52 魔法ができない私でしょ?
魔力がある 生活力のなさを、魔法のアルバイトでフォローできる?
「余計なお世話だとは思ったが、様子を見るに少しばかり危険な状態だと思ってな」
そう言われて、もう一度「はあ?」と奇声を上げた。
その後ろで、ヨーイ君が、きょとん、と私を見返す。
「魔法、ですか?」
「意味分かんないんだけど」
それぞれ言葉を返す。黒髪紫メッシュの妖精もどき青年が、だから、ともう一度言葉を続けた。
「お前、さっき魔法を使っていただろう」
「そうなんですか?! ユ……サラさん」
顔が近い、ヨーイ君。
「だから意味不」
「イミフ?」
「意味不明、ってコト」
そんなんも知らないの? 今孤児院では主流よ。私が流行らせた。ちょっと略すだけで暗号になるから、子供達に大人気。だいたいあいつらは「ダンゴム、あるぜ」とか「イタズ、しようぜ」とかちょっと使い方間違えてる感じあるけどね。でもなんかそんな様子がかわいいよね、子どもって。後ろで修道女さんたちが怒りを押さえて待ち構えてたから、おもわず笑っちゃった。
「水を出しただろう」
「水? あー。だってすぐ必要だったから」
ふう、とため息を疲れた。何この人。人を馬鹿にする天才?
きれいなだけに、なんかイラッとする。顔の造作は関係がないとは言え、きれいな人に呆れられるとイラッとする! 思えばユーフェミアもおんなじようなことしてたな! 反省、ハイ次、いらだち。
「出してみろ」
「何を?」
「なんでも良い、『ウォーター』でも、『ライト』でも、『サンド』でも。ちゃんと詠唱しろ」
ちら、とヨーイくんに視線を送ると事情をよくわからないながらも頷いている。
「えーと……『悠久の時に寄り添い、潤いをもたらすもの・ウォーター』」
言うが早いか、じわ、となにもないところから光とともに水が現れた。
詠唱は苦手だ。大きさとか性質とかを指定するために必要らしい。そもそもマトモに勉強しておらず、妹のミルフィランゼや義弟シャルトラトの勉学に励む様子を盗み見て学んだ。それでもあの二人よりは小規模で、「魔力なし」なんてそんなものだと悔しい思いをしたものだ。今はそんなことをするよりも、手から水を出したほうが楽。でも、ちゃんと呪文を唱えて『魔法』を見せないと怒られそうだったので、一応詠唱する。こわごわと口に出した呪文は、記憶よりもさらに拙い。
たぶん行使の力が弱かったんだろう。風船みたいに水だけで形をとり、そのまま落ちる。
べちゃん、と小さな水たまりが地面にできた。私の足にも跳ねた。
「もー! 汚れたじゃん。ネネルちゃん、大丈夫?」
見ると頬に少し水がついている。慌てて袖で水分を拭った。
「お前の管理能力が悪い。寄り添い、の発音がつたない。
もう一度言ってみろ」
予想通りのダメ出しに、凹む。
そうよ、だから魔力無しで、親から失望されて、コンプレックスの塊になって、唯一縋った人にも失望されたんじゃない。そういうのに執着するのはもうやめよう、って決心したんじゃない。自分の都合の良い範囲で使おう、ってそうしてるんじゃない。
でも目の前の人は動かないし、一応恩人だし。
釈然としないものを感じながらも、もう一度つぶやいてみる。
「悠久の時に寄り添い、潤いをもたらすもの・ウォーター」
すると、さっきよりもスムーズに水が現れた。光は二割増し? 薄く陣のようなものも見える。何より手から魔力が抜けていく、その感覚がわかって驚いた。蜘蛛が糸を出すみたいなイメージだ。自分の体から、細い魔力の束が集結し、流れ出ていく。
「おおー」
私が声を発した瞬間に、また水が弾けた。
やっぱり、ちゃんとした魔法とは違うのか。
「なるほど」
妖精モドキの青年は、睨みつけるように私の手を見ている。
この人もきっと魔法が使えるんだろう。初級編で感嘆して、ウキウキした自分が恥ずかしくなる。すぐ立ち去ろう。今日は部屋で内職しよう。
「……もういいでしょ。重ね重ね、ご指導ありがとうございます。
行こ、ヨーイくん」
そう言って、振り向いたら、ヨーイ君は目を見開いて固まっていた。
がくがく、口が動いている。どうしたんだろう、と首をかしげると。
「魔法、使えるんじゃないですかああああ!」
雄叫びがあがった。
私はぽかんと、それを見返す。
ムカつくことに、黒髪メッシュの妖精もどき青年はふん、と鼻で笑った。




