第八百七話「最後の契りⅡ」
霧原零が戻って来た。それはその場に居た全員が理解した。
龍に反応する端末の探知機能ではなく、それは龍紋保持者と呼ばれる全員が感じた。
根拠は無い。だがしかし、それでも五感ではなく第六感のようなもので感じたのである。
――霧原零、セブンスアビスで最強の存在を。
「……あいつ、零なのか?」
竜也がそう呟いた疑問は、零だと分かっていても条件反射でも呟かずには居られなかった。
何故なら、龍化を見た事があっても今までの戦線でやったどの龍化よりも気配が違うからだ。
見た事があると言っても、全て代償を払う必要があった事もあり長時間する事は無い。
龍化したとしても、良いとこ五分~十分だったと彼らは記憶しているのだ。
「零坊やな。この空気はそうやけど、あの姿は異様やな。いつ見ても」
「問題はそこでは無いのだがねぇ」
「どういう意味や?ベルフェゴール」
ベルフェゴールの言葉の続きを聞く為、セブンスアビスの全員が彼を見る。
そんな中で、玲奈と紫苑はフランシェスカの事を瓦礫の下から引っ張り出した。
「大丈夫?フラン」
「玲奈、お姉ちゃん……」
「無事みてぇだな。つっても、安全な場所に避難した方が良いなこれは(出血が酷ぇな。小せぇ身体で良く耐えてるもんだ)」
「治療出来る?紫苑」
「出来なくは無ぇよ。だけどあたいだけじゃ、手が足りないな。おいベルフェゴール!不本意だが手伝え!そいつらにその問題とやらを話してから来い。玲奈、お前はこっちじゃねぇだろ。こっちは任せて好きにしろ」
「紫苑……うん、あんがと!」
玲奈にそう言うと、紫苑はフランを抱えて移動を開始した。
紫苑の言葉を聞いていたベルフェゴールは、やれやれと肩を竦めながら言葉を続ける。
「――問題は彼のあの状態がいつまで続くか、だ。しかも代償を払っているのなら、あの姿の代償は予想はし辛いだろう。一刻も早く決着を付けなければ、最悪の事態を招く可能性もある」
「そんな事はさせない!レイは絶対にあーしたちで助けるに決まってる!」
ベルフェゴールの言葉に応えたのは、玲奈だった。
微かに傷付いている彼女も、思い切った動きは出来ない状態だ。
だがしかし、それでも玲奈はその言葉をハッキリと告げた。
「玲奈、お前の意志は尊重したい。だけど、オレらは今龍紋が使えないんだ。そんな状態でどう手伝えって言うんだ?」
「それは……」
玲奈の行為を無駄にする訳では無いが、それでも不確定要素がある以上動く事は難しい。
その不確定要素を指摘した竜也の言葉に反応したのは、意外な人物なのであった――。
『じゃあ、我々が来たのは無駄では無いという事だな?』
「「「「っ!?」」」」




