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家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~  作者: うるいあ
3章 平民の実習期間

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53 温度差の理由

「使えてないでしょ? 初級魔法で、なおかつ起動領域も段違いで悪いんだよ」

「それはちゃんと教育を受けていないからだろう。誰かから見聞きしていて、教わっていないんじゃないか?」

「それは――そう、だけど」

「だいたい、初級魔法だけで十分『魔法使い』の分類に入る」

なぜか説明を続けてくれる。この人は一体何をしたいんだろう。

「こんなの何の役にも立たないわ」

「……いや、だから」


反論を、反論で返す。


「立たない、って言われたの。お父様、お母様、シャ……それに、教会の人にだって」


余計なことを、と思いながらも止まらない。ぎゅ、とネネルちゃんを抱きしめた。小さくてふわふわの生き物。心配そうに私の顔を覗き込んで、抱き返してくれる。だから私も耐えられる。泣かないでいられる。


「え?」

「言われたわ! いらない能力だって、魔法を学ぶに値しない、小さな魔力だって、だから魔力なしだって、そう」


混乱を口に出しながら、一方で私は、温度差の理由を探っていた。


私はあの家では「魔力なし」だった。

だから、魔法の教育を受けていなかった。

独学で少しずつ勉強して、初級魔法らしきものは身につけている。でもそれって生活に必要な魔法で、特に「能力」にはならないはずじゃない? そもそも小規模な魔法は詠唱が要らないのに、これが能力になるのか大きな疑問だ。

私の周囲の魔法は、こんなものじゃなかった。

湖凍らせてオブジェ・ドカーンでアリアさん、どうですか僕の実力、どや、とする義弟のシャルトラトや、屋敷を焼きつくすような火を一瞬で巻き起こし同時に鎮めることができるような母親、その他同程度の能力を持つ家族や上級貴族・王族の人たち。だから、私は「魔力なし」になっても仕方ない。


なら、もしかしたら平民と基準が違うのかもしれない

平民は魔法石をつかって生活している。スイッチに使うような魔力を皆持っているが、魔法石に魔力を充填したり、自ら陣を書き詠唱をして魔法を生み出すことができるということは、殆どできない。大掛かりな魔法使いとは違い、そういった小さな魔法を使用することで、十分仕事として成り立つ部類に入る、って『よく分かる! 街の職業一覧』(児童書)に書いてあった。

この人の言うことが正しいのは、ヨーイ君の様子で明らかだ。


「――私、魔法を使えるの?」


ぽかんと、口をあけて、間抜け面だろう。ネネルちゃんに視線を置いたままで、見開いた目が痛い。痛くて熱くなる。ピリピリと、赤い点が目の端に移った。

目の前の人は落ち着いて、私を見つめ返している。


「だから、そうだと言っている。

なんで何度も同じことを繰り返して言うんだ?」

「毒舌妖精は黙ってて」


問いかけたのに、身勝手な言葉が勝手に出る。

感情の波が抑えられない。あの時と同じだ。人に当たらないと、制御できない。これは悪い癖だ。


「……何だと」

「毒舌で妖精みたいな見た目の美青年様は黙ってて、って言ったの!」


分かった、この人喋りだすとキラキラ度が増すんだ。今ちょっと直視できない。ムカつくのに。なんて理不尽なイケメン! だからって怒鳴る理由にはならない。コレじゃあさっきの酔っぱらいの人と同じだ。

どうやって止めたらいいんだろう、感情を、どうやって沈めたらいいんだろう。


「ああああもう、うるさい!」


一番大きな声を出したのは、ヨーイ君だった。

私の手をつかむ。


「サラさん、とにかく教会に戻りますよ。この状況は総……上に報告しなければいけない案件です!」

「え……はい」


その一方で、ヨーイ君は妖精な男の人に頭を下げた。


「事情はこちらがちゃんとお聞きします。お話くださってありがとうございました」

「こちらこそ、そちらの事情に立ち入ってしまってすまない。

 ――サラ、と言ったか」

「はい」

「君はおそらく不完全な状態で、魔法を使っているだろう。魔力を貯めすぎるのも良くはないが、未完全な魔法も魔力を不必要に浪費する。各器官への影響も考えられる。

 慢性的な倦怠感に陥ったり、感情の制御が難しくなることもある。思い当たることがあるんじゃないのか?」


言われたとおり、思い当たることが、ないでもなかった。だからってあっさりと肯定はできない。いろんな問題が重なって、巻き起こった結果だ。

わからない。

答えがわからない。

微かに体が震える。答えがない。どうすべきかわからない。王妃のための教育を受けて、即行動に結びつけていたのに。やっぱり駄目だ。私はどうしても、能力が足らない。


「今から鍛錬を積めば、状況は改善される。

 そうでなくても魔法を身につけることは生活面では損にならない」


その人は動かず、暴言を吐いた私にも落ち着いた様子で話しかける。だからこそ、説得力があるように思えたし、だからこそ、その行為の意味がわからなかった。


「サラさん、行きましょう」


ヨーイ君が急かす。私も一歩、足を進める。


「幸運を」


今更震えだした口で、その人に伝えた。

離れるとその人は、見失いそうになるくらい存在感がなくなる。

やっぱり、何かしらの「設定」があるんだろう。精霊の加護か、それに類するものを受けて生きている人なんだろう。


「ああ。幸運を祈っている」





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