く。目は丸くなっており、威勢もどこかへ行ってしまった。

「ったく、戻れなくなったらどうするつもりだ。キサマは一生そこで暮らしていたいのか」

 また鏡の中から手が伸びてくる。白く細い、女性と思しき手だ。

 握り、開き、また握り開かれるその手は、捕まれと言わんばかりである。

 びくつきながら、如月も手を差し出す。手首を掴まれ、先ほどと同じように引っ張られ、鏡を通って元の場所へと戻ることができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ