1 目覚めたらゲロまみれ
鏡に映して確認するまでもない。私の服は吐瀉物にまみれてドロドロだ。見るに堪えない。この白を基調としたワンピース・ドレスは学園の制服で、カスタマイズも自由にできる。私は好きな色のガウンを重ねるスタイルをとっていた。水色と黒の装飾に、赤いレースがチグハグかわいいガウンは、ドレスと同じく吐瀉物にまみれ、埃がベタベタといたるとことについている。ああ、勿体ない。
とりあえず酸の臭いもひどいし、魔法で水分を分離させて、粉状になったそれを払った。
毒薬と吐瀉物で張り付いた喉は、うまく動かない。少しひりひりする。
「あ、……あー。大丈夫」
小さく声を出す。十日ぶりの声は少ししゃがれて聞き取りにくい。
伸びをする。体はきしむ。ベットから落ちて、床に寝転がっていたからだ。
ガンガン、頭が痛い。脱水症状のせいかも。
格子付きの窓から日差しが差し込んでいる。埃の積もった部屋なので、私が起き上がった拍子に舞ったそれがキラキラと筋を作って漂っていた。部屋の端にはカビ。放置された食べ物が腐敗して蝿が湧いている。トイレはせめても別部屋だけど、衝立の向こうから異臭がただよっている。
吐瀉物放置で三日三晩の意識不明、ごはんなし。
前世であれば、すぐに衰弱し、悪くすれば死ぬ状況だけれど、私の体はやせ細る以外の異常が見られない。こわっ。
どうしてかと言うと、母親の契約する、精霊の加護の恩恵を受けているからだ。あの人は母親が火と氷の精霊に愛されている。
だったら、最初からちゃんと仕事しろよ。死にかけたわ。
愚痴を口に出す前に、ムリだと心の声が返る。
それよりも現状をなんとかしよう。
とりあえず、ゲロったところから抽出した水は飲むこともできるけど、なんか嫌なので鉄格子付きの窓の外に捨てます。外に木があるから、そこから抽出した水をコップに貯めて飲むことにします。ギリギリ届く距離。ちょっとホットにしとこう。火の魔法で直火焼き、ジュウ。
「ふう」
久しぶりの水は美味しいです。水面に何も浮かんでいないのがもっといい。
贅沢を言えば香り付けのハーブも欲しいところだけど、目に見える範囲にないので仕方ない。あと毒薬とかただの草と見分けがつかない。幽閉部屋は一階で近くに木が見えているのは確かなんだけど。
ホットウォーターからは湯気がたちのぼる。
ちなみに空調の魔法はオフでこの寒い時期に吹きさらし状態です。ここ、ちょっとどころじゃなく寒いです。精霊の恩恵のお陰で凍死はしないけど、凍傷にはかかるので、怖くて石畳の床を避けて汚れとカビ付きのベッドに座る。ダニノミは幸いいない。
そっとシーツの端を持って力を入れると、汚れは解けて消えた。
「あら」
もしかしなくても、魔法がスムーズ。
いつもはもうちょっと手間がかかるのに、私の思うとおりになってくれる。あら嬉しい。
この調子ならカビも消えるかも。でも、それを外の人たちに知られて面白半分に水とかかけられても嫌だなあ。そっとペチコートの布切って簡易マスク作ろう、そうしよう。いつまた母親の機嫌が悪くなって、私への恩恵が切られるか分からない。お母様は偉大だから。




