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さよなら、ニートくん  作者: あきやま
6/7

6

 玄関のチャイムが鳴る音で、目を覚ました。時計をみると、十時半をすぎていた。


 昨夜、黒い影が立った位置には、人志が掛けておいた兄のコートがあった。なんとなく、昨夜の黒い影が言いたかったことが、飲みこめたような気がした。


 間を置いて、ふたたびチャイムが鳴ったので、隣室までいき、カーテンの隙間からのぞいた。あの女と、息子が立っていた。


 息子は、雪玉をつくって投げていたから、川に落ちたことによる影響は、さほどでもなかったのだろう。


 歩くと、足の裏が痛かった。傷の痛みだけではなかった。冷たい道路を裸足で歩いたから、霜焼けになったのかもしれない。


 兄のコートを着て、玄関のドアを開いた。


 息子をながめていた女は、その音に気づいて、ふり返った。人志の顔を、じっとみつめると、かすかに笑った。


「あの、大丈夫ですか。なんともなかったですか」


「ああ」


 女は、息子を呼んで、ひきよせた。


 ひきよせられたほうは、どこか不満そうな顔をしていた。


「息子も、おかげで、この通り。検査の結果も異常なしでした。病院に一晩泊まっただけで、帰ってもいいって」


 人志はうなずいた。


「ちゃんと、お礼を言いなさい」


 耕太郎は、母のコートの裾をつかんで、もじもじしていた。


「ほら、早く」


 母にうながされ、やっと頭をさげる。深々としたお辞儀だった。


「助けてくれて、ありがとうございました」


 母親に言い含められてきた言葉なのか、耕太郎は一息に言った。


 なにか返事しないければいけない気がしたが、人志にはうまい言葉が思いつかなかった。


「ああ」


 ただ、呻くように言った。


 人志はポケットに握りしめていた二万円を差しだした。女は、なにか言いかけたが、黙って受けとった。


 女は表情を変えた。


「和子さんから連絡ありましたか」


「いや」


「警察からは?」


「ない」


 女はため息をつく。


「ほんとうにどうしたんでしょう」


「頼みがあるんだけど」


「なんですか」


「日光まで乗せてってほしい」


「日光?」


「うちの母親。たぶん、そこにいったんだと思う。昔、住んでいたとこ」


「どうして、わかったんですか」


「いや、たぶんだけど」


 女は笑みをうかべた。


「わかりました。いきましょう」


「間違ってるかもしれないけど」


「そのときには、観光でも」


 ガソリンスタンドから、母親が通ったという国道128を選び、千葉を縦にすすんでいった。


 国道には、路肩に積まれているくらいで、残雪はほとんどなかったが、林や家々のあいだの狭い道に入ったときには、まだ、たくさんの雪が残っていた。


 車は硬くなっている雪を、じゃりじゃりと踏みつぶしながら走った。


「おにいちゃん、あれ、なに?」


 東金を過ぎたころ、少年からそう話しかけられ、人志は戸惑った。昨日は、おじさんと呼ばれていたはずだった。子どもながらに、助けられたという思いがあるのかもしれなかった。だから、おじさんとは言わず、親しげにも話しかけてくるのだろう。


 黙っているわけにもいかず、人志は、わからないとだけ言った。実際、大きな赤い傘をならべたような建物の正体は、人志にはわからなかったのだ。


「大人のくせにわからないの? 幼稚園の先生なら、みんな知ってるよ」


「そうか」


 ふと、目をあげると、ルームミラーには、笑うような美津子の目があった。


 千葉の空は青かったが、茨城との県境をすぎたころからは曇天だった。


 通りすぎる家々のなかには、人志の家のような古く、小さな家もまれにあったが、どこにも生活感がなかった。たまに、洗濯物を干しているそんな家があると、住人がどんなふうに生きているのだろうかと気にかかった。


 カーナビによると、車は利根川沿いを走っていた。土手にずっと隠れていた川面が、橋の手前のあたりからみえてくる。


「大きい川だね」


「うん」


 人志はうなずくだけした。無視することはできなかった。


「落ちたら死んじゃう?」


 少年は、そんなことを言う。昨日のことを思いだしたのかもしれなかった。人志の袖をぎゅっと握っていた。昨日の川よりも、はるかに大きな流れだった。


「死なない」


 と、人志は答えた。


「お昼、どうしましょう」


「俺はいい」


 女はコンビニで車をとめると、息子のぶんのおにぎりと飲みものだけを買ってきた。


「急いだほうがいいですもんね」


 すぐに車をだした。


「これ、やって」


 耕太郎は、おにぎりを人志に差しだす。おにぎりの海苔を巻いてくれと言うらしかった。


「ああ、ごめんなさい。海苔が巻いてあるやつにしたらよかった」


 車は、一面の田畑のなかを走っていた。


 人志は、昨日、少年に、ずっと風呂に入っていない話をしたはずだったが、もう忘れてしまったか、年齢的に汚いことへの嫌悪感が少ないのかもしれないと思いながら、海苔を巻いてやった。


 手は洗っていたが、それでも、海苔に触れないようにしたのは、自身が、自分を汚れていると思っているからだろうと、他人事のように考えた。


「ありがとうございます」


 女はルームミラー越しに、礼を言う。人志は、きこえないふりをしていた。


 畑の道はしばらくつづいた。こんなにも畑があるのかと思うほど、延々とひろがっていた。晴れていたら、きもちのいい景色だったかもしれないが、空はどこまでも、黒い雲に覆われていた。


 小貝川を渡るあたりから、ぽつぽつと建物が増えていった。だが、それも一時的なもので、すぐにまた畑の道となる。


 やがて、右手前方には、こんもりと土を盛ったような山がみえてくる。位置的に、筑波山だろうと察しがついた。


 小学校の低学年のとき、遠足で登ったことがあった。飾り気のない母の弁当を、皆と食べるのが恥ずかしくて、一人で食べたことを覚えている。


 母親が、前日から準備してつくってくれたことはわかっていたし、皆の弁当のように、トマトやレタスで飾られていないというだけで、人志にとっては、不味い弁当ではなかったのだが。


 出発から二時間もするころには、耕太郎は、人志に寄りかかって眠ってしまっていた。

 人志は、窓の風景をながめつづけていた。


 ずっと運転している女に、ねぎらいの言葉ひとつでもかけるべきなのかもしれなかったが、なんと言っていいかわからないのだった。


「ごめんなさい。耕太郎」


 子どもが寄りかかって寝ていることを言うらしかった。


「いや」


「昨日のこと、ほんとうになんとお礼を言ったらいいか。もし、幸田さんが助けてくれなかったら、どうなっていたか」


「うちの母親がいなくならなかったら、落ちるようなことなかったよ」


「私、この子がいなくなったら生きていけません」


「でも、生きていくよ、きっと」


 美津子は一瞬、黙った。


「ええ、そうかもしれません」


 その後は、もうなにも言わなかった。


 鬼怒川を渡るとまもなく、車は栃木県に入っていく。


 北にむかうに従って、道端に積みあげられた雪の量が増えていった。一度は、道に転がり落ちていた大きな雪の塊を踏んで、車は挙措を失いかけた。


 国道121号を走っていた。


 鹿沼市をすぎたあたりからしばらく、杉の並木がつづいた。窓を格子のように流れていく巨大な幹をながめて、人志は思わず上をみた。梢がどうなっているか、みたいと思ったのである。だが、当然、みえたのは、車の屋根だけだった。


 茂原から四時間半ほどかかって、ようやく、日光市に入った。解け残った雪が、町のあちこちを埋めていた。


「詳しい住所ってわかりますか」


 人志は携えてきた、叔父からの年賀状をみせた。女は、カーナビに、それを入力した。


「まだ、十キロ近くありますね」


 引っ越す前に住んでいた土地は、市街地から西にはずれた、小百という辺鄙なところだった。ほとんど田畑で、住宅は数軒ごとにかたまって、そこここに散らばっているような、町とも言えない町だった。


 人志は小さかったから、当時の記憶はほとんど残っていない。大人になってから、インターネットで調べて、記憶を補強したのである。


 街を離れ、道が狭くなるに従って、積もった雪のために進むのが難しくなっていった。


 ついに諦めて車をとめたところでは、道端に立てられた交通安全の幟が、半分近くも埋まって、先端だけが、風にばたばたと音を立てていた。


 ずいぶん、風が強いらしい。時折、吹きあげられた雪が、風景を白くしていた。


「俺、ここから歩いていくから」


 母親の叔父の家まで、もう一キロもなかった。


 ドアを開けると、風は雪をともなって吹きこんできた。


 寄りかかっていた耕太郎を、そっとシートに寝かせようとしたが、目を覚ましたらしかった。


「ついたの?」


 目をこすっていた。


「私も一緒にいきます。車、端にとめてきますから待っていてください」


 人志は車をでた。ドアを閉めようとすると、耕太郎も降りてきた。


 辺りはどこまでも真っ白で、人影ひとつなかった。


 舞いあがった雪粒が、横から吹きつけてくる。頬にあたると、痛いくらいだった。雪は、足もとから降っているのだった。


「寒いね。びゅーびゅーっていってる」


「ああ」


 美津子は、耕太郎のコートと、ビニール袋をさげてもどってきた。


「これ、着て」


 耕太郎にコートを着せると、頭にフードをかぶせて紐を結んだ。足には二重にしたビニールを履かせ、しばってから輪ゴムでとめる。


「なに、これ」


 耕太郎はふしぎそうにしていた。


「靴のなかに雪が入ると、霜焼けになっちゃうでしょう」


「霜焼け、痛いよね」


「そうね。長靴持ってきたらよかった」


 美津子は、人志にもビニールを差しだした。


「幸田さんもよかったら」


 人志は断って、歩きだした。


「僕もいらない」


 ふり返ると、耕太郎がビニールを脱ごうとしている。


「ダメよ。霜焼け、嫌でしょう?」


「平気だよ。邪魔だし」


 人志は、なかなか言おうとしても言えず、三度目に、やっと言葉にした。


「お母さんの言うことをきかないとダメだろ」


 耕太郎は、じっとみていたが、人志が歩きだすと、そのあとを走ってついてきた。


 朝に凍って昼に解けかかった雪は、歩き難くはなかった。重ねたビニールでも滑らないようだった。


 ただ、横から吹きつけてくる風と、飛ばされてくる硬い雪の礫には困った。


 人志の一歩に対し、耕太郎は二歩、三歩と使っていたが、泣き言を言わずについてきた。


 この母子といると、しきりに幼かった日のことを思いだすのだった。


 鐘の音をききながら帰った夕焼けの道や、インフルエンザで高熱をだし、頭のタオルを換えてもらったときのこと、母親の買ってきたTシャツを同級生に馬鹿にされて、母に泣きながら投げつけたときのこと。それから、兄の火葬のとき、ずっと泣いていた母親の背中も。


 人志は、ときどきふり返って、美津子の姿を確かめた。コートの襟を立てて、一歩一歩踏みしめるように歩いてくる。


 千葉から四時間半も運転してきたのだから、人志よりも、ずっと疲れているはずだった。女は、赤の他人のために、それをしているのである。


 馬鹿だな、と思った。人志の母親なんかのために一生懸命になったところで、なんの得もないのに。


 耕太郎は、三十分近い道を歩き通した。親戚の家の前についたときには、白い息を吐きながら、肩を上下させていた。


 人志は、つい、その頭に手を置いた。それから、すぐに馬鹿なことをやっていると思い、急いで手をひっこめた。


 辺りには、もう黄昏の色があった。


 玄関に立った母親の叔父、血でいうなら人志の大叔父は、突然現れた又姪を、驚きの顔でみた。


「母親が来なかったかと思って」


「一昨日に来たが」


「帰って来ないから」


「昼を食べて、二時すぎには帰った」


 人志が頭をさげて帰ろうとすると、大叔父は追って庭まででてきた。美津子と耕太郎をみて、もっと驚いた顔をした。


「電話は?」


「通じない」


「警察には?」


「話した」


「その人は?」


「母親の会社の人」


 大叔父は、美津子に頭をさげると、老いた指で西をさした。


「雪が降ってきたんだ。だから、毘沙門山のほうを通って帰るように言ったんだ。ずっと、近道になるから。まさかとは思うが」


 大叔父はチェーンのついたバンをだしたきて、乗るようにと言った。


 しかたなく、人志は助手席に座り、美津子と耕太郎は後ろに乗った。


「まさかと思うが」


 車をだしながら、大叔父はもう一度、おなじ言葉をつかった。


「そんな危ない道じゃない。だが、雪の降りが急につよくなったから、ノーマルタイヤではどうかと心配はしていた」


 細い道は、いくつかの轍はあったが、どこまでも深い雪のなかだった。チェーンを履いた大叔父の車は、ジャリジャリと音を立てながら、固くなった雪を、平然と踏んでいった。


 道の東には、山が迫っていた。苔むしたコンクリートの擁壁で、その上方に、高い杉の木が屋根のように茂っている。逆に、西側は落ちているようだった。ガードレールのむこうには杉の幹がならんでいるが、根もとはみえなかった。


「ガードレールに壊れたところがないか、よくみておくんだぞ。俺が右をみるから、人志は左をみててくれ。後ろのお嬢さんも、お願いしますね」


 母親以外の人間に、名前を呼ばれるのは、中学校以来のことで、なにかの棘にでも触れたような、嫌な感じがした。


「僕は?」


 耕太郎は真剣そのものだった。


「ああ、ぼうやも母さんとおなじようにみててくれ」


「ぼうやじゃないよ。耕太郎だよ」


「ああ、そうか。わるかった。耕太郎もみていてくれ。頼むぞ」


 ガードレールは雪に埋もれて、ところどころがみえなかった。


 道は、西側に擁壁があらわれたり、両側が落ちたりと目まぐるしく変化した。しかし、どこまでいこうと、辺りが厚い雪に覆われていることには違いはなかった。千葉とは比べものにならないほどの量が、ここでは降ったのである。


 大叔父はヘッドライトをつけた。もう夜が、すぐそこまで来ていた。


「和子の車は、白だったな」


「ああ」


 返事のしかたもよくわからず、人志はただうめいた。


「よりにもよってなあ」


 大叔父はまるで、母親の車が、雪に埋もれていると決めてかかっているような言い方をした。母親が家出するはずがないと、美津子とおなじように、大叔父も考えているのかもしれなかった。


「あ、今の」


 女が声をあげる。大叔父はあわてて、ブレーキを踏んだ。


「なにかあったかい」


「ガードレールが曲がっていたんです」


 大叔父は、車をゆっくりとバックさせた。


 たしかに、大きなカーブの外側のガードレールの端が曲がって、隣接するガードレールとのあいだが押しひろげられていた。それでも、間隔は一メートルもない。


「場合によっちゃ、すきまがなくったって落ちるんだ」


 大叔父は独り言をつぶやきながら、車を降りていった。そのときになって気づいたが、膝近くまである長靴を履いていた。


 人志も車をでた。女と耕太郎も降りる。斜面の下を睨んでいた大叔父は、人志をふり返って首をふったが、その先まで歩いていった。


 しばらくいくと、ぼんやりと立ち止まって、人形のように動かなかった。追いつくと、大叔父は黙って指をさし、女は、小さな悲鳴のような声をだした。


 十数メートル下、雪に半ば埋もれて、杉の木々のあいだに、白い軽自動車は横倒しになっていた。


 母親のものとおなじ型だった。


 フロントガラスが割れ、雪がなかにまで押し入っていた。動悸をおぼえながら、人志はほとんど垂直に近い、雪の斜面に足をいれた。


「馬鹿。よせ。今、消防を呼ぶ」


 大叔父は車へともどっていった。


 人志は、雪のなかに一歩二歩と踏みだした。足を滑らせ、顔を硬い雪に打ちつけた。手がかりもなく、踏ん張りもきかず、一気に下まで滑落した。


 女の悲鳴がきこえた。襟から、尖った雪片が入りこみ、あまりの冷たさに身をよじった。


「幸田さん、大丈夫ですか」


 人志は斜面を仰いで、うなずいた。


 空は暗く、女の顔もぼんやりとしていた。隣に立つ耕太郎の顔のほうがはっきりとみえ、不安そうな表情をしているのがわかった。


 深い雪に苦労しながら、車のそばまでいくと、雪をかいて、ナンバーを確かめた。母親の車に違いなかった。割れた窓のなかをのぞきこむ。


 車は左を下にしていて、運転席は空っぽだった。助手席は、雪に埋もれている。


 人志はおそるおそる、雪のなかに手を突っこんだ。動くだけ動かしてみたが、触れるものはなにもなかった。


 ほっとしたものの、それなら、母親はどこにいったのだろうかと思った。


 勢いがついて落下したのなら、無事のはずはなかった。どこか怪我をしているかもしれない。そのために斜面を登ることができず、助けをもとめて、どこかへと歩いていったのかもしれない。


 車の周囲を探すと、足跡らしいものがみつかった。暗い杉林の奥へとのびていた。吹き抜けてくる風が、しなるほどに杉を揺らしていた。


 おそらく、母親は、雪がやむまでは、車のそばにいたのだ。だが、いつまでも経っても、誰一人、通らないから、ついに堪えきれなくなって歩きだしたのだろう。


 ラジオで、日光は今朝まで雪と言っていたから、それ以降のことだろう。朝から歩いて、未だに連絡がないのは、道にもどるルートを探しているうちに、山の奥へと迷いこんでしまったのかもしれない。


 携帯は、事故の衝撃で失くしたか、壊れたか、或いは充電が切れたのだろう。


 視界は、どこまでも、ひたすら真っ白である。母親が歩きだした朝は、もっと白かったに違いない。


 人志が足跡を追っていこうとすると、女の声がきこえた。


「もう暗くなりますから、助けが来るのを待ったほうがいいと思います。道に迷ったら大変ですから」


 人志は無視して、歩をすすめた。


「私」


 女の声は、なぜか叫ぶようにつづいた。


「中学のときにいじめられていて、ずっと、不登校だったんです。死にたいと思って、マンションの屋上までいったこともありました。でも、同級生の子が、励まして勇気づけてくれたんです。それで、私、生きようって思えたんです。その子、病気で、数年前に死んじゃったんですけど。幼い子どもを残して。私、その子のぶんまで生きなきゃいけないんです。それに、私、あのとき、死ななくてよかったって、今では思っています。死にたいくらい辛かったけど、生きててよかったって、死ななくてよかったって」


 女は、いつか、人志がラーメン屋で話したことを覚えていて、同情や義務感から、そんな話をするのだろうと思った。


 人生はいろいろだ。女のような人生だってあるし、兄のような人生だってある。人志のような人生だって。


 人志は、雪深い杉林のなかへと、歩みをすすめた。

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