第七百八十三話「心に決めた相手Ⅷ」
「――少なくとも、ウチは頼りにしとるよ」
扇子で口元を隠しながら、そう言った神無。
微かに照れた様子で言っていた彼女だったが、そんな事に気付かずに竜也は言った。
「お前だけに頼りにされても、意味が無いような気がするんだが?」
「…………」
「な、何だよ……その目は」
ジトッとした目を向けた神無だったが、その視線の意味を理解出来なかった竜也。
彼女の心意を知らないので無理も無いが、それでも少しは感じ取って欲しいと思った神無だった。
だがしかし、彼女は文句は言わずに溜息混じりに言った。
「まぁセブンスアビスの中で、竜也を頼りにしてるのは零坊やろうな。ウチが聞いた話やけど、零坊はウチらに期待してる言うてたからなぁ」
「期待、ね。その割には、何も頼んで来なかったな」
期待をしてくれるのは有り難いが、それでも頼って来なかったのは事実。
セブンスアビスの頃から、彼は……霧原零という人物は何でも一人で実行していた。
失敗を恐れている様子は無かったが、特に失敗したという結果は事実生まれていない。
それでも、彼の指示に従った日には任務が失敗したという記録は一切存在しない。
優秀。一言で言えばそうなのだが、竜也たちからしてみれば不満はある。
「あいつは、オレにもお前にも頼ってる様子は無かったな」
「せやなぁ。思い返してみれば、何も頼られた記憶は無いなぁ。せやけど、頼られた事もあるんやろ?」
「まぁ、な。……確かにあるけれど、オレは少ないな。指で数えられる程度しか、オレはあいつから頼られた事は無い」
そう言いながら、竜也は目を細める。
遠い過去の記憶を思い出している様子で、竜也はやがて目を瞑り始める。
そんな竜也の背中を眺める神無は、扇子を閉じて溜息を吐いて言った。
「――ウチは全く無いなぁ。参謀とは言われてたけど、それでも指示を出すのはいつでも零坊やった。ウチが直接誰かに指示を出した事は、いつでも零坊の仕事だったなぁ」
「確かにな。あいつが一番、対巨龍戦線の事を理解してたしな。お前が指示を出せないんじゃなくて、なんとなくだけど指示を出させないようにしてたんじゃねぇか?」
「どういう意味や?」
「単純な話だが、あいつはセブンスアビスの小隊長として行動してただろ?それも毎日だ。それなら、余計な指示を出させたとして、それでもし失敗したら責任を問われるのはお前になっちまう。それを未然に防いでたんじゃねぇか?」
「……そうだったら良い話やな。せやけど、――ウチは零坊に頼って欲しかったよ」




