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家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~  作者: うるいあ
3章 平民の実習期間

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48 平民生活着々と

「サラさんは、本当に洗い物が上手ね!」

「ネネルが、教えてくれたから」

「……うん!」


ネネルちゃんが照れてもじもじしている。耳がぴょこぴょこ揺れるので、撫でたい気持ちを抑えないといけない。

台所には、食べ終わった食器がずらりと並んでいる。今日は私が洗い場担当。この後は洗濯のお手伝いをして、午後は図書館でお勉強予定だ。


「本当に、そんな細い体なのに力持ちで、びっくりしたわ」

「最近は、ちゃんとお肉がつきました」

「サラ怪力!」

「実はネネルと同じ獣人なんじゃないか?」

「それもいい」


ふん、と力こぶを作る。その様子に洗い物担当の三人が笑った。ネネルちゃんはキョトンとして、それから私にギュッとしがみつく。

よく食べ、よく寝て、よく動いた。それでも細腕に見える。使いこなされた手は、修道女と同じ、働いた人の手になった。傷だらけでも、それが嬉しい。ファンタジーの恩恵なのか、それでも体力は十分だ。疲れてウトウトしたり、急に力が入らなくなることがあるけれど、そこは成長途中だから、ということにしたい。


「もうすぐ、サラさんともお別れね」

「ずっとここにいればいいんだ! サラのお陰で収穫だって上がってるじゃん」

「一緒がいい」

「一緒に、イタズ、するんだろ」


そう、ここにいた二週間。すっかり教会のおばさまと、子どもたちとも仲良くなった。

少しずつ、学んだ結果は生かされている。こうやってお手伝いを一緒にしても、変に気を遣われることもなくなった。最近はスカートの中に入ろうとするいたずら小僧を片足で傷つけないようにいなすことができるようになった。それですらも「サーカス! サーカス!」と声援をいただき、全員にその技を披露する。全人力遊具とは私のことだ。

今なら、お母様が追いかけてきても、窓を蹴破って建物の凹凸を伝って、木々を乗り移って逃げることができそうだ。

――そう、できちゃいそうなのだ。

私は少し、自分の能力にゾッとした。

令嬢時代と真逆のスペックが垣間見える様子に、私ちょっとドキドキしちゃう。お母様のいう醜い赤子が、実は筋肉少女だったとか。二の腕ムッキーンで白い歯で笑ってみせるとかさ。そんなオチからは回避されるよね。これ、本当にファンタジーの世界設定の範囲内だよね? 私は普通の町娘になりたい。市民の中に、そんな戦士みたいな容姿の人いたら、逆の意味で浮く。引く。逃げ惑う。

ぐう、とお腹が鳴る。


「……」

「サラちゃん、あれだけ食べたのに……」


修道女のおばさまの言葉が重い。

大丈夫、と私は冷や汗をかきながら答える。


「図書館のついでに、食堂に行く」

「サラちゃん、ちゃんとお金は貯めないとだめよ」

「う……」


私は盛大に目をそらす。

一応お花売やら清掃やら、荷物運びの手間賃稼ぎで、小銭は得ている。教会に寄付することも考えたんだけれど、今後の生活のためにと少しずつ貯めることになった。

でも、食堂は譲れない。譲ることが出来ない。


「成長期だから仕方ないよ!」

「僕のオヤツ分ける?」

「大丈夫」


普段はあまり話しかけることもない、大人しい子さえも心配してくれる。ありがたい。


「洗濯物をして、昼食は――そうね、サンドイッチだもの。サラちゃんには少ないわね」

ほう、と頬に手を当てると修道女のおばさまは深い溜め息をついた。

「大丈夫、です」

「そう、何かあったら言ってね」

「うん」


言葉は片言のまま、それでも表情は豊かになった。



春も半ば、少し汗ばむ陽気かもしれない。雨は最近降っていないので、土は乾いている。そろそろ雨が降ってほしい。空気が乾燥して、土埃で舌がピリピリする。洗濯物は水を吸って重たい。そのまま持っていこうとすると、洗濯をしていた子どもの一人が、待ったをかける。


「シスター!」

「はいはい。風よ」


脱水のために、修道女のおばさまが衣類に魔石付きのプレートを置く。

途端にじわ、と水が蒸発した。少し湿っていたほうが、皺を伸ばしたりできるので、加減が難しいらしい。私はまだやったことがない。


「はい。サラちゃん」


コクリ、頷いて荷物を引き取った。

カゴを両手にひとつづつ持つ。修道女のお姉さん、おばさんと子どもたちで約二十人。洗濯物は大量だ。

パン、と洗濯物を干すついでに叩く。手には薄く熱気をこもらせている。波を描いた後、湿気をともなった布は乾いて、まっすぐになった。風を含んでふわふわと揺れる。


「ふう」


私の魔法は、相変わらず誰にも探知されない。

最初は警戒して全く使っていなかったんだけど、そもそも魔法自体が禁じられているわけではないらしい。台所でお鍋に火を入れた時も、皿洗いの水を出す時も、水を吸った洗濯物を軽くするときにだって、魔石を使って「火よ」、「水よ」、「風よ」と魔法を行使する。小規模魔法ならば、使っていい範囲内なんだと分かってよかった。だったら少々ズルしてもいいだろう。もちろん、日常生活に支障がない程度、だけど。

朝掃除をする時は、雑巾を水で浸して、その水を細かく動かすイメージで壁や床に触れる。毎日掃除しているのに、土埃の色が雑巾に移る。


「行ってきます」


手に持っている買い物かごの中に、鞄が入っている。亜空間収納機能がある、家から持ち出したあの鞄だ。

部屋の隅においてあるそれは、私の予想通り、質素な部屋にも馴染む。私以外には開けられないよう鍵をかけている。ああ、転移魔法とかができたらもっと楽なんだけどな。盗まれたらどうしよう、って不安になる。


鞄に関して、不思議なことが幾つかある。

一つ目。鞄の中身が思ったより多い。

保存食一式は、一人で食べれば半年分くらいあった。チーズや干し肉、乾パンに類するものとフリーズドライモドキのきのこスープを中心に、下着類を含む服は一週間分、野外で寝泊まりできるような、テントや寝袋、調理用の道具一式、まあここまでは分かる。食料は多すぎる気がするけれど、私の記憶違いかもしれない。

二つ目。

お金が――思ったより多いのだ。これなら一年くらい生活できるんじゃないだろうか。

平民がめったに手にできない金貨は、私の持ち物だ。少しずつ貯めていた記憶がある。途中でやめたから、総額はわからない。まあ、予想の範囲内の枚数だ。これは、換金時に不審に思われるから今のところ保留している。冒険とかしたら崩したらいいのかな?

問題は銀貨だ。200枚位ある。だいたい半年は余裕で生きられる。半年生きられたら、金貨も換金できる方法が見つかるだろうから、結局一年は暮らすことができる。

私、こんなにお金入れてたっけ?

最後に、鞄に形状変化の術式が組み込まれていたこと。

隠し機能があったのか、見慣れない記号をなぞると大きさが変わった。旅行用鞄から、通常使いのポシェット級。こんな機能も説明で聞いていない。

学園生活に入り、アリアが現れて、ハイド様が奪われていく過程で余裕がなくなったから、その時に何かしらあったのを忘れてるんだろうか?

鞄の事を知っているとしたら――クランシーやコラッド? 二人に命令していたのを、忘れてるんだろうか。


「まあ、考えても仕方ないか」


今あるこの鞄には、私しか触れられない。干渉できない。

なら、気にしても仕方ないのかもしれない。


「図書館に、行ってきます」


少し、声をはりあげる。


「「いってらっしゃ~い」」


子どもたちの、大きな声が返ってきた。


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