3 思い出す、断罪の記憶
主人公としてプレイしてた時は、ちょっと都合いいけどまあ、と思っていたアリア。
この現実が、乙女ゲームだって思い出しても、私はアリアが大嫌いなままだ。
私には権力があり、金があり、学力があり、美貌があった。周囲にはまた品のいい取り巻きがいた。
アリアは平民で、権力も金もなかった。最初は学力も乏しく、ミスを笑いで誤魔化すような性格が嫌いだった。顔も最初は平凡そのもの。突出していたのは、魔力が強く全ての属性の魔法を満遍なく使えるということだった。
確かに貴族連中は、手ぐすねを引いて彼女に対応していた。
けれど。よもや。
完璧パーフェクト、それが私の王子、ハイド様――リアルガチの王子様が、その中にあろうとは、どうあっても想像できなかった。
ハイド様の相手は、私しかありえないと、そう思い込んでいた。
だって、私は血の滲むような努力を重ねていたから。スペックがどうあれ、結果周りの人を騙すことができるくらい、ちゃんとした。魔力なしでもいいと、ハイド様に微笑んでもらえるくらい、頑張った。
でもアリアが現れ、あれよあれよと学園を掌握しはじめると、遜色のないレベルの私は、次第にそれこそ色を失っていく。
『どうして!』
さあ、と気のない返事の取り巻きが私に隠れて笑った。
それは嘲りの意味を含んでいた。
やばい。私は唇を噛みしめる。
どろどろと、私の周りが溶かされ、崩されていく。ひしひしとその恐怖に震えながらも、私は抗った。
ハイド様と社交の場に顔を出し、王妃たる振る舞いを実演してみせた。
実家でお茶会を開き、周囲の貴族たちに自分が婚約者であることを名実ともにアピールした。
庶民の生活も知らなければ、と身分を隠して城下町の様子を見に行ったりもした。
――しかし、そのどれもが、逆効果だった。
自己主張をしだした私は、ハイド様の望む姿ではなかった。私は婚約者として及第点ではあったが、旧来の王妃を踏襲したその姿は、彼が王位を受け継ぐための一打に欠けた。王位継承者は彼だけではない。彼が選ばれる理由が必要だ。
アリアは学園の温室で、ハイド様との愛を育んだ。加えてそこで自身の思う、夢物語のような政策を口に出す。――それは、王家の教育に欠けていた視点だった。彼が考えていた政策に一条の光を与える発想だった。
孤児院での英才教育、給食の義務化、固定採用、サロンでの職人たちの競争試合を見世物にした催し、兵士たちの衛生管理。冒険者の一定賞与と引き換えの定住化。
話し合うごとに、二人は親密になる。
いくども重ねたその逢瀬を、周囲はあっさりと目にする。――当たり前だ。あの二人は注目される存在だったし、温室で笑い声を上げてれば誰でも気がつく。
二人だけならまだしも、綺羅綺羅しい将来有望な攻略者六人を侍らせて、中央にあるその女。
彼女はもう、平凡そのものの存在ではなかった。外見は以前と同じ、黒髪に桃茶色の目をもつ平民であったけれども、その慈愛そのまま光にしたような、そんな存在感を持つ娘になった。
攻略者六人に、劣らぬその存在感に、皆が皆、彼女が勝者であると頭をたれたのだ。
――私以外は。
温室に乗り込み、攻略者の一人の問題行動を責めていた私は、証言者であった幾人かの生徒の裏切りに合い、逆に不正とアリアへの嫌がらせの証拠をつきつけられた。
前述のとおり、子ども騙しのその行為は、けれども王子の婚約者の資格を失うには十分だった。
私はその場に崩れ落ち、大好きだったハイド様にあらぬ罪を決めつけられ――言い返す気力もなく冤罪を受け入れた。




