第八百二十二話「欲しかったモノⅦ」
『オレの元へ戻って来いっ!!ハクッッッーーーーーーー!!!!!!!!』
……呼んでいる。
竜也の深層世界ではないのに、その声は良く響いている。
いや、この空間で響いているモノではない。
「どうしたの?」
「……声が、聞こえて……」
「声?……私には何も聞こえませんけど」
新しい龍王の妹には、この声は聞こえていないようだ。
つまりは、この声は自分の内側だけで響いているという事になる。
きっとそういう事なのだろう。他の者には聞こえない声。
その声は彼女に届かなくても、私は……ハクは良く知っている。
「……呼んでる」
「ハクさん?」
そう呼んでいるのだ。
今、竜也はハクの力を必要としている。
彼女の言う通り、ハクにも出来る事があるのかもしれない。
そう思える瞬間にもかかわらず、どうにも身体が動かない。
「……行かないんですか?」
「っ!?」
「……」
「声が、聞こえてるの?」
「いいえ、聞こえてません。けれど、貴女が今さっき言いました。『呼んでいる』と。ならば、その人の所へ行くべきだと思います」
「……行きたいよ。けど……身体が動かないの。ハクは、……リュウヤの力になりたい。役に立ちたいのにっ」
彼女に当たっても仕方がない。
だがしかし、それでもハクは動く事が出来ない。
出来ない状態から、動くようにするにはどうしたら良いのだろう。
そう考えた瞬間、彼女がハクの背中を押そうとしながら言った。
「私が言うのもあれですけど、自分が出来ると思った時に行動出来ないのは……とても悲しいです。でも今の貴女は違います。今からでも遅くは無いんです。恐くはありませんよ、きっとその人も、ハクさんを待っていますよ?」
「ハクを……待ってる?」
「はい。必ずそうだと私は思いますよ。(かつての私がそうだったから)」
「……――!」
だがしかし、動こうとしても意識しても動く事が出来ない。
その原因を理解しているかのようにして、彼女はハクの事を後ろから抱き締めた。
「大丈夫です。もう必要とされないという事はありませんから……勇気を振り絞って下さい」
「……(ハクが恐がってた?)」
それはつまり、自分で無意識に彼を恐れたという事。
それを自覚した瞬間、自分の中で何かが弾けるモノを感じた。
「ハハハ……」
「ハクさん?」
「ありがとう。ハクはもう大丈夫だよ、レイの妹」
「そうですか?なら私は、もうお役が御免ですね。いってらっしゃい、ハクさん」
そう言いながら、彼女は背中を押してくれた。
遠くなって行く空間と彼女を背に、光が見える方へと手を伸ばし続けた。
その結果、ゆっくりと開いた時には……彼の深層世界に居たのであった――。
「すぅ……はぁ……リュウヤ!」
「ハクッ!」




