第七百九十二話「交わされる取引Ⅶ」
「妹とは、あの者だろう?丁度、我から生き返らないかと誘ってたんだがな」
「そうなのか。と言いたい所だが、お前の予定ではどれくらいの命を授けるつもりだった?」
ケルベロスが咲とウロボロスを連れて、何処かへ行ってから数分後。
俺とフェネクスは言葉を交わしていたのだが、内容が意外にも被っていたらしい。
考える事は違ったかもしれないが、やろうとしていた目的は一緒だったのだ。
「とはいえ、先程の条件を飲めば良いんだ。それを含んでくれれば、お前の自由に命を授けてくれて構わない」
「命の期間を選ぶのであれば、龍と同じ基準になってしまうぞ。それでも良いのか?」
「それをあいつが望むのなら、それでも構わないさ」
龍と同じ寿命という事は、数百年単位の物になるのだろう。
人間がそこまで生きた歴史は無いのだが、それでも生き物の中で長寿生態になるだろう。
未来に一人だけ取り残されるという状態は、恐らく激しい孤独感に襲われるはずだ。
正直、兄としては心配という言葉に尽きるのだが……。
「あいつが望む事は、出来る範囲で答えてやりたい。それがあいつを護れなかった俺の責任だ」
「人間は責任という言葉が好きで困る。まぁ我には関係無いが、本当に龍と同じ寿命を望んだ場合はお前と同じになるな」
「同じ?何の話だ」
「ん?知らないのか?」
フェネクスは首を傾げて、俺へと視線を向ける。
俺が何を知らないというのだろうかと思ったが、龍については詳しく無い。
どれくらい生きて、どのように生きて来たのかを知らない。
だがフェネクスの反応を見た俺は、そんな事ではないという事を察した。
「知らぬなら教えておくが、龍王とはその名の通りに龍の中の王となるのだ。それは長い年月を経て、成立するものでもあるのだぞ」
「何が言いたい?」
「これでも分からぬのか。つまりは龍王とは、龍たちを統べる期間も必要となるのだ。それは龍と同じ時間、命を授かるのと同義。お前は人間を辞め、龍と同じ存在となるという意味と同じだ」
「……なるほどな。だからあいつらは、俺が人間を龍王にするのは否定的だったのか。龍が人間に統べられるのも、龍王に人間がなっても長くは続かない。それは安泰という文字から遠ざかっているという意味か。……」
「そうだ。それ故に、お前の役目が如何に大事なモノか理解出来たな?」
あぁ、理解は出来た。
だがしかし、俺からすれば龍王になるのはどうでもいい。
王になるつもりは無いが、これ以上の被害を被るのは勘弁したい。
人間側を護る為には、俺自身が龍王になるのが手っ取り早いのだ。
「あぁ……フェネクス、お前にもう一つ頼みたい事がある」
「何だ?次期龍王様よ」




