第七百八十話「心に決めた相手Ⅴ」
「……それで?ボクに聞きたい事って何かにゃ?李久きゅん」
寝ているアインを起こさないよう、ゆっくりと外へと出てから水無月栞はそう言った。
白衣で身を包んだ彼女の容姿はとても幼いが、高熱状態だったアインをいとも容易く看病した。
焦る事もなく、ただ冷静に……だがその様子を見ていた彼は、少し思う所があった。
「どうしてキミは、笑っていたんだい?」
「……?何の話かにゃ?」
「彼女が熱を出していたと分かった時さ。海斗は心配そうにしていたのにもかかわらず、キミは心配した様子も無かったし」
「単に看病するのが楽しかっただけにゃ。人のお世話をする事に対して、喜びを感じていたんだよ?」
首を傾げて、栞はそう言った。
まるでそれが当然であるかのように。
だが李久は目を細め、間を入れずに口を開いた。
「――それは嘘だね」
「……」
そう言われた栞は、傾げていたまま笑みを浮かべて言った。
「どうして、そう思うのかにゃ?」
「特に理由なんか無いよ。ただそう思っただけさ」
「ふうん……」
そんな李久の言葉を聞いた栞は、その様子を見てトコトコと彼に近寄る。
彼の周囲をぐるぐると歩きながら、やがて一周してから笑みを浮かべた。
「……まぁ、当たってるけどね」
「っ!?」
栞は外から戻ろうとした時、振り返りながら言った言葉に李久は目を見開いた。
動揺する程の事でも無いと思っていても、彼はそう反応せざるを得なかった。
何故なら、彼女の表情がとても――不気味だったからである。
「……(空気が変わった?)」
「確かにボクは、あの子の看病をする前に笑ってたかもしれないね。これは勘違いしないで欲しいのだけど、ボクは研究者であって医者じゃないんだよね」
「だから笑ったのかい?」
「さぁ、どうだろ。ボクは自分については、興味が無いから。……それにボクが笑ったのは多分、嬉しかったんだと思うよ」
「どうして?」
「知っている?龍紋保持者っていうのは、その身の内側に龍を宿した存在を指す言葉なんだよ」
「あぁ、知ってるよ。それぐらいはね……けど、それは一般常識みたいなものじゃないか」
「そうだね。一般常識かもしれない」
栞の言葉を聞きながら、彼女自身が何を言いたいのかを理解しようとする李久。
だがしかし、ぐるぐると曖昧な会話をし始める彼女の感情を把握出来ていない。
それどころか、結局のところ何を言いたいのかが分からないままだ。
そう感じていた李久は、不気味と思った空気へと意識を集中させてみる事にした――。
「……(龍紋は無い。だけど僕には、一つだけ得意な事が出来た。どうして家の皆を殺し、海斗だけを残したのか。それはこの得意な事が、僕にそうしろと告げたからだ)」




