プロローグ
婚約者に捨てられた。
捨てられた挙句、疎まれた。
家族は元々、私を疎んで――いや、視界になど入れていなかったから、そんなことをされたらたまらない。
愛されたあの子は、横でぴよぴよと小鳥のようにさえずっていた。
さえずる言葉は、私には理解できない。私は小鳥ではないから。
小鳥を愛でる、飼い主でもないから。
ただわかったのは、婚約者――元、婚約者が敵意と、阻害と侮蔑の目で私を見ていたこと。
私が信頼していたはずの人々の裏切り。
すがりつこうとした家族の白い目。
守ろうとした者の反逆。
なすがままに取り残され、蔑まれた私は、恥を誰にも晒さぬよう、家族の手によって監禁された。
ああ、なんと無意味な一生であろうか。
そこで一度、私は私を殺そうと、毒薬をあおった。
致死量に至らなかったのか、それは三日三晩体を焼き、悪夢を見せた。
そして、その悪夢の先にキラキラと光るものがあった。
「おかしくない?」
誰かの口が動く。
なにが? だれが? どこが? どうして?
どうして私がずっと抱えていた違和感を、貴女が知っているの?
「だって、おかしいもん」
ほら、とその人が指をさす。
向こう側に、ひび割れた光。卵の殻のように、薄く剥がれ落ちて中身があふれてくる。
それは、前世の記憶だった。
私は日本からの転生者でした。
そんでもって、乙女ゲームだよねこの世界。
だって魔法があって、ここ五十年間ないイケメンパラダイスの学園に、いつの間にか加わった平民少女があれよあれよと美女になり、イケメンを落としまくり、最終的にこの国の王子とラッブラブで、おーっほっほなキツめの婚約者を蹴落として結ばれるんだものね。登場人物の名前も同じ。
「『マカリ』じゃん……」
ふらふらの体を引きずって、鏡の前に立つ。
筋力がないから、そばにある机を支えに、よじ登るみたいに立ち上がった。
鏡に映る自分は、お世辞抜きに、すごく、きれいで可愛かった。
――目の下に隈がついて、睨みつけるようなその表情に、鬼気迫るものはあったけど。
このキツめの美人的な顔立ち、体調を崩し、床に伏してもいまだ編み込まれた絹糸のような髪は水色と灰色のグラデーション、透明感を持つ――うすら青くて不健康な白い肌、紫色の凍った瞳。
はい、どう見ても悪役令嬢「ユーフェミア」です。
はいはいはいはい。
主人公「アリア」に水かぶせたり、服破いたり、泥まみれにして笑ってたあの悪役令嬢ね。
あー。
あーあ。




