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家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~  作者: うるいあ
2章 教会生活

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34 で、っていう。


……。


えっと、と口に出しかけて、私は慌てて言葉を変えた。

「それで」

周囲が涙目になって私を見てるけど、これほど馬鹿げたこともない。

「貴女は病気にかかったことがないから知らないでしょう。あれは辛いものよ! 怪我だってそう……今までのように、すぐ元に戻ることはない。食事を取らなければ空腹に苛まれるわ。今まで加護があれば、その危険からは庇護されていたけれど、全てが自分に降りかかる。平民になり、不幸な出来事が起こっても貴女には、すがる相手はいないのよ」

わかるかしら? と窓の先の女は鼻で笑う。

不幸の可能性を。

重ねて、重ねて、重ねて重ねて。

その圧迫を重ねて。


だからどうだって言うの?

「はあ」

私は空気をそのまま抜いたような、情けない声を出した。

マーガレットおばさまの、こちらを見る目が潤んでいる。

その涙の必要はありません。

微笑んで首を振ると、私は大きく声を出した。

「苦しみます」

「……な、にを」

意味が分からないらしき母親が、言葉を返した。

正確には体験済みなんでダイジョブでーす。なんだけど。まあ、これからも苦しむと思うから、そこに嘘はない。

嘘はいけないよね。

総司祭様さまがまた精霊飛ばしてるかもしれないし。母親の側にいるから、どう動いてるかわかんないんだよね。声もしないし。

「加護から開放してください。私は、平民になり、苦しんで生きます。病んでも、怪我をしても、飢餓に苛まれても」

「魔力も能力も何もない貴女が、一体どうやって生きるつもりなの」

「不出来な私にも、生きる術はあります」

弱小魔法舐めんな。前世の記憶もあるんだぞ、ずっと実家ぐらしだったけど、前世のお母さんは「男女厨房に入って働け」が信条で、家事分担表もいつの間にか表作成ソフトで自作してきれいに割り振ってた強者だよ!

「馬鹿なことを。

貴女は知らないからそう言うの。飢餓も、痛みも、苦しみも! だからそんな風に……」

続ける言葉が面倒くさい。


あのね。

その長々と繰り広げてるやつね。

病気。怪我。空腹。くわえてそこから起因する不安定な感情ね。あのね。

経験済み。体験済み。すでに克服済み!!

もうすでになってるから! 幽閉場所で何回もなってるから!!!

おまーえーのー不安定な加護のせいでなあああああ!

ここで激昂するのも馬鹿馬鹿しくて、淡々と応えるに留める。

ほんと早く終わってこのやり取り。

湧き上がる罵声をなんとか腹に押し込めて、私は反論を返す。

いや。

――返すだけじゃ、決定打に欠けるな。

「貴女が度々訴えていた仮病とはわけが違うのよ」

考えている間に、母親の余計な一言が聞こえた。


「……ユーフェミアさま?」

あ、なんかマーガレットおばさま含め、何人かが疑問符のついた顔してるな。この人達、私の状況知ってるから、どれだけ現実とこの母親の言ってることが食い違ってるか分かってるんだよね。え、あの餓死寸前みたいな虐待って、親がしてたんじゃないの? えげつない種類の病気にかかった経験あるのに、なんで親が知らないの? ってね。ごめんね、混乱させちゃって。

「そうですわね、私は毎回、貴方達にお伝えしていましたね。――それが、受け入れられることはありませんでしたけれど」

私の状況を理解している人達には、この言葉の意味は分かるだろう。マーガレットおばさま、明らかに失望の眼差しを窓に向けている。窓の向こうの、母親に。

失望されているとも気づかない母親は、私の返答に調子を取り戻した。

「そう……貴女は昔から自分が自分がと繰り返して。

だいたい、親のために尽くすのが子の務めでしょう。ハイド様がアリアさんに心変わりして、貴女との婚約を破棄したのも納得ね。――まったく、これが私の子どもなんて、……なんて情けない」

見当違いの言葉が、事情を分かっている人と母親の温度差をさらに深めていく。

ふう、と息をはく。

頬をたたいて気合を入れたかったけど、そんなことしたら音が響く。私はそっと両手で顔を覆うだけにした。

考える。どうすれば良いのか、どう動けば、この人から逃れることができるのか。

息を深く吸い込んだら、一旦呼吸を止める。目をとじると、ひとつ、言葉が浮かんだ。

その言葉は、言っちゃいけない気がした。

だって、弱音だもん。――叶わなかった想いを、吐き出すのは、ただの恨み節だ。意味のないことだ。

でも、多分。

この状況を覆すためには、必要なことだろう。


「愛されたかった」

ぎょ、とその一言に私の部屋の人たちの視線が集まった。

「そうなりたいのなら、努力なさい」

優位性を得て、母親が笑う。帰りますよ、と言葉が続いた。

よし。


「でも、それはもう過去の話です」

さあ。

お母様には、一度キレていただかないと。



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