51 妖精は話しかける
「先……さっきはありがとう、ございました」
妖精みたいな男の人に向き直り、頭を下げた。
さっきと印象が違う。綺麗は綺麗だけれど、ハイド様よりは……という感じ。一国の王子でなおかつ乙女ゲーのメイン攻略者と一緒にしちゃいけないか。
落ち着いてその目を見ると、やっぱり海がうねるみたいに色が変わっている。不思議な紫の波。不機嫌に少し眉が潜められている。妖精みたいな男の人は、少し首をかしげて、ため息をついた。
「君も君だ。こういう場合は警吏を呼んだほうがいい。
そうじゃないなら、馴染みの人に助けを求めるのでもいい」
「……そうですね」
さっきスタくんにも言われたことだ。
「俺には、殴られるために待っていた様に見えた」
うふふ、正解。思わず顔を反らしてしまった。
だって正当防衛の口実になるかな、って思ったんだもん。
「さ……サラちゃんは、強い、もん」
ネネルちゃんが代わりに答える。
「強いだけではどうにもならないだろう。
危機の回避方法くらいは知っておいたほうがいい」
「ご忠告、ありがとうございます」
さら、と紫メッシュの前髪が揺れる。いちいち美しいのがちょっと引っかかるけれど、そもそもファンタジー、私が知らないだけで、そういう設定は普通なのかもしれない。言っていることはマトモなのに、不信感が拭えないのは、私自身の問題も大きいだろう。そもそもイケメンに対して私がトラウマを持ってるからかもしれない。
ぐ、とこらえて笑顔を作った。
「加えて、愛想笑いは人間関係をダメにするぞ」
「――へえ?」
「サラさん?!」
タイミングの悪いことに、私が怒りにまかせて相手を睨みつけたところで、ヨーイ君が到着してしまった。
最近子どもたちと一緒にいたせいなのか、感情の制御が効かない。振り返ると「幼い」衝動だと判断できるものばかりなのは確かだ。制御しようとすればできるのだけれど、アリ、ナシの極端思考らしく、一度その様子を見た修道士三人組から、「平民らしくない」とおしかりを受けてしまった。
ううん、どうすればいいんだろう。
「そういう喧嘩っ早いところもどうにかした方がいい。
こういうやり取りはなれていないのか?」
私じゃなくて、ヨーイくんに話を振る。
「サラさんは、人に慣れていないんです。ずっと……だから、あまり追い詰めないでください」
「……そうか」
見透かすみたいな目で見られると、ちょっと所在がない。
「先程は助けていただいて、ありがとうございました」
「ああ、――別に」
ヨーイ君が礼儀正しく頭を下げる。
この子も最初に比べて、所作がきれいになった。お姉さんは嬉しい。
「いや、教会には世話になっている。そんなにかしこまらなくてもいい」
ぴかぴか、きらきら、話す毎に効果音が聞こえるような、変な人。
「――ただ、忠告をと思って」
そう言って、もう一度妖精もどき青年は私を見た。
「次からは、ちゃんと近くの人に助けを求めます」
ああ、とその人は声を漏らした。同時に小さく首を振る。
「俺が声をかけたのは、別の理由だ。
独学で、魔法は使わない方がいい。下手をすれば死ぬぞ」
「はあ?」
わけが分からず、私は変な声を出してしまった。




