2 思い出す、乙女ゲーの記憶、転★生
前世の私の話をしよう。
私はずっと、のんべんだらり、平凡で並々の毎日。恋愛は枯れ気味の抑え気味。家族は優しく、時に厳しかった。そしてギャグを言い合ってはお互い寒いわ! と突っ込むのだ。
兄の反抗期はお互い大変だった。私は大学生だったので、図書室に入り浸っては友達と語り合った。社会人になったらカフェで愚痴をこぼした。
反抗期が長くて三十歳まで家出してたから、兄。
私? 私は一生実家暮らしだった。
ごめんねおかーさーーーん! あとついでにおとーーさーーん!! 兄はまあいいかな。うそうそありがとう、そしてすまん。
資格も特技もない私は、底辺の仕事で入った微々たる金で課金付きの乙女ゲームに手をだした。
出勤前後の三十分と、休日一日が至福の時間。死ぬ直後まで嵌っていたのが「恋する少女は無限大~魔法学園(仮)」、通称マカリ。
三十分毎に起きるイベント。五分でできるミニゲーム。やり込んで半日遊べる冒険エリア。
都合が良いほど主人公がサクセスするので、仕事の鬱憤をリフレッシュすることができた。乙女ゲームなので、各キャラのラブラブエンドで一旦終わり。次は強くてニューゲーム。プラスでマイルームでミニゲームやらガチャやら冒険エリアで遊べます。もちろんスチルも再生できるよ!
周回入ってもストーリー分岐が多いので、飽きることもなくてさ。友達とは趣味が違っていて、語り合えなかったのが残念だったけど、まあ見てて赤面するセリフもドン引きする場面も多かったから仕方ない。
実際、そういう層を狙っていたのだろう。そういって、まあつまり、仕事でも恋愛でもフラストレーションたまった女子ね。
都合のいいストーリーに、突っ込みながらも癒された。ミニゲームで頭も切り替えられた。仕事のイライラを冒険エリアのバトルで吹き飛ばした。そう、とってもいいゲームだった。ゲームだったよ……。その世界に暮らせたら楽しーだろーなーとも思った。
だからこの世界に転生したというのは、喜ばしいことだと思える。
私がライバル役のユーフェミアじゃなければな!
ユーフェミア。
ルートのほとんどを、ありとあらゆる手で邪魔する権力と美貌を兼ね備えた敵役。
平民の小娘に、家族と婚約者と友人を奪われて、ルートによっては復讐にその体さえも失う敵役。
ちょ、ちょ、ちょっと待って。と誰かは言うかもしれない。
この中世ヨーロッパを思わせる貴族社会で、王家の婚約者が平民になり変わるなんてシンデレラストーリーはありえないだろう。乙女ゲームが夢見てんじゃねえよ、なんて。
ただ、転生して分かった。さすがファンタジー。魔法の才能があれば、そんなことは関係ない。
この世界には、当然のように魔法がある。平民でも、何かしらの道具を利用すれば発現するだけの魔力は持っている。
でも。
道具に頼ること無く、自身で思い描いた力を発現するだけの魔力を持つ、というのは稀有な才能だ。そしてその才能を開花させるのは国益につながる。だから、魔法を使えるという才能を持つ平民を、自分の血統に引き入れるのは当たり前なのだ。――そのために画策する貴族も出てくるのも、この世界の当たり前。
そんな世界の中心で、現れたのは、莫大な魔力を持った平民の少女だった。
その名を「アリア」。
可哀想な彼女は、亡くなった両親の希望もあり、自分の魔法の才能を生かそうと魔法の特別学科がある王立学園の生徒になる。
努力をしながら、魔力を磨き、才能を開花させた少女。
この世界には、ファンタジーらしく精霊もいる。魔力が多く宿る人間は、精霊と契約する確率も当然高くなる。ええ、うちの母親みたいに。
火、水、風、木、土、光、闇。――時空魔法とかイレギュラーパターンのやつは光か闇の属性として扱われます。
魔力持ちつおい、精霊持ちさらにつおい。そんな世界。
で、魔力持ちやら精霊持ちは貴族が多く、平民は少ない。それは先祖代々からの精霊との契約だったり、教会への寄進・祈祷だったり、英才教育だったり、魔力持ち優遇血統主義のおかげだろう。魔力高い平民はそのほとんどが貴族に養子入りか嫁入り致しますし。
学園に通う王子様もその他の成績優秀者も、天真爛漫で清廉潔白、少しお茶目であわてんぼう、失敗してもめげずにトライする彼女にメロメロになった。
青春を謳歌する彼らには、伸び悩む程度の悩みがあり、それを救う能力を彼女が持っていた。
そうだよね。
乙女ゲームだからね!
どうりで。
ああ、今思えば。
彼女、おかしかった。努力が全部報われるのだ。
乗馬の授業で初日に失敗しても、一週間後には一番気難しい馬を乗りこなす。
女性との茶会で礼儀作法を間違ったのに、王子との茶会では失敗なんてしなかった。
異常な成長速度に加え、失敗した時先生が不在や理由のよくわからない延期等、運も彼女に味方した。
(運っていうか、きっと精霊)
――前世の記憶を取り戻した私は知っている。あの女には、光の精霊王の加護が付いているのだ。
で、結果悪役の私ですが。
魔力もないくせに、そんな主人公のこと根に持って、自分が身につけている貴族の教育を武器にいじめました。
で、加えて前述した通り、水かけたり、泥の上歩かせたり、服破いたりしました。
そう、水かけたり、泥の上歩かせたり、服破いたり。
――いつの間にか魔法持ちの生徒けしかけて大怪我させようとしたとか、茶会で王子ごと毒を盛って昏睡させようとしたなんていう罪が諸々加わってたけどね。
全部が嘘じゃないし、罪を確かめるべき人は私を信用しなかったし、私は私でもういっぱいいっぱいで、そんな状況での断罪に心折れて自殺未遂をしたわけだ。




