第八百六十一話「共存する未来へⅥ」
「……」
目を開けた時、自分の居る場所を把握するのに数分費やす。
寝ていた感覚が視界を霞ませている間、周囲の気配を辿って状況を把握する。
どうやら、俺は深層世界へと意識を向ける事が出来たようだ。
「龍王様、お帰りなさい」
「ケルベロスか。半身状態なのにこっちに来て大丈夫なのか?」
「大丈夫。意識はご主人様の方でサポートしてるし、龍王様のお出迎えも大事だから」
「お、おう」
ニコリと笑みを浮かべたケルベロスは、俺の腕へと絡めてくっ付いて来た。
そんな様子を呆れた表情を浮かべて、リーヴァテインがこっちを眺めているのが目に入る。
溜息混じりにしている様子はあっても、もう文句を言うつもりは無いらしい。
俺を龍王として認めたのだろうかと思ったが、次の言葉で違う事を理解した。
「……相変わらずテメェは無防備過ぎだ。こいつはただの人間なんだ。不用意に引っ付くな」
「リーちゃん、ヤキモチ?」
「あぁ?」
何を苛立っているのか知らないが、怒りを露にしたリーヴァテインが首を傾げた。
そんな二人の様子を眺めながら、俺は目的を探し始める。
だが少し見回しても、目的の姿を見つける事が出来なかった。
「なぁリーヴァテイン、ケルベロス……」
「ん?」「あんだよ?」
「バハムートは何処だ?深層世界に来たはずだ」
そうなのだ。片目に宿したのだから、深層世界に来てるはずなのだ。
ウロボロスとの契約で刻んだ龍紋は残ったままだが、新しい龍紋が刻まれた様子は無い。
封印と契約は違う事は理解してるが、龍紋自体にも影響があると思っていた。
だが影響が無いという事は、バハムートとは契約してる事にはなっていないという事だ。
「あいつ、まさか俺の深層世界に立て篭もるつもりじゃねぇだろうな」
「何を馬鹿な事を言っている。世がそんな情けない事をすると思うのか?」
俺の愚痴に反応を示したバハムートは、俺の後ろから声を掛けて来た。
深層世界がそんなに広い訳では無いが、あまりウロウロとしないで欲しい所だ。
「――分かっているつもりだ」
「何がだ?」
「ウロウロするな、という事を思っている事をだ」
「俺の思考を読むな。お前の立場は今から把握してもらうつもりなんだ。ちゃんと言う事聞けよ?」
「あぁ、問題無い。その証拠に……世がお前の身体に入った際に起こる可能性の高い拒絶反応は、世自身が拒絶しておいたのだ。当然、お前の身体に影響は無いはずだ」
確かに影響は無い。龍紋が無いのもそれが理由なのだろう。
そんな事をする為に深層世界をウロウロしたのなら、正直に言って怒る物も怒れない。
まぁバハムートの立場上、俺の深層世界で暴れる事は無いと思いたい。
「んじゃケルベロス、リーヴァテイン……お前らにも聞いてもらうぞ」
「分かった」「チッ、分かった」
「お前も、ちゃんと把握しといてくれな。これからの未来の為なんだからな」
そう未来の為だ。
俺……いや、人間と龍が共存する未来にする為に――。




