第八十九話「選んだ道Ⅳ」
「霧原さん、これはどうするおつもりですか?」
「決まってる。さっきも言ったはずだ。あいつを助ける……それだけだ」
「ですが、その方法を分かっているのですか。いくら貴方が強くても、加減を知らなければ殺してしまいます!一度冷静になってからでも……」
「……それでもやれるだけの事はやるさ。それでも駄目なら、方法は一つしか無いだろうな。だけどそんな役目、お前らには出来ないだろうよ」
「貴方、まさか……!」
亜理紗は、歩いて行く零を止めようと手を伸ばした。
だがそれは何かに阻まれて、それ以上手を伸ばす事は許されなかった。
それは彼自身が、龍の力を使用した空間を作り上げたからである。
「悪いな。ここから先は通行止めだ」
「何を考えているんですの、貴方は……?」
「安心しろ。最悪の事態にはさせないし、させるつもりもないさ」
零は目を細めてそう言っているが、その表情には曇りが見えている。
そんな彼はすぐに息を吐いて、気を取り直して向き直った。
その視線の先には、光が見えない瞳をした未央が立っていた。
龍紋を発動させていて、徐々に意識の無い人形のように気だるそうに居る。
「……聞こえてるようには見えないが、一応言っておくぞ。手加減は出来ないし、するつもりも無い。これは経験上の話で、龍紋に飲まれそうになってる奴程、厄介なものなんだよ」
「……返して、パパも……ママも……あの子も……」
「悪いが、お前の過去を断ち切る事は俺には出来ない。その権利も無い」
「……」
糸に吊るされた人形のように、未央は彼を見据えて立っている。
彼女の内側に居るミネルヴァは、そんな彼女の身体と心を常に蝕んでいく。
その事を知っている零は、黒い大剣を構えて彼女の様子を伺っている。
「ウロボロス……今日だけは、お前を信用してやる。あいつの龍だけ喰らえよ」
そう呟いた瞬間、未央に動きがあった。
思い切り息を吸い、片方の瞳が龍眼となったその時だった。
悲鳴にも似た声を発し、彼女はその龍の力を発動するのであった。
「――――――!!!」
「ぐっ……そんな奇声を上げても、俺の心には響かねぇんだよ!」
「―――――――――!!」
「お前の声じゃなきゃ、叫んでも届かねぇんだよ!」
地面を盛り上げ、地割れを発生させる程の波紋。
その波紋は空気をも切り裂き、零の身体を徐々に傷付けていく。
だが零は剣を構え、飛んでくる岩や風圧を斬っていた。
「俺の声が聞こえてるなら、お前の言葉で声を出せ!!アイドルなんだろ?腹から声を出してみろ!!未央ぉぉぉぉぉぉ!!!」
そんな怒号を上げた零は、彼女の立っている真横の地面を大きく斬った。
零が放った斬撃は砂煙は撒き散らせ、周囲からの視界を奪って行った。
そんな視界の悪い砂煙が舞う中で、彼女の小さい声を彼は見逃さなかったのだった――。
「……助けて……零……!」




