表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ドラグニカ ~剣と契り~【1stシーズン】  作者: 三城谷
序章【龍紋を刻まれし者】
8/887

第七話「小さな溜息」

 自分自身が、『化け物』と云われた事があるだろうか?

平凡な日常を送っていれば、そんな事は決して無いだろう。

もし過酷な出来事を背負ったとしても、それが明らかになっても、関係というはそのままで居られるだろうか。

私はそれが心配で、今の今までその事を隠し続けてきた。

隠し続けて、我慢し続けた。


 ――私は、その化け物だ。


 そう思っている間、私と彼の間には大きな溝が出来てしまった。

それは『時間』と呼ばれる類のモノ。

過ぎていく時間。増えていく距離。加算されていく歳月。

その総てが、今の私たちを作り上げてしまった。


 「アンジェ?……これが私の持っている、アルバムの一つです。見ていただけますか?」

 「はい。拝見致します。……」


 彼女はそう頷いて、真剣な表情を浮かべながらそのアルバムを眺める。

一つ一つの視線には、当時の私と現在の私を見比べているように見える。

それは仕方の無い事だろう。かつての私は、本物なのだから……。

そして今の私は。


 ――ただの偽物でしかないのだ。


 「どうですか?実際に真実を見た感想は」


 私は首を傾げて、彼女を悪戯っぽく見据える。

その様子が悪かったのか、彼女は目を伏せて頭を下げた。


 「――まずは、謝罪を」

 「えっと……アンジェ?何故貴女が頭を下げるのですか?」

 「それは、無礼を詫びているのです。このアルバムの中には、彼の……お嬢様のお兄様との写真が多くありました。――がしかし、それは何故か途絶えていました」

 「はい」


 アルバムの前半。つまりは龍災前と後で、写真の日付に空白が存在している。

その空白が見て欲しかった証拠であり、限りなく血縁関係の有無を云わせる事の出来る物だ。

空白の時間は、数年。ページで云えば、数十ページにも及ぶものだ。

そのページを後にして、今の私の写真が現れるようになっている。


 「これを見たアンジェの見解、聞かせてくれますか?」

 「……僭越ながら、お嬢様。それは申し訳が」

 「お願い、出来ますか?」


 彼女の言葉を遮るように、私はそう催促する。

答えなんていうものがあるというのなら、この場合の答えは決まっている。

彼女の立場がもし、私と逆だったならば、私も同じ事をするからだ。


 彼女は、ゆっくりとその場で正座をし始める。

そしてまたゆっくりと、彼女は深く、深く頭を下げた。


 「――これは、私の家が勝手にやった事。つまりは貴女に、お嬢様と彼には、大変申し訳ない事をしたと心から謝罪致します。誠に、申し訳ございません。そして私たちを助けていただき……」


 やがて彼女は顔を上げた。その瞳には、小さな光の粒が見えた。


 「ありがとう、ございました」

 「あれは私が勝手にやった事です。こちらこそ、貴女も私の事情に巻き込んでごめんなさい」

 「お嬢様。貴女が私に謝る必要はありません。これは貴女の『代償』であり、本来は私たちが受けるべき対価というもの。私は、貴女の剣になる事を誓い、生涯を持って御守り致します」

 「大げさですよ。アンジェ」

 「――この命に変えても、御守り致します」


 涙混じりの声は、懇願のようだった。

これは恐らく、罪滅ぼしという事なのだろう。

彼女だけが責任を負う必要はないのだが、このまま何も言わなければ彼女は納得しないだろう。

彼女はそういう人間で、本来は私の敵になるはずの人間だ。

その彼女が、今こうして目の前で頭を下げている。


 「分かりました。改めて、宜しくお願いします。アンジェ」

 「はい、お嬢様っ」

 「でも私としては、彼の身も一緒に見守って頂けると嬉しいです」

 「善処致します」


 善処、か。写真を見たとしても、彼女にとってはまだ理解が及ばない所だ。

私の今の状態と、彼の今の状態には因果はない。

でもこれは運命で、宿命なのだろうと私は思ってしまう。

彼がまた龍に会った事とあの力を使った事は――。


 「所でお嬢様。本当に彼をこの場所で?」

 「ええ。あぁでも、私と彼が兄妹という事は、貴女にしか明かしませんので。くれぐれも内密に」

 「宜しいのですか?彼に告げなくても」

 「たった一度とはいえ、名前を呼んでくれた事。それだけで、あと数年は生きられます」

 「ご冗談は止して下さい。お嬢様の冗談は、たまに冗談にならないものがありますよ」

 「私は冗談なんて言いませんよ。これでも私、冗談はいつも嫌いですから」


 そう言いながら、私は机の上にある書類を眺める。

分厚い辞典のような本と数枚のカルテ。そして、男性用の制服。

その中の一枚の書類を眺め、私は一つだけ溜息を吐く。

そこには『ドラグニカ収容施設』と記されているのだった――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 前文から序章8部まで読ませていただきました。 主人公も含め、キャラクターの雰囲気が良く見て取れてイメージがつきやすく、前文もストーリーの展開にワクワクする文章でとても素晴らしいと思いました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ